第17話  脚本家の麗子さん

 確かに僕のパソコンだ……。

 大事な設定や、調べもの保存がしてある大切なパソコンだ。


 僕は、パソコンを胸に抱きしめた。


「そんなに大事なものなら、持ってこいよ」


 おばさんは、低い声で言った。でも、この声は聞いたことがある?


 髪がボサボサの肩までのセミロングだけど、丸い大きなメガネをかけてるけど……麗って……麗って……。


「お隣の麗子さん!?」


「分かるの、遅すぎ」


 すかさず、頭に空手チョップが飛んできた。


「愛良が、隣のに二条家に行くところ位で気づけよ」


「無理ですよ。相変わらず無茶苦茶なことを言うんですね。小学生に煙草を勧めてきたでしょう!! 忘れてませんからね。あれから、僕は煙が大嫌いになりましたから」


「身体に悪いってことを教えてやったんだよ。と言っても私も当時、大学生だったが」


「ママ、すごーい!!」


 二ノ宮は、麗子さんのぶっとびぶりに慣れているようだ。

 隣の大学生だった麗子さんには、僕はイロイロといじられていた。

 まぁ、いじりと言っても悪意の有るものではなかったし、からかい半分、暇潰し半分であることは分かっていた。


 大学生になったばっかりで、児童小説の賞を取った麗子さんには、僕や愛良が格好のモデルになっていたらしい。


 脚本家になってたのは、知らなかった。

 それより待てよ……?


 僕は、二ノ宮と麗子さんの顔を見比べる。

 なんとなく似てるけど……。

 年が合わない!! 麗子さんは、僕が小学二年の時に、大学三年生だったはず……? (21-8=14)!!??


「二ノ宮!!君は、本当に麗子さんの子供か?」


「違うわよ」


 答えは簡単に帰ってきた。

 麗子さんのお姉さんの娘だったんだ。


「それより、真生。来てもらったのには、パソコンを渡すためもあったが、お前の意志も聞きたくてな」


「意志?」


 麗子さんの声がいっそう低くなった。


「その年で、大手出版社で賞を取るなんて才能があるんだなと思って。海龍寺のおっさんは、多分、自分のグループ企業にいれることしか許さないだろう?」


 その通りだ。


「真生?お前はもう、書かないのか?」


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