かげふみ
佐々井 サイジ
かげふみ
お母さん、さいきんね、へんなことが起こるんだ。このまえね、学校から帰ってきてから公えん行ったでしょ。さえちゃんとほのかちゃんとひなたちゃんとれいちゃんであそぶやくそくしてたの。みんなとはなしてかげふみしようってなったんだ。
さい初はわたしがおにでみんなを追いかけてたの。さえちゃんが一ばん近くておいかけてたらさ、かげのあたまのところをふんで、さえちゃんがおにになったの。そこからわたしは一回もつかまらなかったんだ。すごいでしょ。
でもね、次の日に学校に行ったらさえちゃんがお休みだったの。なんかね、ほのかちゃんにきいたらあたまがいたかったらしいんだ。だからその日は、さえちゃん以外の、ほのかちゃん、ひなたちゃん、れいちゃんでまた公えんに集まってかげふみしたんだ。わたしね、じゃんけんによわくて、またさい初、鬼になったの。みんな速くてなかなかつかまえられなかったけど、ほのかちゃんのかげをふんだの。そこからおにを交代してからつかまらなかったんだ。
それでね、また次の日、こんどはほのかちゃんが学校を休んだの。先生が「ほのかちゃんはおなかが痛いから休みです」って言ってたの。わたし、かげふみのとき、ほのかちゃんのおなかをふんじゃったんだ。
怖くなって、その日は公えんに行きたくなかったんだけどね、ひなたちゃんとれいちゃんがさそってくれたから、やっぱりかげふみしたの。やっぱりわたしはじゃんけんで負けて、こんどはれいちゃんの手のかげをふんだの。そしたら、やっぱりれいちゃん、手のほねがおれて学校休んじゃったんだ。
みんな休んじゃってからひなたちゃんはわたしを遊びに誘おうとしなかったし、わたしもあそびたくなかったんだ。でね、さっきひとりで帰ってるとき、夕日がすごくまぶしかったの、自分のかげ見たらすっごくながくてちょっとこわかった。
そのかげが歩いてる人とか車にふまれるの、でもなんにもいたくないんだ。なんでわたしだけひとのかげをふむとけがさせちゃうんだろうって思ってのびたかげにパンチしたんだ。そしたらぱんちしたおなかの横がいたくなったの。やっぱりわたしはへんなんだって思って、もっとぱんちしてたら急にからだがうごかなくなったの。
地面見たらね、わたしのかげがペリペリはがれてわたしの前に立ったの。こわくてにげたかったのに、体がうごかないんだ。かげはゆうやけでのびたまんまだったからわたしよりずっと高いの。
「そんなに嫌なら私と代わろうよ」
かげの方からそう言って来てね、いやだいやだって言ったけど全然体がうごかないの。自分の手を見たらひじからさきは真っ黒になっててすごくこわくなって泣いたけどだれもいないの。黒色がどんどんからだじゅうに広がってきてね、気がついたらわたしを見下ろしてたの。わたしが手と足をバタバタするとわたしは勝手に同じうごきになるの。わたしはわたしを見上げてすごく笑ったの。助けてって何回も言うけど声が出てこないの。
だからお母さん、そこにいるわたしはわたしじゃないの。ねえ気づいてよ。お母さん、わたしをふんでるよ。いたいよ。
かげふみ 佐々井 サイジ @sasaisaiji
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