第5話 幕開け

「...待て待て待て。なんだこれ」


「婚姻届の証人。俺の欄は母親に書いてもらおうと思うんだが、彼女の欄は玄太に書いて欲しいんだよ」


「...待て。待て待て待て。俺はその子に会ったこともないんだが。そもそもなんでその子の両親とか、親戚に書いてもらわないんだよ。...もしかして、お前なんかやましいことあんだろ」


「まぁ、そう思うのは当然だし、そう思ってもらって構わない。だけど、お前にはこれにサインしてもらいたい。もちろん、ちゃんと彼女にも会わせるから」


「...はぁ。なんか時間の匂いがぷんぷんするんだが。書くかどうかも直接会ってから考える。それでいいか?」


「...一旦彼女に確認してみる」


 ◇


 いつも通り掃除機をかけ、洗濯をし、合間の時間に夜ご飯の献立を考えながらテレビを見ていると、携帯に連絡が入る。


悠人さん

『今日俺の同僚と会ってくれないか?婚姻届の欄にサインしてもらうために会いたいって言ってて。あと、そいつ男だからそこも含めて考えてほしい』12:14


 正直、一瞬心が揺らいだ。

あんまり知らない男性とは会いたくないし、怖い気持ちもある。

けど、結婚自体私が相当無理を言ってお願いしてることだし、怖いなんていう甘えた理由で断るわけにもいかず、私は一旦首を縦に振るのだった。


『私は大丈夫です!悠人さんも一緒にいるんですよね?』12:20


『もちろん。本当、無理なら無理で他の人探すから。大丈夫?』12:25


『はい!悠人さんと一緒なら大丈夫です!』12:26


 そうして私は少しの不安を残しつつ、夜ご飯の支度をするのだった。


 ◇18:30


 上司に無理を言って早退させてもらう。

まぁ、実際にはこの時点で30分のサビ残をしているわけで早退というニュアンスは少し違うのかもしれないが。


「おっす」


「悪いな、俺のためにお前も怒られて」


「気にすんな!この会社にいたら怒られるのなんて挨拶みたいなもんだと思ってるし。それより、会う前に最低限の情報ぐらい知りたいんだが」


「...まぁ、そうだな」


 どうせ彼女を見ればその幼い容姿から色々と説明が必要なことはわかっていたので、俺は休みの期間にあったことを1から説明するのだった。


 ◇説明完了◇


「...いや、それはやばいだろ」


「...やっぱそうなんか?」


「当たり前だろ。それ、下手すら誘拐みたいな扱いになるぞ。いや、それ以外にもおかしい点というか、怪しい点はある。無理やり結婚しようとしているのも、結婚詐欺みたいなのが目的とかないか?もしくは保険金目当て...とか」


「...すげー嫌なこと言うな」


「嫌なことじゃねーっての。現実的でよくある話だろうが。まさかこんな身近で発生するとは...。悪いが、これに関しては彼女を疑いの目で見ざるを得ない。それは許せよ」


「...おう。けど、男性恐怖症が嘘とかもし思っても断定できるエビデンスがない限り言うのやめてくれよ」


「そりゃそういうことは言わないけどよ...。まぁ、一旦話聞くから」


 こうして、話し合いが幕を開けるのだった。

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