第19話 会えちゃった

 やっと最寄り駅に着いた。ここで病院に電話を掛けても、誰を出してもらえばいいのかも分からないし、次男に聞いてもらえば私が今から行く事も分かるだろうし、掛け直すよりも行ってしまった方が早いよな。よし。

 と、1人で納得して歩き出す。まあ、電話が苦手なので掛けたくないというのが根底にあるわけだが。午前とは打って変わって日差しが強く、日傘を差して歩いた。日傘を差していると、片手でスマホのナビを見ながら行くのがしんどい。だが、まだちょっと自信がないので一応見る。ここで道を間違えて遅くなると困るし。

 途中からはナビなしで行けた。だいぶ道を覚えたようだ。そして、今度は変な細い道というか、隙間は通らず、もっと分かりやすい道で行った。

 再び病院の入り口で検温などを受け、またシールを貼られた。そして、意気揚々とエレベーターを探す。が、分からない。あれ、そうか。昨日とは入り口が違うから、もう全然分からない。お手上げだ。

 その辺に立っている看護師さんに、

「南病棟にはどうやって行くんですか?」

と聞いたら、その看護師さんは別の看護師さんに、

「ご案内お願いします。」

と言った。最初の看護師さんは、この病院の人ではないのかな。

 そういえば、この1階の雰囲気が、午前と午後で全く変わっていた。午前は患者さんが椅子に座って呼ばれるのを待っているという感じだった。お年寄りが多い雰囲気で。しかし、午後は白衣を着た若い人たちが椅子に座っていたり、話し合ったりしていた。医学生だろうか。それとも研修医とか。

 案内をしてもらって、昨日見た食べ物の自販機のところのエレベーターにたどり着いた。これで3階へ行くようにと言われた。後は地面に矢印が書いてあるからと。

 3階へ行き、南病棟と書いてある矢印に従って進んだ。やっと来られた。1時半だった。

 ナースステーションに荷物を預けるようにと夕べ言われていたのだが、そこに医師と思われる若い男性がいて、こちらを見ている。もしかして、電話をくれた人かな。

 受付で名乗ると、やはりその男の先生が待ってましたとばかりに迎えてくれた。ナースステーションから出てきて、

「検査の同意書が必要でして。あ、病室で話しましょうか。」

と言う。え?病室に入っていいの?あ、次男は今いないとか?

「はい。」

そう答えて先生に着いて病室に入って行くと、なんと次男がそこにいた。

「会えちゃったね。」

と、2人でちょっと笑う。

 先生は、これからする検査について説明してくれた。造影剤を点滴して、一瞬にして全身に造影剤が広がるので、その瞬間にCT画像を撮るのだとか。一応造影剤を入れるという事で、アレルギー等が稀に起こるので、同意書が必要。患者が未成年なので、保護者の同意が必要なのだそうだ。

「その造影剤はどこに入れるんですか?腸ですか?」

「血管です。」

「ああ。それで、どのように排出されるんですか?」

「尿として出てしまいます。」

なるほど。それなら辛くなさそうだ。ま、何を聞いても大抵同意する事になるのだが、一応疑問点を聞いてみた。そして、同意書にサイン。

 先生は、病気の事も説明してくれた。

「腸が閉塞して、言ってみれば糞詰まりの状態だったんですけど、今朝お通じがあったという事なので、腸閉塞は解消したと思われます。これからCTで問題箇所がないかどうか、詳しく診ていきます。」

「え、下痢があったのに、閉塞していたのですか?」

私は驚いて聞いた。だって、下っていたのに糞詰まりって……まさか便が原因だなんて。

「そうです。」

と、先生。何がどうなっているのだか。

「腸は、リラックスしていないと動かないんですよ。強いストレスとか、緊張状態が続くと、腸が全く動かなくなってしまう事があるんですよね。」

おう!それか。それなんだな。下痢との関係には疑問が残るが、閉塞の原因に関しては、やっと納得のいく回答が得られた。

「もし、CT検査の結果が悪いと、次男君の苦手な鼻からチューブをもう一度入れなければならないかもしれません。緊急の検査なので、空いた時にやるので時間が分からないんですが、お待ちいただいても結構ですし、お電話で結果をお知らせするのでも大丈夫です。」

と、先生は続けた。私はすぐ帰るつもりだったが、検査になるまで次男とここで過ごせるのかな?

「あの、息子と少し話していてもいいですか?」

と聞くと、

「はい。あ、でも病院の規則で、面会は時間制限があるかもしれません。私も4月からここに来たのでまだよく分からないんですが。」

と言う。

「そうですか。すぐ出ます。」

私がそう言い、先生は出て行った。私は次男から定期券をもらった。テーブルの上に教科書などがボンと置いてあるので、それをリュックにしまい、充電コードをコンセントに差し込んでやった。次男は点滴に繋がれているが、ベッドは起こしてある状態だった。そして、うちの靴下を履いていた。

 今、持ってきたもの以外にうちの物があるとすれば、元々着用していたものだ。つまり、あの保健室のベッドを砂だらけにした靴下、という事ではないか。まだあれを履いているのか。それ、昨日の朝から履いていたわけでしょ、噓でしょー、と思ったが、仕方がないので口にはしない。靴下は4足持ってきたから、存分に履き替えてくれ。

 そこへ、年配の看護師さんが現れた。

「先生が間違えて通してしまったようなんですが、本来ご家族の面会は禁止なんですよ。外でお待ちいただけますか?」

と言われた。

「私、もう帰ります!」

やっぱりそうだよな。禁止だよな。そもそも、コロナ感染予防の為の、隔離の意味があるはずの個室期間だ。それなのに、私もそうだが先生も、この看護師さんも、防護服なんて着ないで普通に出入りしちゃってるじゃないか。セキュリティが甘いよなあ。防犯じゃなくて、防疫の方だが。

 すぐ帰るとは言ったが、リュックの位置とかちょこっと直したりして、

「じゃあね。」

と言うと、次男が手を伸ばす。なに、手を握って欲しいのか?で、指をちょっと触ったら、引っ込めてその手を見るじゃないか。

「え、違うの?大丈夫だよ、さっき消毒したから。」

触ってはダメだったらしい。紛らわしい。けれども、とにかくササっと出てきた。

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