第7話 出かけない日のはずだった

 かかりつけ医からもらった痛み止め(下剤)を朝食前に2錠飲み、腹痛がある程度治まってから学校へ出かけた次男。辛くなったら帰って来るよ。確かにそう言って出かけた。

 一方、私は何故か朝から右膝が痛かった。前日に歩き過ぎたわけでもないし、正座をずっとしていたというわけでもないのだが。もしかしたら、しばらく出かけない日が続いていたから、運動不足かもしれない。逆に、その運動不足を解消すべく、毎晩行っている運動(ステップを置いて上ったり下りたりを、曲に合わせてするエクササイズ)を、夕べやり過ぎたのかもしれない。とにかく腫れていた。膝のお皿の上の柔らかい所をちょんちょん、と突くだけで激痛が走る。しゃがんだり、立ち上がったりする時には更に激痛が。

 そういうわけで、今日は買い物も辞めて家にいようと思っていた。膏薬(肩こりなどに効くやつ)をペタリと貼って、安静にしている事にした。


 午後1時頃、次男からLINEが入った。

「全然食欲がない」

と。あらら。お弁当を持たせたのだが、

「食べなくていいよ」

と送った。そうしたら、

「お腹すいたら食べるね」

と返って来た。それから1時間ほどして、ふいに不安になった私は、

「3時過ぎたら別の物を食べるんだよ。傷んでいたら大変だからね」

と送った。了解です、との返事があったので、この時にはまだ食べていなかったようだ。それから、下剤が効きすぎてかなり下痢だとも言ってきた。2錠飲んだけれども、1錠にしないとダメだね、とも。

 そして、そのままLINEで色々と会話した。昨日お医者さんで言われた社交性不安障害があがり症の事なんだねとか、私からの遺伝だね、ごめんねとか、お母さんのせいじゃないよとか。下痢はあったけれども、この時には普通に元気だったはずだ。

 私がブログを書き終え、そろそろパソコンを辞めようかなと思っていた夕方5時頃、次男からLINE電話がかかってきた。出てみたら、次男本人からではなく、バレー部の女子マネージャーさんからだった。なんと、次男が部活中に2度吐いてしまって、今体育館で横になっているという事だった。そして、迎えに来られますかと。

「……行きます。」

マジか……と嘆きつつ、行くしかないのでそう答えた。

「どのくらいで来られますか?」

マネージャーさんから聞かれる。

「……1時間くらいで行けると思います。」

今すぐ出れば1時間かからないが、準備があるから1時間と言っておいた。電話を切った時、いつの間にかパソコンの電源も切れていた。無意識にシャットダウン作業をしていたようだ。そして立ち上がった瞬間、

「痛っ!」

右膝、激痛。パソコン作業中に変な角度に膝を曲げていたからか、立ち上がろうとして体重を掛けたらとても痛かった。けれども、そんなことを言っている場合ではない。しかし、今日に限って膝が痛いなんて、ツイてない。

 いつもなら、5分か10分で支度をして家を出られるのだが、今日は外に出かけられるような服装をしていなかった。いや、近所に買い物くらいなら行かれるかもしれないが、これで電車に乗るなど、あり得ないレベル。もう少し涼しい時季ならば、上着を羽織ってしまえば問題なかった。しかし、この日は4月なのに最高気温が28度の蒸し暑い日だった。仕方なく、着ていたよれよれの長袖Tシャツを脱ぎ、比較的新しいTシャツを着てみたが、それは七分袖だったので、ちょっと寒い気がした。昼間は暑かったけれど、これから夜になると寒いのではないか。それで、また元のTシャツを着て、ちょっと暑いけれどもチュニックを上から着た。見た目はまあまあ良くなった。後から考えれば、下に着ていたタンクトップを脱げばよかったのだが、急いでいてそこまで気が回らなかった。

 服装で悩んでしまったので、恐らくこれだけで5分以上経ってしまった。それから荷物の用意をする。吐いたという事だったので、エチケット袋と替えのマスクを持ち、一応保険証もあった方がいいだろうと、お薬手帳一式も持った。後から保険証は次男の持っていた財布に入っている事に気づくのだが、この時にはお薬手帳と一緒にあると思っていた。実は一度、試合中に指を脱臼して病院に行った事があり、保険証がなくて高額医療費を一度は支払う羽目になった事がある。8万円もした。その時、何とかクレジットカードを持っていたが、それもたまたま持っていただけの事。これから、保険証はいつでも持ち歩いた方がいいという事で、次男が財布に入れたのだった。それを、この時にはすっかり忘れていた。

 次男からのLINEにマネージャーさんからメッセージが入り、次男のスマホの電源が切れそうなので、自分の電話番号を教えるという事だった。

 さあ出かけよう、と思ったところでまた次男からLINE電話がかかってきた。電源が切れそうなんじゃないのか?と思って出てみたら、今度は顧問の男の先生からだった。先生からも次男の状態を知らされ、そして、

「車で来られますか?」

と聞かれた。電車だと答えると、

「どうやって連れて帰りますか?けっこう痛がっていて、歩ける感じではないですけど。」

と言われる。タクシーかな、と言うと先生は、救急車を呼ぶという手もありますが、と言う。確かにそうだけれど、本人がそこまでオオゴトにしたくないのでは、と言ったら、確かに本人もそう言っているという事だった。

「とにかく、行きます。」

と言って、電車を改めて検索した。ああ、15分くらい先生としゃべってしまった。マネージャーさんと話した時には6時には着けると思っていたのに、怪しくなってしまった。部活は6時までだ。

 検索の結果、学校到着は6時3分ごろと思われた。次男のスマホ充電の為にモバイルバッテリーも引っ掴んでカバンに入れ、とにかく急いで家を出た。歩いていると、マネージャーさん本人からLINEが来た。次男のスマホからIDをもらったとか何とか。とにかく、直接やり取りができるようになった。到着時間を教えてくださいと言われたので、6時をちょっと過ぎますと伝えた。

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