酒は飲んでも食われるな

「久々の新人! しかも魔法使いの加入に乾杯!」

「カンパーイ!」


 やあみんな、いま商会の新人歓迎会に参加しているテンちゃんだよ! 商会の新人加入は長いことなかったらしくて、魔法使いなこともあって結構な大人数が商会のラウンジに集まって酒を煽ってるので私も飲んじゃいます!


「いい飲みっぷりだ新人!」

「先輩ほどじゃないっすよ、ほらほらもう一杯!」

「おうおう、歓楽街でもねえのに可愛い子の酌ってのはたまんねえな!」

「テンちゃんこっちにも来てくれー!」

「はいはーい!」

「お前らぁ! 新人に酌させてんじゃねえよ!」


 商会に所属する商人は私が来たときよりも全然多かった、なんなら新人加入を聞きつけてたまたま街にいた行商人まで参加しているらしい。

 だいぶ懐が深いんだなここ。


 そりゃそうで酔った先輩商人から聞き出したところ、この街は商業都市。商人を中心に回っていると言っても差し支えない場所で、みんな結構な大物だそうだ。


 商会をまとめるギオンさんに至っては行商人から腕一本で成り上がった超ベテラン、語彙力ないとか思ってすんませんでした。


「テンがいれば護衛依頼も出さずにすむしな、今度隣町まで着いてきてくれよ」

「タイミングあれば是非、でも私も私で稼がなきゃいけないんで」

「護衛してくれたら出すよ、ギルドの仲介手数料もねえし隣町までの行き帰りで銀貨一枚!」

「銀貨一枚!? ギルドの護衛報酬って銅貨程度じゃ……?」

「ありゃあギルドの手数料で持ってかれてるんだ、こっちが払ってんのは銀貨だぜ?」


 ギルドに登録しなくてもこっちで十分稼げるじゃないか!

 でも護衛としてついていくだけじゃ商人としては一人前にはなれないか、自分一人で仕入れと商談をして黒字を出せるようにならないと認めてはくれなさそうだ。


「まあまずは護衛よりも商人になってもらわなきゃ困る。テンの身分証と登録証にかかった金も回収しなきゃならねえから働いてもらうぞ」

「それいくらなんですか?」

「中銀貨四十枚、姐さんが途中で帰っちまったからな。仕事はやるからお前がちゃんと払え」

「うっす……頑張ります……」


 ひゃあ、結構な大金だ。

 私が今日一日で稼いだ分から計算してもかなり時間がかかる。借金があるんじゃ自由とは言えないし早く返さないと。


「あと財布は見えるところで持ち歩くなよ。商人は狙われやすいんだ、必要分だけ持ってあとは預けとけ」

「宿とっても置いとくなよ、商人が泊まってる部屋は帰ったらもぬけの殻なんてあるあるだからな」

「そもそも宿とってないっす、寝泊まりする場所考えてなかったんで」


 稼ぐことに夢中でなーんにも頭に入ってなかった。どこで寝ようかな、ちょっと酔ってるしさすがに宴会帰りで寝ずに仕事っていうのはきつい。


「うちで寝るか? テンちゃんだったら大歓迎だよ」

「いやいやうちもいいぞ!」

「下心丸出しじゃないっすか、行けないですよ」

「もうちょい酔ってりゃいけそうだったのにな」

「そもそもこのあとギルドの方にも行くんで、その後考えます」

「酔い潰されて食われんなよ」

「大丈夫っすよ、もう何人か知り合いいますし」


 いやぁみんないい人達。私が見た目の良い女の子ってのもありそうだけど面倒見いいわぁ……聞けばなんでも答えてくれるし、耳を傾けてるだけで商人としての勉強になる話が多い。

 お礼に一肌脱いじゃってもいいかと思える。脱ぐか、どうせもう門番さん達に見られてるし。



「おーい、そろそろ切り上げだ。テンもギルドの方いってこい、こっちよりも騒いでるだろうから気をつけろよ。あと財布置いてけ、盗られるぞ」

「はいはーい、じゃあみなさんまた明日ー!」


 財布をギオンさんに預けて商会を出て、次に向かうのはギルドの新人歓迎会。

 まさか一日目から宴会をはしごしちゃうなんてテンちゃん大人気ね、みんな優しくしてくれるし嬉しいことだわ。


「本日の主役が来ましたよぉおっと!?」

「ぬがあああ!」


 どんちゃん騒ぎが外まで聞こえる明かりの絶えないギルドの扉を開けると――マッチョが飛んできた。

 このギルドは扉を開けたらマッチョが飛ぶギミックでもあるのかしら?


反射リフレクト

「ぬおおおお!?」

「なにぃ!?」


 飛んできたマッチョに対して、自分の体を中心に反重力を発生――飛んできた勢いのまま跳ね返した。

 最初来た時道まで飛んで転がっても怪我してなかったし、加減すれば大丈夫そうだ。


「ぐはあ!」


 跳ね返ったマッチョ、もといバルドさんが奥のマッチョに激突してぶつかられた方がカウンターまで吹っ飛んで気絶したけどまあ大丈夫だろ。


「見たかエンバー! 俺に勝とうなんて百年早えぜ!」

「いまのはナシだろ!」

「魔法じゃねえか!」


 口々に罵声が飛び交うギルドに入ると、扉横に立っていた冒険者に呼び止められた。


「新人、ギルド内でしていいのは殴り合いまでだ。武器や魔法は使うな」

「すいません、急だったもので」


 殴り合いまでは許されてるんだ。

 私は絶対しないけど、バレないようにすれば勝てるとしてもそもそも喧嘩はしたくないからね。


「バルドさん、もう始まってます?」

「おおテンじゃねえか! おいみんな今日入った新人が来たぞ、酒もってこい!」

「よっしゃあ飲むぞ新人!」


 これはまた……商会とはぜんぜん違う雰囲気の宴会が楽しめそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る