第5話 証人からの助言
◇あれから2日後 PM10:16
「...ふぅ、終わった」
「お疲れー!」と、言いながら缶コーヒーを手渡してくる玄太。
「...おう、さんきゅ」
見渡すと既に会社には俺と玄太の2人だけだった。
「いやー、相変わらずの残業続き。きっついーねー」
これはベストタイミングと思い、俺はカバンからあるものを取り出す。
「悪いんだが、これにサインしてくれないか?」
「おっ?なんだ?借金の連帯保証人にはなってやんないぞー...待て待て待て。なんだこれ」
「婚姻届の証人。俺の欄は母親に書いてもらおうと思うんだが、彼女の欄は玄太に書いて欲しいんだよ」
「...待て。待て待て待て。色々待て待て。お前...結婚すんのか?」
「...まぁな」
「おい。俺はその子に会ったこともないんだが。そもそもなんでその子の両親とか、親戚に書いてもらわないんだよ。...もしかして、お前なんかやっぱりやましいことあんだろ」
「まぁ、そう思うのは当然だし、そう思ってもらって構わない。だけど、お前にはこれにサインしてもらいたい。もちろん、ちゃんと彼女にも会わせるから」
「...はぁ、事件の匂いがぷんぷんするんだが?悪いがこれに俺がサインをするかどうかは俺が直接会ってから決める。それでいいか?」
無理やり押し通そうとしたが、失敗。
いや、当たり前なのだが...。
「わかった...」
「てことで今から会いに行こう」
「...今からって...」
「同棲してないのか?」
「いや、してるけど...」
「...お前、まじでやることやってんだなー」
「...一旦、彼女に確認してみる」
◇
いつも通り掃除機をかけ、洗濯をし、合間の時間に夜ご飯の献立を考えながらテレビを見ていると、携帯に連絡が入る。
【悠人さん】
『今日俺の同僚と会ってくれないか?婚姻届の欄にサインしてもらうために会いたいって言ってて。あと、そいつ男だからそこも含めて考えてほしい』22:25
正直、一瞬心が揺らいだ。
あんまり知らない男性とは会いたくないし、怖い気持ちもある。
けど、結婚自体私が相当無理を言ってお願いしてることだし、怖いなんていう甘えた理由で断るわけにもいかず、私は一旦首を縦に振ることにした。
『私は大丈夫です!』22:35
『無理なら無理で他の人探すから。本当に大丈夫?』22:40
『はい!悠人さんと一緒なら大丈夫です!』22:45
そうして私は少しの不安を残しつつ、夜ご飯の支度をするのだった。
◇23:05
鍵がガチャガチャと音を鳴らして、悠人さんと悠人さんの同僚の方がやってくる。
「...は、初めまして...えっと...北村葵...です」
【挿絵】
https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093079623103511
「...大坂玄太...です」と言った瞬間俺に耳打ちしてくる。
「おい!この子何歳だよ!」
「...18」
「...18!?まさかJKか!?」
「...まぁ。もう学校は辞めたらしいから元JKらしいけどな」
「いやいや、11個下って...ジェネレーションギャップ半端ねーぞ!」
「...分かってる」
「それで?なんでこのJKの両親には書いてもらえないんだ?」
流石にここまできて黙っている訳にはいかないよ。
そうして、改めてこの前あったことを説明するのだった。
◇説明完了◇
「...いや、それはやばいだろ」
「...やっぱそうなんか?」
「当たり前だろ。それ、下手すら誘拐みたいな扱いになるぞ。相手の親が捜索願を出そうもんなら...一発アウトじゃねーの?転職どころか刑務所行きだぞ」
「...それは分かってる」
「いや、分かってない。ハッキリ言って俺はまだこの子を信用していない。俺はこいつの同僚であり友達として信用しているし、心配もしている。だからこそ、はっきり言わせてもらう。すごい複雑な事情を抱えているという君の意見は分かった。が、しかし、まだ全ての疑いが晴れたわけじゃない。だってそうだろ?この先、もっといい人と出会えるかもしれない。お互いに。そうなったときに後悔するのは二人なんだよ?もし、こいつを信用しているというなら少なくても今すぐに結婚することは俺は反対だ」
「...そうですね」と、だいぶ落ち込んだように俯いてしまう。
「おい」という俺の制止を無視して「最低3ヶ月。これくらいは様子を見るべきだと思う」と言われる。
いや、それは正論だ。
何一つ間違っていない。
間違っていないが...。それは彼女にとってすごく不安な時期があと3ヶ月も続くということだ。
それは...はたして葵ちゃんに耐えられるのか?
「こいつを信用してるならそれくらい待てるよね?
「...分かりました」と、首を縦に振る。
そして、婚姻届は玄太に没収されてしまうのだ。
「悪いがこれもお前...いや、君達のためにもね。。別に嫌がらせでしてるわけじゃねーからな?」
「分かってるよ」
「そんじゃ、また明日な」
そうして、静まり返った部屋に戻るのだった。
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