第22話 幕開け

 バスに乗り駅前に行って、そのままナビに従ってJRの切符を買い乗り込んだ。


 折角ならグリーン車で行こうとしたのだが、お金がもったいないという節約家な妻の助言に従い、エコノミーにしたのだった。


 番号を確認して席に座ると、後ろに誰も居ないことを確認し、少し席を後ろに下げる。


「ふぅ、疲れた」


「お疲れ様です」と、少し笑う。


「何?なんか変だった?」


「いえいえ。なんか可愛いなって」


「...可愛い?」


「はい。少し移動しただけで疲れちゃう悠人さんが可愛いなーって」


「おじさんは少し歩くだけで疲れるもんなんだよ」


「...おじさんではないですよ?まだ若いですし」


「世間的にはおじさん1歩目って感じだろ。28なんて」


「そうなんですかね?うーん...」


「ほら、座るときによっこいしょっていうし、つまんない駄洒落言うし、こういうのはまさにおじさんって感じでしょ」


「...むー。そうでしょうか?」


「ね...あのさ...」


「ん?何ですか?」


「...ちゅーしていい?」


「こ、ここでですか!?//」


「...うん。すごくしたくなって」


「...まぁ、良いですけど...//」と、照れる彼女の顔を両手で押さえてキスをする。


「んちゅ...//」


「...ありがとう」


「さ、最近すごく積極的ですよね...//」


「...嫌?」


「そ、そんなことないです!//けど、慣れてないので普通に恥ずかしいです...」と、可愛く両手で顔を覆う葵ちゃん。


 本当、可愛いなこの子は。

本当ならもっと楽しい学園生活を送って、人並みの青春を送って、恋をして、恋をされて、そんな人並みの幸せを味わえていない彼女が不憫で仕方なかった。

だから、俺は一つの質問をしてしまうのだった。


「...葵ちゃん。学校に行きたいとかない?」


「...え?」


「ほら、たとえば大学とか」


「ないですよ?どうしたんですか、急に」


「いや、ほら...。親のせいでまともに学生生活送れなかったわけじゃん?だからその...今からでも大学とかどうかなって...」


「いやいや、興味ないですし、行きたいとも思わないです。勉強なら1人でできますし」


「...そっか。それなら良かった」


「変な気使ってます?」


「...うーん。何と言うか...すごい今更なんだけどさ...。本当に俺なんかが夫でいいのかなって...」


「...私のこと飽きちゃいました?」


「そんなことは決してない。けど...ほら、もし今後俺より良い条件の人が見つかったとき、...俺はその...勝てる気がしないなって...」


「...良い条件って何ですか?お金を持っているとかですか?」


「お金は...そうだな。あとは俺よりイケメンで、優しくて...良い人ならさ」


「この世には悠人さんよりお金を持っている人はいるかもしれませんが、悠人さんは悠人さんだけです。私にはそれだけで十分なんです。それに...それを言うなら私の方がすごく不安です。何もできなくて...年も離れてて...迷惑ばっかりかけて...いつか捨てられるんじゃないかって...たまにすごく不安になったりするんです」


「そんなことしないよ。俺はもう葵ちゃんなしじゃ生きていけないから」


「...本当ですか?」


「うん」


「...嬉しいです。私も悠人さんがいない生活なんて...」と、また少し悲しい顔をする。


 その瞬間に思わず口が余計なことを言ってしまう。

聞いてはいけないとわかっていた質問を。


「...何かあった?」


 すると、葵ちゃんは目を丸くして俺を見つめる。

まるでその言葉を待っていたかのような顔だった。


「...ありました。...聞いてくれますか?」


 こうして俺はコンビニでの出来事を知ることとなった。


「...そっか。そんなことあったんだ」


「...はい。だから...私は悠人さんの近くにいないほうがいいんじゃないかって...思ったら...怖くなっちゃって...。これ以上好きになるのが...怖いです」と、涙を滲ませながらそんなことを言う。


 なにが夫だ。何が旦那だ。


 そうしてそのまま無言で彼女を抱きしめる。


「...大丈夫。どんなことがあっても葵ちゃんのことは離さない。だから、絶対に離れないで」


「...はい」


 そして、またキスをした。


 こうして、2人の甘々な新婚旅行は幕を開けたのだった。

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