第30話 イレウス管

 やっとゆっくり、次男から入院中の話を聞けたわけだが、親の知らぬところで色々と苦労したらしい。

 腸閉塞は、医学用語でイレウスと言う。腸の一部が閉塞し、そのせいで腸が膨張してお腹がパンパンに腫れている状態。腸が動かず、その状態で食べれば嘔吐するし、食べなくても胃が苦しくて吐き気がする。そして、お腹が非常に痛い。

 救急車で病院に運ばれて、まず痛み止めの点滴を打たれ、血液検査とレントゲン検査を受けた。痛み止めのお陰で激しい腹痛は治まった。

 血液検査の結果、腸に炎症が起きている事が分かり、レントゲン検査の結果、腸閉塞が起きている事が分かった。そして、胃腸の圧を抜くために、鼻から胃へ管を通すという処置をされた。

 右と左、どちらの鼻の孔がいいかと聞かれたそうだ。よく分からず、何となく左になったらしい。管を飲み込みながら胃へ入れていくのだが、唾を飲み込むのも痛いし、もちろん気持ち悪い。管を入れ終わってそのまま固定されたのだが、

(本当に、これで正解なのか?)

というくらい、辛い状態だったそうだ。あの、処置室から出てきて、げっそりとして笑顔が消えていた時だ。荷物をどうするかの会話をした時、そんな状態だったのか。

 その状態でベッドに寝かされた。右を向いていればまだ何とかなっていたものの、左を向いてしまったら、ものすごく気持ち悪くなって、マスクをした状態で吐いてしまったそうだ。

 口の中に吐しゃ物がある状態で、ナースコールを連打した。しかし、もう間に合わず、床に吐き出したそうだ。そうしたら、胃から管が飛び出し、口から出てきたと。なんと!瞬時にはどんな状態か想像がつかなかった。すると次男が話を続ける。

(あぅ!鼻から入れたものが口から出ている状態!)

慌てて鼻から管を引っ張り出したそうだ。すると先生が来て、

「やっぱりまだ吐き気があるわね。吐き気がある内はイレウス管が必要だね。」

と言う。

(違うだろぅ!管のせいで気持ち悪いんだ!)

と思ったが、またイレウスを通す処置をする事に。

 今度は右の鼻の孔から入れてもらう事にした。そうしたら、するすると入って行くではないか!もちろん気持ち悪いのだが、唾を飲み込んでも痛くない。これなら吐かずにいられそうだ、と思ったそうだ。

 つまり、次男の鼻の孔は、右の方が大きかったのだ。初めて知ったそうだ。これを知っていれば、最初から右に入れてもらったのに、と彼は悔やんだ。私もそんな事は知らなかったし、自分の鼻の孔の事さえも知らない。それにしても、ずいぶん辛かったのだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る