第14話 ラーメン

 もう帰って良い事になった。9時半頃だった。夫が待っているので急いで外に出た。出てみたが、外は真っ暗だし、どこにいるのか分からないので電話をしたら、こっちへ来てくれた。こちらからは暗くて見えなかったが、実はすぐ近くにいたようだ。私は一度受付に戻って入院の手続きをし、病院を出た。外は蒸し暑く、やっぱり服装1枚多いなと思った。

 全く特徴を覚えられない住宅街をくねくねと曲がり、駅へ向かった。夫が地図を見ながら誘導してくれたので楽だった。明日は1人で来られるのだろうか。

 バレー部のマネージャーさんには、腸閉塞だという事を報告し、ご迷惑をおかけしたお詫びと、皆さんによろしくお伝えくださいとLINEした。マネージャーさんは、顧問の先生にも伝えておくと言ってくれた。良かった。今は良い時代だ(電話しなくて済むので)。

 15分くらい歩いて駅に着いた。そして電車に乗り、

「何食べる?」

と、夫が言った。そうか、夕飯か。長男には夕飯を作れない旨の連絡はしておいた。家に帰って適当に食べようと思っていたが、夫がせっかく来てくれて、リュックも背負ってくれているし。一緒に食べてあげよう。

 もしかして、乗り換えの駅の辺りで食べるのかな?と思った。おしゃれな街で。

「どこで食べる?」

と聞いたら、あっさり家の最寄り駅近辺でしょうと言われる。確かに、その方が安心だ。

 あまり食欲を感じなかったものの、いつもは7時に食べているのにもう10時。お腹が空いていないわけはない。最寄り駅の辺りを想像し、何となく洋食屋をあれこれ脳内物色していたのだが、夫が口に出すのはラーメン屋や牛丼屋。そういえば、長男と2人の時は必ずラーメン屋で、次男と2人の時は必ず牛丼屋になるのだ。この人の息子たちだからな。ああ、子供と2人で食事というのは、受験の為の学校説明会などの折である。それ以外に2人で外食など、する事はない。

「今、がつがつ食べるとお腹痛くなりそうだから、ラーメンがいいかな。」

と私が言い、昔よく一緒に行ったラーメン屋に決めた。最近は一緒に外食する事もめっきり減った。年に1回とか2回くらいだろうか。それも、わざわざ年賀状用の家族写真を撮る為に設けた席だったりする。

 最寄り駅に着き、ラーメン屋に入ると、お客は2人しかいなかった。平日の夜だから空いていても無理はないか。この店は、休日の夕飯時には子連れの客も必ずいる人気店なのだ。

 夫は生ビールを頼もうと言い、一瞬固まった私に、気付け薬だとか、疲れたでしょうなどと言って私の気を飲む方へ向けた。何となく不謹慎だと思いつつも、嫌いではない方だし(いや、だいぶ好き)まあ、せっかく来てくれたしと、先程と同じことを考えて、ビールと餃子を頼んだ。

 乾杯して、餃子を食べようとしたら、顎がカクっと鳴る。危ない。顎が外れたら大変だ。

「しばらく食べてなかったから。あ、10時間ぶりだ。」

「でもさ、夜中はそのくらい食べてないんだから。」

「そっか、そうだよね。大したことないね。」

などと言いながら、食べた。美味しい。次男よ、何も食べられなくて可哀そうに。でも、お母さんはビールを飲み、餃子を食べ、その後ラーメンも食べるぞよ。すまぬ。

 そして明日、私はとんでもないミスをすることになり、明後日には体がボロボロになるのだが、この時にはそんな事はつゆ知らず、美味しくいただいたのだった。

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