第7話 地獄

「...ごめんね」


「何がですか?」


「いや、その...結婚するって言ったのにすぐに結婚できなくて」


「いいんです。私のことちゃんと考えてくれてのことなのはわかってますから。同僚の方も悠人さんのことを心配してのことだと分かってますから」


「...うん」


「その代わり、イチャイチャしたいです」と、頭をスリスリと擦り付けてくる。


「イチャイチャ...か」


「はい。...チューしてもいいですか?」


「...いいよ?」


 そうして、暗闇の中手探りで俺の顔を探し、両手で顔を覆うと体を少し起こして頬にキスをする。


「んちゅ...」


「...ありがとう」


「何でお礼を言うんですか?」


「いや、なんというか...なんでもない」

(10歳も下の女の子にキスをされるというのはなんというか、気持ち的にパパ活をしているような感覚になってしまう)


「変なの。じゃあ、今度は悠人さんが私にキスしてください」


「...おう」


 今度は俺が彼女の顔を手探りで探し、顔を手覆うと彼女のおでこに優しくキスをする。


「...おでこですか。次は唇にしてほしいです」と言いながら、俺の手を掴み唇に持っていく。


「...ここですよ」と、彼女の吐息が指にかかる。


 そうして、俺は彼女の唇にキスをするのだった。


「...嬉しいです。寝る前は毎日キスしたいです。...いいですか?」


「いいよ」というと、そのまま顔を胸に擦り付ける。


「私、すごく幸せです。これからもずっと一緒にいてほしいです」


「...うん」


「...好きです」


「...ありがとう」


 俺も好きだよと言いかけた言葉を止める。

確かに好意は抱いている。

いや、好きと言っていいかもしれない。

けれども、簡単に言ってしまってはいけない気がして、好きという言葉はここぞという時に言いたかった。


 すると、すぐに「すーすー」と寝息が胸に当たる。


「...おやすみ。葵ちゃん」と、頭を撫でる。


 ◇


「おい、髙橋。ちょっとこい」と、小さな会議室に呼ばれる。


 またなんかやらかしちゃったかなと思っていると、そこには1人の女の子が先にいたのだった。


「今日からこの子うちの部署に入るから。いろいろお前が教えてやれ」


「え?あ、はい。分かりました」


そこに立っていたのは茶髪で若目の女の子。

歳の頃はそう...葵ちゃんと同じくらいに見えた。


川上怜かわかみれいです。よろしくお願いします」


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818023213436028009


「あっ、うん。よろしく。俺は髙橋悠人」


「髙橋さんですね。覚えました」


 彼女は表情を変えることなくまるで記号を覚えるかのようにそうつぶやいた。


「んじゃ、頼んだぞ」


 ちなみに新人教育をするからと言って俺の仕事が減ることはなかった。

なので基本的なことを教えつつ、自分の仕事をするという地獄のような時間が始まるのだった。

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