第21話 【極薄!0.3mm】
「...やめて...殴らないで...お母さん...生まれてきて...ごめんなさい」と、涙を流しながらそんな悲しい寝言を言う葵ちゃん。
その涙を指で拭い、葵ちゃんを抱きしめる。
「...んっ」と、少し満足したように幸せそうに笑った。
この笑顔を守りたい。
そのためには避けられないことがある。
「...絶対幸せにするから」
◇
「おはようございます」と、いつもように朝早く起きて朝ごはんを作ってくれている葵ちゃん。
いつもより少しだけ疲れたような顔していた。
理由を聞こうかと思ったが、言いたくないことを責め立てるのもあれだなと察し口を閉ざした。
理由はわからないけど元気がないし、今日はどこかに出かけようかなと考えていた。
転職が決まればまた忙しい日々が始まるわけだし、一緒に過ごせる時間も今が一番多いわけだし。
うーん、折角なら少し遠くに旅行とかもありだな。
いきなりホテルの予約とかできるんかな?と、携帯をぽちぽちといじっていると、ピーンポーンとインターホンが鳴る。
すると、葵ちゃんがビクンと反応する。
やっぱり、何かおかしいよな。
「あっ、多分俺が頼んだ通販のやつだと思うから俺が出るね」
「ま、待ってください。確認します」と、ピッとインターホンのモニターボタンを押す。
『宅配便でーす』
「あっ、はい」と、少し安堵したように返事する。
そうして、荷物を受け取りリビングに戻る。
「ね、今日何か用事ある?」
「いえ、何もないです」
「よし。じゃあ、旅行でも行こっか」
「...旅行?いきなりですか?」
「あっ、ごめん。そんな気分じゃなかった」
「いえ!そんなことないです...。嬉しいです」
「ほら、仕事始まったらまた2人でゆっくりする時間も減るかもだし」
「...そうですね」
「うん。新婚旅行なんて大したもんではないけど、そういうのも兼ねてね?」
「...はい!」と、少し不器用に笑う。
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818023214134541186
意外とギリギリでホテルの予約をすると割引してくれることを知った。
通常20,000円ほどする旅館やホテルも、当日予約の場合7,000円になっていた。
ホテル側からしても部屋を開けるくらいなら安くてもいいから泊まってもらったほうがいいということなのか。
勿論、安い理由に今日が平日だからということもあるのだが。
そうして、急いで旅行の準備を始める。
携帯電話の充電器、髭剃り、着替え、コンタクトと、必要なものを詰めていると何やらモジモジとしている葵ちゃん。
「ん?どうしたの?」
「えっと...//これ...持って行ったほうがいいですか...?」と、手には【極薄!0.3mm】と書かれていたあれが握られていた。
「あっ、えっ...」と、少し困惑していると、「い、一応準備していただけで、その...!//...引きましたか...?」と、涙目でそんなことを言う。
「ひ、引いてない引いてない!その...びっくりしただけで...。い、一応...持っていこう」
「は、はい...//」と、顔を赤くしながらそれを仕舞う。
...覚悟しないとな。
そんなことを呟きながら俺たちは家を出るのだった。
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