第9話 盗み

 あれから数日経ったある日のこと。


 ◇18:30


「おっーす。仕事終わった?」


「ん?まぁ、一通りは。なんで?」


「いやー、飲みにでも行こうかなーと」


「飲みは...」


「わーかってるっての。お前の家で飲みたいってこと」


「...まぁ、葵ちゃんがいいっていうならOKだけど」と、そんな話をしていると川上が声をかけてくる。


「お疲れ様です。大坂先輩」


「お、川上ちゃんお疲れー」


「お疲れ様です」


「先輩はもう仕事は終わりですか?」


「おう。一通りは終わったな。川上の方は?」


「はい。ひとまず任されていたものは終わりました」


「おぉ、そっか。仕事早いな。お疲れ様」


「これから2人で飲みですか?」


「その予定だよー。まぁ、こいつの彼女の許可待ちって感じ」


「先輩、彼女いたんですか?」


「え?ま、まぁ...」


 おいおい言うなよと玄太を睨むが何食わぬ顔で会話を続ける。


「もし良かったら3人で飲む?ほら、川上ちゃんも慣れ始めたとこだし、色々溜まるものもあるだろうし...」


「連れて行ってください」と言われてしまう。


 おいおい、勘弁してくれよ...。

いや、これは葵ちゃんがダメって言ったことにして...。


「もしもしー?葵ちゃん?今日さー、飲み行ってもいいー?」と、いつの間にか連絡先を交換していた玄太が勝手に連絡を取り始める。


「OKだったぞ!」


「...」


 すると、玄太が耳元で囁く。

「俺、川上ちゃん結構タイプなんだよ。な?頼むぜ?」


「...はぁ。わかったよ」


「よーし、コンビニで酒買い込んで行くぞー!」


 ◇


「おっじゃましまーす!」


「...お邪魔します」と、川上が言うと「初めまして」と葵ちゃんが返す。


「ごめん、急に家で飲むことになって」


「いえ、私は大丈夫です。私は寝室にいたほうがいいですか?」


「いやいや別に。普通にリビングにいていいよ?」


「そうですか。じゃあ、そうします」と呟いた後、耳元で「あの人とはどういう関係ですか?」と冷たい声で詰められる。


「いや、ただの後輩だけど」


「...ふーん。なんか私と雰囲気似てませんか?浮気じゃないですよね?」


「してないから。そもそも似てるか?」


「結構似てると思いますけど」


 どうやら少しオコらしい。

ここは先輩と後輩という関係性であることを示すとしよう。


「何か作りますか?」


「いやいや、全然大丈夫よ?葵ちゃんはゆっくりしてて」


「...そうですか」と、そのまま俺の横を陣取る葵ちゃん。


「おっ、葵ちゃんも飲むかー?なんつってー」と少しボケる玄太を余計なことを言うなという感じで睨みつける葵ちゃん。


「いえ。下戸なので結構です」


「お二人はいつから付き合ってるんです?」と、さっそく突っ込んでくる川上。


「え?あぁ...1ヶ月かな?」と、少し盛る俺。


「そうですね」


「ちなみに川上ちゃんは彼氏いないのー?」と、今のご時世的にギリギリな質問をかます。


「...それ、言わないとダメですか?」と、怪訝そうに呟く。


「いやー、気になったから!」


「...居ないです。去年別れました」


「へぇー!そうだったんだ!どんな彼氏だったのー?」


「...答えたくありません」


 おいおい、玄太よ。

彼女の雰囲気を読んでくれよ。


「お二人はどこで出会ったんですか?というか、葵さん?はだいぶ若く見えますけどおいくつなんですか?」


「...21歳です」と、少し盛る葵ちゃん。


「ふーん。そうですか」


 何この空気...ダレカタスケテ!


 それからお酒は進むものの酔うことなんて出来なかったのだが...。


「せぇんぱぁいはぁ〜、もっとわたしぉ...だいじにするべきなんですよぉ〜」と、酎ハイ2杯でベロベロになる川上。


 そうして、酔った勢いでスキンシップを取ろうとする川上との間に割って入る葵ちゃん。


「あの、私の悠人さんに気安く近づかないでください」


「えぇ〜...。いいじゃん...。わたしはてっきりせんぱいはかのじょとかいないとおもってたのに〜...」


「はいはい!ここに彼女が居ないイケメンがいるよ!」


「はぁ?おおさかせんぱいはぜんぜんイケメンじゃないし...」


「ひどっ!?なんとか言ってくれよ!悠人!」


「まぁ、悪いやつじゃないぞ?玄太は」


「えー?なんかねちっこいえっちしそうだぁし...。ゆうとせんぱいはぁ〜...めっちゃたんぱくそーw」


「そ、そんなことないですから!悠人さんはすごい性欲です!」と、謎のフォローをかます。


「えぇー?ほんとうかなぁー」


「悠人さんは...誰にも渡さないですから!」と、言い放つと葵ちゃんが俺にキスをする。

それも...大人なキスだった。


「!?///」


「んちゅっ...//す、すごっくラブラブなんですから!//」


「おいおい、見せつけるな...」


「...ベロチューなんて別に私だって彼氏としまくりだったし〜...。うちなんて目隠ししながらやりまくってたし〜」


「「「目隠し!?」」」


 どうやらこれが川上の本性のようだ。

普段は真面目な感じだったが、どうやら思っていたよりギャルだったようだ。


「あぁ〜、会社だるぅ〜」


「...それはそうだな」


「よし!みんなでやめて起業でもしよう!」


 それからは会社の愚痴大会始まり、少しすると川上はソファに眠ってしまうのだった。


「...寝ちゃったな」


「だいぶお酒弱そうだったもんなー。...よし、寝ている間にイタズラを」


「おい。変なことすんなよ」


「冗談だっての」


「...むにゃむにゃ...せんぱいのサンバイザー...」


「...どんな夢見てんだよ」


 そうして、川上には布団をかけてあげて、玄太は帰って行った。


「私たちも寝ましょうか」


「そうだな。軽くシャワー浴びてくるから先にベッドに入ってていいぞ」


「分かりました。...待ってます」


 そうして、シャワーを浴びて歯を磨いて寝る準備を済ませてベッドに入る。


「...悠人さん。好きです」


「うん。俺も好きだぞ」


「...本当ですか?本当に...」


 そのまま葵ちゃんにキスをする。


「...もっと...欲しいです」と、葵ちゃんは俺の体をなぞるように触る。


「...うん。俺も欲しい。...だから決めよう。する日を」


「...分かりました。楽しみです」


「うん。だから今はこれで我慢してな」


 そんな会話を扉を越しで聞いてしまった、川上怜の存在に気づくこともなく。

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