第3話  家を追い出される僕

「だから、地元の高校に行くってば!」


 僕はスマホを強く握りしめた。スマホの相手は、仕事で忙しいはずの親父だ。

 親父とは八年会ってなかった。


 だいたい、「ゴンちゃん」「マリエ」と今でも呼び合うほど仲が良いのに、八年前に二人は離婚している。僕は、マリエと共に親父のもとを去り、マリエの実家へとやって来た。小学校二年の時だ。

 離婚原因は、僕も大嫌いだったばあ様のマリエへの嫁いびりだったんだ。


『それで、お前は将来小説家にでもなるつもりか?』


 思わぬ言葉が僕の耳に飛び込んできた。


「まさか……」


『相変わらず、学校に行っていないのだろう?成績は良いそうだが、不登校なら、内申はあるまい。地方では、私立でもしれているだろう』


「何が言いたい訳?父さん」


 あえて、一番嫌がる呼び方で読んでやった。

 スマホを落とす音が聞こえてきた。

 それと共に、一段小さくなった声で


『二人の時は、パパで良いんだよ。真生まき君』


 僕は、大きく息をつく。

 なんでこの人は、僕とマリエにはこんなに大甘なんだろう……。

 これでも大企業グループの総帥なんだぞ。

 親父のもとには、長男である兄貴が跡取りとなるべく残された。

 俺は、マリエが離さなかったせいもあるが、大嫌いなばあ様のもとから逃れられたくて、マリエの実家、A県のT市に身を寄せたんだ。


「僕は、もう15歳です。自分の進路は自分で決めます」


『マリエの花屋を継いで、趣味で小説でも書く。か?」


 時々、この人と血縁者なのが嫌になるくらいに察しが良い。

 そんな事も頭の隅にはチラリ浮かんでいた。

 マリエは実家に帰ってから、親父の援助のもとで花屋を開店していた。


「悪いですか?」


 と反抗気味に答えると即座に『問題が大ありだ!!』と大声が飛んで来た。


『海龍寺家に関わりのある、お前が地方の名も知れぬ高校へ進学して、そのまま、花屋になるなど言語道断!!これからは、お前の面倒は、我が家で見ることにした。部屋は用意してあるから、お前だけ来なさい。いいね。マリエに泣きついても無駄だよ。お前の養育期間は、15歳までの約束だったからな』


 僕が口を利けなくなっていると、後ろでマリエが恋人の謙さんと肩を組んで、ゴメンねポーズをしていた。


 僕がいなくなった後で、籍を入れる気なんだ。

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