第33話 13日の金曜日

 次男が退院して10日後の5月13日に、検査と診察の為にまた入院していた病院へ行く事になっていた。外来は午前中という事で、学校には遅刻する旨を届け出た。早めに学校に戻れるように、洗濯は後回しにし、早めに家を出た。

 次男と2人、雨が降る中出かけた。最寄り駅の手前で、学校のお友達にバッタリ会った。まあ、偶然ではない。次男がいつも学校に行く時間に家を出たのだから。

 そのお友達は、中高と同じ学校で、今は部活も一緒。先日のコロナ隔離の期間中に、学校の荷物などを届けてくれた子だった。あの時は対面できず、インターフォン越しに言葉を交わしただけだったが、この時やっとお礼を言えた。あの時、ちょうど年度終わりだったものだから、通知表や美術の作品など、たくさんの荷物を2~3回に分けて届けてくれたのだった。

 お友達とは学校の最寄り駅で分かれ、私と次男は病院へ向かった。この道を、次男は初めて通るのだ。私は何度も通ったのに。

 病院に着くと、かなり空いていた。大雨の予報だったし、まだ外来が始まったばかりの時間だったから。最初に行う血液検査とレントゲン検査は待ち時間なしで、サクサクと進んだ。だが、診察室のところでは、それなりに人が待っていた。どのみち、血液検査の結果が出るまで1時間ほど待たなければならないのだった。

 受験生で、その上定期試験まで1週間を切っている次男。当然勉強するのかと思ったら、スマホでマンガを読んだり、ゲームをしたりしている。

「勉強しないの?」

と、喉元まで出かかったが、辞めておいた。ここは静かなようでいて、あちこちで看護師さんと患者さんの会話があるし、放送で名前を呼ばれる可能性もある。集中するのは難しい。イヤホンをしてしまっては、名前を呼ばれた時に分からないし。やれるなら、やるだろう。もう高校生だから、その辺は本人に任せるしかない。

 私は、スマホにダウンロードした新聞を読んでいた。1時間ほどして、診察室に呼ばれた。そして、検査の結果、もうどこも悪くない、すっかり良くなったと知らされた。良かった、とても嬉しい。喜ぶべき事だったのだが、その後の先生の言葉で、なんだか喜びが消えた。その言葉とは、

「まだ、原因の食べ物は分かりませんか?」

え?原因の食べ物……?ストレスじゃなかったの?

 腸閉塞で入院したと思っていたが、この内科の先生は「腸炎」だったというスタンスだった。私は初めて会う先生だったが、次男とは入院中に会っていたようだ。まあ、抗生物質で治ったのだから、細菌性胃腸炎だったのだろう。その結果腸閉塞も起こしたのか、なんだかよく分からないのだが。原因の食べ物は分からないという事になったが、

「しばらく、気を付けてください。」

と言われたので、

「肉の加熱とかですか?硬い物とか、脂っこい物は気を付けなくて大丈夫ですか?」

と聞いたら、

「大丈夫です。肉の加熱と、あと野菜もよく洗うようにしてください。」

と。ガーン、ショック。何がって、私はそういうの、生肉の処理とか、野菜でも何でもよく洗ったりとか、すごく気を付けているのだ。人一倍気を付けているのだ!

「食べ物だけでなく、どっか触った手で何か食べたりしてもダメですけど。」

と先生が言ったら、

「それは、ありうるかも。」

と次男が言った。言ってくれた。つまり、出された食事のせいではなく、自分が勝手に細菌を取り込んでしまったかも、と暗に私をかばってくれたのだろう。

 でも、本当に食べ物だろうか?1年前は急に胃腸炎になったから、何か細菌を口に入れたのだろうと思うが、今回はずっとお腹が痛くて、それでとうとう腸閉塞を起こしたのだ。それなのに、前日に何か食べたからとは、とうてい信じがたい。

 何か聞いておきたい事はありますか、と聞かれて、次男はお腹がすごい音で鳴るのがなぜなのか、と質問していた。けれども、それは腸が動いている証拠だから、悪い事ではないという感じだった。鳴る音の大きさなどは、個人差があるからとか。そうなのかなぁ。

「あまり動いていなかった腸が、急に動き出したから大きな音が出たのでしょうか?」

と私が言ったら、

「ああ、そうかもしれませんね!」

と言ってくれたけれど……。その先生は市原隼人に似た、愛想の良い若い男性だったが、若干不信感が。ただ、次男は自らあれこれ質問していて、入院中にずっと診察してもらっていたから、けっこう懐いているようだった。初対面だと、あんな風にポンポンと質問はできない子だから。今のところ。ほら、社交性不安症だから。

 診察が終わって、支払いの前に次男は学校へ行った。自動支払い機での支払いは、けっこう分かりやすかった。クレジットカードを入れて支払った。この間の入院費用もこれで支払った。入院費用は9万6千円ほどかかった。

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