30,走る×走る×私たち【緒方千草】

 上空からロボットが降りれる場所を探す。池のある場所から池を埋めるための土砂を積んだトラックが並んでいてこのロボットではその隙間に降りることは無理そうだった。

「池の近くに降りようとするとどうしても車潰しちゃうけど潰しちゃってもいいかな」

「ダメに決まってるでしょ!」

「車が止まってるところの手前で降りて登ってくしかないね」

「結構距離あるよ」

「でもいくよ!」

 ロボットを車列の手前に着陸させる。コックピットから飛び出す。おそらく鍵である珍宝は遥子が持っている。トラックの運転手が窓からこちらを怪訝な目で見てけど中から出てくる気配はなかった。そりゃそうだよね、普通。おかげで邪魔されずに走っていけそうだった。

「いくよ、急いで!」

 そういってネイが一番に走り出す。でも、勾配があり、ペースを考えていないもので、すぐにばてて動けなくなってしまった。

「もうだめだ…」

「バカっ!」

 仕方ないので、3人でネイを代わりばんこに背負っていくことにした。思ったより軽い体重だったので、そこまで大変ではなかった。けれでも、もう、走るという体ではなく、よろよろとよろめきながら歩いて進む、というような状態。マラソン大会の最後500メートルって感じ。永遠に続くかと思われた坂道を登り切り、やっと目の前に見覚えのある景色が見えてきた。ふたつ池だ。ふたつ池の周りにはいくつものポンプがおかれもう大分水も抜かれた後みたいだった。池まで近づくと目の前に太り気味の男の人がいた。周りに指示を出してるから偉い人だと思う。思いっきり大きい声で話しかけた。

「まって~~~~~!」

「宇宙船!埋めないで!」


◇ ◇ ◇


 予感は当たり、その人はこの現場の現場監督だった。宇宙船のこと、ネイのことを素直に話す。

「その宇宙人が宇宙に帰るための宇宙船が、あの、赤い何かだっていうことなのか?」

「そうですそうです!で、これが鍵」

 遥子が珍宝をぶん回す。

「ダメですよ、社長、こんな子供のいうこと真に受けちゃ。あの赤い何かは…赤いなんかですよ。とにかく駄目ですよ、工程もギリギリですし、アレ、アレがもしUFOだとして、どんだけ埋まってるかわかんないですけど、その分が飛んでったら埋め立て用の土砂増えるじゃないっすか。今日手配してる分で足りないじゃないっすか。そうするとまた後日ってことになって、工程ぶっとぶどころじゃないですよ。社長」

「そうだな…うん…お前の言うとおりだな…」

「監督さん!お願いします!」

「難しいな…、それに、止めるっていっても俺の一存でできることじゃないからなあ」

 監督さんは顎を指で撫でながら考えている。そういう癖なのかもしれない。ふと、私たちの背中のネイに目をやる。なにかに気づいたようだった。

「その額の角…もしかして、そっちの子が宇宙人なのか?」

「はい、そうです」

「じゃあこっちの子は?」

 遥子を指さして言う。そうだよな~そう思うよな~。

「地球人です」

「そう」

 私たちの背中でまだ荒い息をしてるネイを見ながら言う。

「この子、もしかして、地球の環境に会わずに、死にかけているのか……」

「いや、これはさっき…」

 本当のことを言いそうになった美香の口をふさぐ。

「そうなんです!この子、地球の環境で生きていけなくて!だから、宇宙に帰してあげないといけないんです!本当!」

「やはり……そうなのか……」

「わかった、工事は中止しよう、その宇宙人が宇宙<フリガナ:ソラ>に帰るまで工事は中止だ!」

 そういうと監督さんはさっきの人を呼んで工事の中止の命令をした。

「ありがとうございます!」

「いやなに。たまには俺の意志で決めてみたいのさ」

 そういって私たちを池へと送り出してくれた。

 後ろを振りかえるとどこかへ電話しているようだった。


◇ ◇ ◇


「え?ここ行くの?」

「行くよ!」

「行こう!」

「ごめん~おねがい~」

 中途半端に水が抜かれた池は、底にたまった泥だけ残った沼になっていた。歩きにくそうだし、何より汚い。

「なんか便利な道具ないの?」

「もう全部使っちゃった」

 くそっ、もう自分の体だけが頼りだ。意を決して泥沼に飛び込む。続けて美香、遥子、ネイも飛び込む。思ったよりも泥沼は深く、腰の下あたりまで沈んでしまった。泥をかき分けて泳ぐようにして、ゆっくりと進んでいく。美香が転んで、全身顔も髪も泥まみれになった。気を付けて~って声をかけた遥子も次の瞬間転び、ピンクの髪が真っ黒になった。そういう私も転び、泥で体が重い。ネイは転びまくってもう泥の柱みたいになってた。それでも、10センチ、20センチと赤い球面に近づいていって、とうとう、とうとうその上に上ることに成功した。

「じゃあ、やる?誰がする?」

 遥子が聞く。

「決まってるでしょ」

 4人で。

 遥子が掲げた棒に残りの三人が手を添える。そして、タイミングを合わせて、球面の中央にある他と色の違うへこんだ部分に思いっきり突き刺した。次の瞬間、棒が球面の中に吸い込まれ、そして、球面から赤色の光が放射され、空へまるで柱のように飛んでいった。

「やった~~~~~!」

 珍宝はやはり宇宙船の鍵だった。今までの苦労が全部、やっと報われた。踊り出したい気分だ。遥子が抱き着いてきた。私も美香に抱き着いて、美香はネイに抱き着いて。とにかくみんな抱き合って喜んだ。やった!やってやった!

 ドン、ドン、ドン、と地震のような、地響きがして、体が宙に浮く。とうとう、とうとう宇宙船が浮かぶんだ!

 と、思ってたのに。

 赤色の光は、徐々に小さくなり、そして、消えた。UFOのハッチは開かない。代わりにまた前回のようなアナウンス。

「l;オア得v氏mrアpl、crs」会えどt:fydb@pt、dys、tr」

「何?何言ってるの?」

 今までにないしょっぱい顔でネイが答える。

「『物理キーによる第一認証を通過しました。遺伝子による生体認証をしてください。パイロット本人、またはその血族の人間である証明をしてください』だって」

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?」

「生体認証って何?」

「本人確認って本人もう1000年前に死んでるよね?これって」

「もう無理じゃん~~~~~~~~~~~」

「あ、でも見て、本人じゃなくても血族ならOKだって!」

「どこにいるんだ!そんな奴!」

 ここまでやったのにまだ駄目なのか。ていうかセキュリティ厳しすぎだろ。もう、なんかもう、あまりのことに笑えてきた。ははははは。そしたら、また地面から緑色の光。そしてアナウンス。

「;ロmjp:」江rltvbtk」r:、vs:」れt・;yr」ヴぇr、よv:えr」tヴぇ。s」

「え?え?え?」

 ネイが驚きの声を上げる。

「どうしたの?なんかあった?もう何があっても驚かないよ」

「……『生体認証を確認しました。今から起動します』だって」

 ………。

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?」

 次の瞬間。


 どおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん


 今までにないレベルの地震が起こり、私たちの体は、文字通り宙に舞った。

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