持つとしたらこうですね

 やあみんな、意気揚々とギルドを飛び出したテンちゃんだよ! いまから商会に戻って大事な納品証明書を渡して初仕事を完了させるつもり!


 その後はギルドに舞い戻って冒険者活動も始めるつもり、二刀流で金銀がっぽがっぽって寸法よ。


「よし、早いところ商会いって――ぐぇ!?」


 道に出たところでつんのめって後ろに転んだ。何事かと尻もちついたまま確認すると、ギルドから飛んできたマッチョが私の尻尾を掴んでやがる。


「ぐっ……くそ、次こそは俺が勝ってやるから首洗って待っとけよエンバー!」

「うんうんいい意気込みだね、片手に私をぶら下げてなかったらよぉ!」


 立ち上がったマッチョは手を高く掲げたせいで私がプラプラと空中で揺れている。重力魔法で体を軽くして負担を減らしているので骨とかは無事だけど、下手すれば獣人にとって大怪我だよねこれ。


 ここで骨折れたぁ慰謝料慰謝料! って言えばちょっと稼げそうだけど、テンちゃんチンピラじゃないの。

 無事ならそれでいいわ。


「ん? なにやってんだ嬢ちゃん」

「こっちのセリフなんですけど……冒険者の間では獣人振り回すのが流行ってんですか?」

「おっとすまねぇ、さっきまで意識が飛んでたもんでな」

「よっと、まあいいや急いでるから」


 下ろしてもらって商会に向かおうとすると、後ろから声をかけられた。


「詫びといっちゃなんだが、飯奢ってやるから暇あったらギルド来てくれー!」

「じゃあ後でー、すぐ行くからー!」


 返事だけして商会に戻り、カウンターで納品証明書を渡すと報酬の銅貨十五枚を貰えた。少ないけど同じ街かつ一回きりの配達ならこんなもんなのかな、聞けば一日かけて街中回る配達もあるらしいから暇な日はそっちのほうがよさそうだ。


「もうギルド入ってきたのか? 行ってみりゃ悩むと思ってたんだが」

「チャンネーと……じゃなくて私魔法使いですし、たぶんやっていけると思ってたんで」

「そうか、でも一日で二つの組織に所属するってなるとなぁ……どっちにするんだ?」

「両方やりますけど?」

「仕事の話じゃねえ、新人には恒例の歓迎会があるんだよ。自由参加だが俺達もあっちもやるだろうしどっちにするんだ?」


 おっとっと、そんな事考えてなかったな。

 新人歓迎会か……情報とか交流を得るためにはできるだけ参加したいんだけど、どっちを優先すべきか。

 商会が本業でギルドが副業だし、商会優先かな。でもギルドの雰囲気を考えるとちょっといい思いができそう……悩む。


「悩むんならこっちは早めに切り上げっからギルドの方にも行きな、どうせあいつら朝までやんだろ。こっちで飲み過ぎたら明日仕事にならねえぞ」

「ギオンさん優しすぎ……じゃあいまからギルド行くんで伝えときます!」

「関与しねえけど変な店まで着いて行くんじゃねえぞー」


 変なお店というのはそういうお店があるのだろうか……いやダメだダメだ、私はウタカゼさんに一人前にしてもらうんだから、それまでは我慢しないと!


 商会を出て再びギルドへ戻り、メインさんに納品証明書を渡した旨を伝えると早速ギルド内での制度やルールの説明をしてもらった。


「――ですので、まずFランクから始まります。掲示板の依頼書にランクが書いてありますのでお好きな依頼をこちらまで持ってきてください」

「主にどんなことするんですか?」

「低級モンスター討伐、商人護衛、街道警備ですかね。まずは日帰りでできる討伐任務がおすすめです」


 なるほどなるほど、女神様に祝福された私にとっては余裕の依頼ばかりだな。毎日一つこなしていればEランクにはすぐ上がるらしいし、私の年収低すぎ……とはならなそうだ。


「じゃあ早速なにか――」

「丸腰ですよね? 依頼を受けるのであれば武器も貸し出しますが一日中銅貨五枚になりますよ」


 およ? 配達依頼の報酬が飛ぶんだが、そしてFランクの月収を考えると赤字になる。でも魔法使いって言えばいいかな、最悪どっかで廃材でも拾って――


「嬢ちゃん、新人なんだからまずは交流が先だな。ソロは大変だから依頼受けるなら歓迎会終わった明日からにすると良い」

「あ、獣人ストラップマッチョさん!」


 カウンター前で悩む私に話しかけてきたのは道で転がってたマッチョ冒険者。さっきまで上裸だったのにいまはちゃんと装備を着てる、それっぽい武器は持ってないように見えるが腰から下げた斧か?


「悪かったよ、謝るから変な呼び方するな。メイン、軽い飯持ってきてくれ、支払いは俺だ」

「かしこまりました」

「そういえば新人歓迎会やるんですよね、私商会の方参加してから来るつもりなんですど」

「おお、もう聞いてたか。まあ座りな、飯でも食いながら話そう」


 空いてる席を探して座り、そこでメインさんとは別のウェイトレスみたいな人が持ってきてくれた軽食を食べながら話す。

 奢ってくれたマッチョはバルドという名前でCランクの古参冒険者らしい。


「歓迎会はギルドでやるから好きなときにこい、こっちとしては理由つけて飲みてえだけだから勝手にやってるよ」

「了解っす、商会が早めに切り上げてくれるらしいんであとから合流します」

「後はまあ……いいか、とりあえず依頼は明日にしな。歓迎会で気に入ってもらえりゃ手伝ってくれる奴がいるよ」

「じゃあそうします、正直お金困ってたんで!」


 せっかくの奢りということで追加で料理を注文し、満足した私は商会歓迎会に向けてちょろっとだけ配達をこなして小銭を稼ぎ夜まで過ごした。

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