第8話 学校に到着

 マネージャーさんから、学校に着いたら連絡してくださいと言われていたので、校門を入ってすぐに電話をかけた。彼女は電話に出るとすぐに体育館から出てきた。うちの次男は保健室に移動したそうで、保健室に案内してくれた。私は既に、保健室には行った事がある。以前次男を迎えに行った事があるのだ。だから、案内されなくても大丈夫だったのだが。

 保健室に入ると、1つのベッドに次男が寝ていた。顔の横には洗面器があり、その中には茶色い物が入っていた。つまり、吐いたのだ。次男はぐったりとして目を閉じていたが、声を掛けると反応した。何か食べたのかと聞いたら、お弁当を少し食べたと弱々しく答えた。時々お腹が痛むようで、体をよじる。そして、また吐いた。私はマネージャーさんに下がるように言った。汚れたら困るし、次男も見られたくないだろうし。

 ベッドの上は砂だらけだった。顧問の先生が現れて、次男のお腹の痛みが引いた時に、それっという感じで裸足のまま体育館からここまで移動してきたのだと言った。靴を履いている場合ではなかったから、このように砂だらけに。清潔がモットーの保健室なのに、大変申し訳ない。

 これからどうするか、保健の女の先生と顧問の先生と話し合った。また波が引いた時にタクシーに乗せるとしても、家まで乗って帰るのは無理な気がする。また吐くかもしれない。とにかく病院に行った方が良いが、もう遅い時間である。

 顧問の先生は、救急車を呼んだ方がいいのでは、と言う。しかし保健の先生は、

「意識がハッキリしているので……。」

と、消極的だ。そして、遅くまでやっている近くの病院を探し、6時半までやっている内科を見つけて電話を掛けてくれた。すると、これから診てくれるという事になった。もう6時20分だった。保健の先生はタクシーも呼んでくれた。

 さあ、波が引いたらここに乗れと、顧問の先生が車いすをベッドの横にスタンバイさせてくれた。しかし、次男に声を掛けてもほんの少し体を動かしただけで、起き上がる気配はない。波はあるが、その周期は短く、少しじっとしていたかと思うと、また痛がってもんどり打っている。苦しそうだ。

 そういえば次男の靴は?と思って顧問の先生に聞いたら、先生は次男に向かって、なんと靴のメーカーを聞いた。○○か?とか、私は靴のメーカー名を全然知らないのでよく分からなかったが、次男も分からないようだった。けれども次男は、下駄箱の右側の上から2番目、と辛うじて言えた。顧問の先生は靴を取りに行ってくれた。

 その間の事だが、いつまで経っても車いすにさえ乗れない次男を見て、

「これ、お医者さんに診てもらったとしても、その後どうやって帰ればいいのか……。」

と、私は呟いた。保健の先生も、

「そうですよね、お母様の負担が大き過ぎますよね。」

と言った。今は複数の手があるし、男の先生もいるが、病院に行った後には私しかいない。タクシーに乗せるにしたって難しい。

「やっぱり、救急車の方がいいのでは。」

私が言うと、

「そうですよね。救急車を呼びましょう。」

保健の先生がそう言ってくれた。

「でも、お医者さんに行くって言ってしまいましたよね。タクシーも来てしまいますよね。」

と私が言うと、

「それはいいんです。電話1本入れるだけですから。では、私今から病院とタクシーにキャンセルの電話を入れますから、お母様、救急車呼んでもらっていいですか?」

と、保健の先生。

「はい、分かりました!」

来たー!人生初、救急車を呼ぶ!

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