お願いしますっ!

 やあみんな、身元引受人がどんな強面かとおもったらエッチなお姉様だったテンちゃんだよ! マジ最高すぎる、よだれが止まんねえなぁ!


 とか考えている内に馬車が止まり、降りるとなんとも大きな建物の前で聞くとこの街の中心となる商会らしい。市役所的な役割もあるらしく、ここで身分証を作ればあとは結構自由とのこと。


 仕事に関してはまだ何も聞いてないけど、やりたいことがあるならそっちに行ってもいいと言われた。そうなったとしてもたまに顔を出すつもりだし、そもそもやりたいことがないからこのままでいいや。

 あるとすればウタカゼさんの隣りにいること!

 だって超優しくない? 私結構怪しめな獣人だよ、こんなに手厚くしてくれる普通?


「ギオンはいるかい?」

「ウタカゼ様! 少々お待ち下さい、いま呼んで参ります」


 入って一言で商人って感じの小太りな男性が動き出しちゃったよ、ウタカゼさんマジ何者? 周りで談笑してた人もかしこまっちゃってるし逆に私が浮いてるまであるよ。


「ウタの姐さん、今度はなんの用ですか? ポーションはこの前卸したばっかりでしょう」

「今日は別の用だよ、この子の身分証を発行してくれ」


 奥から出てきたのは筋骨隆々なおじさん。見上げるほど背が高く、腕が私のウエストぐらい太い。めっちゃ強そう。

 

「なんだそんだけですか。君だな、受付で手続きをしてくれ。すぐ終わるから――」

「ギオン、わざわざあんたを呼んだ意味がわかってないのかい?」


 食い気味にウタカゼさんが言うとギオンさんが困ったように頭を掻いた。


「わかりましたよ……君名前は?」

「テンといいます」

「じゃあこっちに来てくれ、身分証を作る」


 受付じゃないのか?

 まあ呼ばれたから従うしかないけど、人目のないところでなにするんでしょうかねぇ。


 奥の部屋に入りギオンさんと対面して座ると、一枚の紙とペンみたいに先が尖った棒を出された。これで書き込めってことかな、文字の読み書きは女神様知識のおかげでできるけど、そもそも書けるところが少ない。


「姐さん、さすがに何度もできないですよ。作りはしますが商会にも見返りってもんをですね」

「私だって鬼じゃないさ。この子は魔法使いだ、しかもペングインとこの下っ端を十人捕まえたね」

「はあ!? お前そりゃ……とんでもねえな!?」

「あっはい、やばいらしいですね」


 商会の人なのに語彙力ないな。

 交渉とか商談的なことするんじゃないのか? あと門番さんも驚いてたけど、あの人達そんな厄介だったんだ。


「この子の身分証を作れば商会にも繋げられるし、私んとこからの仕事もこの子に任せられる……どうだい?」

「いやそんなこと言われたら作るっきゃねえな! よしテン、書けたら教えてくれ!」


 あらぁウタカゼさん交渉上手ですこと、信用の分もあると思うけど私の価値を一瞬でわからせて本当に相手から身分証をって言わせてる。

 これは期待にそぐわないよう私も頑張らなきゃな。


「あ、書けてますよ」

「よし、早速裏で……って名前しか書いてねえじゃねえか!?」

「訳ありなのはわかってただろう? 空欄はそっちでどうにかしな」

「ぐっ……くっそぉぉぉ……!」


 相手を乗せておいて不利な部分は後出しにする、もう断れないから負債を抱えるのは相手だけ……ウタカゼさん頭いいな、商人やったほうがいいんじゃないだろうか。

 あんまり多用すると初手から乗ってくれなくなるけど、一度きりの商談とかなら超有利。


「さて、茶でも飲んで待つかね。それにしてもいいのを拾ったもんだ、あんたには期待してるよ」


 ウタカゼさんに微笑みながら頭を撫でてもらって顔が緩んでしまったよ、えへえへ……もうペットになっちゃいそう。


「さてテン、私が面倒みるのはここまでだ。次会う時は商会登録したあとになるね、ギルドで稼ぐもいいしギオンのとこで商いを学ぶのもいい、自由に生きな」

「そ、そんなぁ!?」


 なにしてもいいが一番困るんだよー!

 せっかく優しい人に出会えたと思ったのに、また振り出しからなんてあんまりだ!

 このまま適当に生きてても毎日がエブリデイ、なにかやること探さなきゃ……。


「それじゃあ立派になるんだよ。私は帰るけど半人前ぐらいになったらウタアワセって店にきな、一人前にしてやるから」

「えっ! それってまさか――」

「さてね、来てからのお楽しみだよ」


 ふぅーと吐いた紫煙だけを残して、ウタカゼさんは商会を出ていったしまった。

 これはもう……やるっきゃないっすよ自分、なにすればいいとか言ってる場合じゃない! やれることなんでもやってウタカゼさんに会いに行くんや!


「お待たせ……なんだ姐さん帰ったのか、身分証と商会登録証持ってきたから」

「ギオンさん! とにかく稼げる仕事ないですか!?」

「うおっ!? どうした急にやる気出して……」

「とにかく頑張らなきゃいけない理由ができました!」

「ならギルドか、商会登録もしたからうちで配達やってもいい。新人に任せられるのは簡単なものからだが」

「両方やります!」

「お、おお……じゃあまず商会の説明からするな」


 目指すは半人前、そしてウタアワセというお店。ウタカゼさんに乗せられて私のやる気はうなぎのぼりだった。


『そこに……そこに愛は……』

「ありまぁす!」

『……ぐすん』


 ごめん女神様、結婚前に一人前になってきます!

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