商業都市ヘラルス
先立つものはいるよね
果実をむしゃむしゃしながら歩いて、濡れた指を舐めていたら私の耳がちょっとした音を拾った。
足音か、ザザザッと走るような音だったので一度上空に上がって見下ろしてみると森の中に人が走っている。真っ黒な服にバンダナで顔を隠していていかにも怪しい奴らだが、さらに奥へ目をやると街が見えた。
城壁に囲まれている都市みたいだが、大きな門から荷車や馬車が出たり入ったりしている。意外と商人とかが結構盛んに通ってる商業都市な場所なんだろうか。
「おー……賑わってそう、あそこ目指すか」
ゆっくり降りて地面に着地、街が見えた方向に歩いていると足音がこっちに近づいてきていた。
おそらくさっき見てた怪しい奴らだと思うが、目的はなんだ? こちとら転生したての無一文だぞ、服は綺麗で気に入ってるけど出せるものはない。
ガサガサと草が揺れて、顔を出したのはやっぱり黒尽くめの男達。湾曲した剣を持ってて中心の私を囲んで広がっていく。
「獣人が歩いてんぜ……」
「不用心だぜぇ、こりゃ攫われちまってもしょうがねえなぁ」
「上物だぞ、傷はつけんなよ」
あっはい、そういう感じなんですね。
あれか、見た目の良い女の子攫って貴族とかに売るあれだ。ここで捕まったらたぶんこの先身ぐるみ剥がされて変態に売られ、まあよくて奴隷コースだろうな。
最悪使い倒されて捨てられるとか、うわぁきっつい。
「おい女、怪我したくなかったら――」
「はいみなさんご注目!」
指を鳴らして小さな星を一つ作り出し、ちょっと高い位置まで飛ばして止める。
突然出てきた不可思議な物体に男達が黙って見上げてくれたので、引力を作り出してどんどん強くしていった。
「
「……? うおおお!?」
「なんだ! 体が勝手に!?」
気づいた頃にはもう遅い。
怪しい男達は球体にぎゅっとまとめられて身動きが取れなくなり、星を地面近くに下ろしてそのまましばらく放っておいた。
「魔法使いだったのかよ!?」
「助けてくれー!」
「誰か、誰か来てくれー!」
と口々に叫んでいたがまだ街から遠いこの森の中じゃ助けなんてこねぇざますよ。街に入ったら解除するから反省でもしててくりゃんせ。
「あ、そうだ――」
ふと思いついて別の星を出し、男達が腰からぶら下げている革袋を引き寄せてみると思った通り中には通貨と思しき銅の硬貨が入っていた。
大きさがまちまちだし、どう考えても一番小さいのから二周り大きな物がある。価値が違いそうだけどとりあえずこれだけあれば先立つものとしては十分そうだ。
価値については街についてから誰かに聞いてみることにしよう。
さて。
森を抜け出し街道に沿って街に向かっているのだがここでクエスチョン!
故も知らない獣人を街に入れてくれるかな?
答えは無理っしょ、村とかならまだしもしっかりした街でよく見りゃ門番さんまでいます。出入りする人もなんか厳重なチェックを受けてますね、私このまま行っても追い出されるだけじゃね?
「ていうか名前よ……おいたん記憶ぶっ飛んでるから前世の名前すら名乗れないんだけど」
女神様に名付けとかしてもらえばよかった……いや、変な名前つけられても困るし自分で考えるか。
獣人なんだよな、そんで女神の見た目人の魂テンの特徴……テン? テンかー、まあなくもない。
よし決定、私テンちゃん!
ギョウザが爆発する気がしたからさん付けはなしで!
名前問題はこれで終わり、あとは門番さんをどう切り抜けるか。色仕掛けは最終手段として……通じる可能性低いし。
私が一人森の奥からエキサイティングしてきた嘘っぱちの理由を考えなければいけないでござる。
身なりはいい方だから――
街に向かう移動中野盗に襲われた。
なんとか逃げてきたので匿って欲しい。
可愛いので匿ってくれるよね? 入れてくれたらいいことしてあげるかもようっふん作戦。
「うんまあ……最悪その場で捕らえられてなんてことはないから試すだけ試そう」
直近のプランが決まったので門の前に並ぶ人たちの後ろについて、高い門を見上げながらしばらく待っていると前の人が普通に中に入っていき私の番が回ってくる。
門には大きく【ヘラルス】という看板があってこの街はそういう名前なんだなと思いながら門番の前へ行った。
「名前と出身、滞在期間と理由をどうぞ」
「テンといいます。ヘラルスに来る間に森で野盗に襲われてしまって……街に入れてくれませんか」
とびっきりに準備しておいた顔で門番さんにアピール、可哀想だろう? 細かいこと気にしないで街に入れたくなっただろう?
「身なりはいいようだが、この辺に野盗はいない。虚偽を続けるなら牢獄で聞いてやるがどうする?」
「すんませんした……」
ダメだったね!
そんな都合よくいくもんじゃないか、働き者だなぁ門番さんは。いやでもいたよな野盗、全然私のこと取り囲んでさらう気満々だった奴らが。
あれはまだ魔法を解除してなかったし、そのまま持ってくれば証拠として認められて街に入れるかもしれない。
「一回戻るか」
野盗共も回収するために私は一度森の中にまで戻ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます