第15話 一歩

「...ったく、無茶しやがって」と、呆れたように玄太が呟く。


「...まぁな。色々早計だと思っていたけど、川上さんのこともあったからあんまり時間をかけてられないなと思って」


「...ありがとうございます。けど、無茶しすぎですよ...」と、目に涙を浮かべる川上さん。


「...そうだな。色々無茶しちゃった」と、そんな会話をしていると、先ほどと同じように勢いよく扉が開く。


「悠人さん!」


 肩で息をするように激しく息遣いをしている葵ちゃんがそこに居た。


「...何してるんですか...」と、よろよろ近づいてきて、俺の手をぎゅっと握る。


「...ごめんね。心配かけちゃったよね」


「心配しましたよ!!...すごく心配しました...」


「...ごめん」と、言いながら頭をポンポンと叩く。


「...私には悠人さんしか居ないんですよ」


「...うん。ごめん」


「もう、こんなことしちゃダメですから...」


 その後、警察の事情聴取を受け、今までのことも含めて色々話した。

俺が受けたこと以外にも川上さんの件を含めて全てを洗いざらい話した。


 それからは病室の中で慌ただしい日々を送っていた。

正直、あいつが居なくなってもあの会社に残る気にはさらさら無かった。

これからはちゃんと2人の生活を考えた上で、今より良い会社への転職を検討していた。


 ちなみに、一時的に川上さんは我が家に住んでいた。

これは俺が望んでいたことであり、家を引き払った川上さんにとっても都合の良いことであった。


 あのボロボロの平屋に葵ちゃん1人で住まわせることに不安しかなかったので、なんとかお願いして同棲してもらっていたのだった。


 あまり相性がいいとは思えない2人だったが、どうやらそこそこ上手いことをやっているらしい。


 暇さえあれば2人は面会に来てくれた。


 そうして、約1ヶ月ほどの入院を経て俺はようやく退院をするのだった。


 久々の我が家に帰還する。


「...ただいま」


 すると、2人が笑顔で出迎えてくれた。


「おかえりなさい、先輩」


「おかえりなさい。悠人さん」


「...うん。2人ともありがとうな。色々と」


「いえいえ。ちなみに私は転職先決まったので、来週にはこの家をでようと思います」


「そっか。本当、ありがとうな。また今度なんかお礼するよ」


「お礼なんて!...私の方こそ、本当に色々ご迷惑をおかけしました」と、深々と頭を下げる。


「迷惑なんて...」


 そうして、3人で笑い合った。


 ちなみに、この1ヶ月の間に川上さんと玄太は急接近したらしく、付き合う一歩手前という感じらしい。


 それから1週間後、川上さんを見送り久しぶりの2人きりの時間を迎えた。


「...2人だとちょっと寂しいですね」


「...そうだな」


「...子供とか...欲しくなっちゃいますね」


「...まぁ、そうだな」


 そうして、2人で目を合わせて少し笑う。

こうして、俺たち2人の人生は新たな一歩を踏み出すのだった。

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