第6話 話し合い
「...初めまして。同僚の大坂玄太です」
「...初めまして。...えっと...婚約者の北村葵です」と、やや強張った笑顔で笑う。
疑っている同僚と疑われていることを知らない葵。
今考えれば確かにおかしい話である。
けど、それでも俺を嵌めようとしているようには全く見えなかった。
「いくつか確認したいんだけど、君と悠人は出会ってたからまだ数日しか経ってないんだよな?それで結婚したいっていうのはどうなのかな?俺はもっとお互いのことを知ってからでいいと思うんだけど」
「それは...その通りだと思います。けど、私的には結婚できたら安心できますし...、それに私と結婚できるって言ってくれましたし...」
「けど、今すぐである必要はないよね?」
「...結婚しなきゃ...いつか捨てられちゃうかもしれないですし」
「それって矛盾してるよね。信用して信頼しているから結婚したがってるのに、結婚できなきゃ捨てるかもしれないって、つまり悠人のことを信用してないってことじゃないのかな?...ごめん。厳しいこと言ってるのは分かるけど、俺は友人としてこいつには幸せになって欲しいから。そういう曖昧な部分はなるべくはっきりさせたいんだ。君のためにもね。結婚ってそんな簡単なものじゃないと思うから」
「...」と、下を俯いて黙り込む葵ちゃん。
止めようかと迷ったが、言ってることは間違っていない。
多分これは葵ちゃんに言ってるようで俺に言っている言葉でもあるのだろう。
安易だった。
それはその通りだと納得した。
「ひとまず1年。この生活を続けて、それでもお互いが納得できたならその時俺はこれにサインする。それでどうかな?」
「...分かりました」と、納得できない部分はあるだろうがそれでも彼女は首を縦に振るのだった。
「そっか。分かってくれたなら良かった。こいつは結構君のこと考えてるからさ。そこは信用して欲しい。それこそ君との時間をちゃんと取れるようにもっといい会社に転職しようとしたりな」
「お、おい」
それ言うのかよと、ツッコもうとしたが時遅し。
「本当ですか?」と、ものすごく申し訳なさそうに疑問を呈してくる葵ちゃん。
「...まぁ、うん」
「...すごく嬉しいです。...そうですね...。私も少し焦ってました。もう少しお互いのことゆっくり考えようと思います」
「うんうん、その方がいいよ」
その日はそのまま3人でご飯を食べた。
昔の俺の恥ずかし話を悪びれもせず公表する玄太と、笑う葵ちゃんと止める俺。
なんとなく、家族っていうのはこういうのなんだろうなっていうのを初めて知った。
こんな時間が続けばいいなんて少し思ったのだった。
こうして俺たちの結婚は少し先延ばしになったのだった。
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