26,2人×3人×7人【井村美香】

 ロボットのコックピットから転がり落ちるように降りた泉野くんはそのままの勢いで思いっきり一ツ橋くんの頬を殴った。吹き飛ぶ一ツ橋くん。私、人が人を殴るの初めて見た。

「学!?え?何するの耕治くん!」

「俺は、俺はお前が許せねえ!音羽!お前もだ!」

「え?私も?」

「みずくせえじゃねえかよ?俺たち、仲間だろ?もう、仲間だろ?なあ!だったらさ、一人で抱え込むなよ、頼れよ、信じろよ、一人でなんでも解決しようとするなよ!」

「二人です」

「音羽!だからそういうことじゃなくてな?」

「二人です。これは私たちふたりの問題だから」

「だから違うんだって、これは、こんなことになったのはお前ら二人だけのせいじゃないだろ?音羽のおじさんとか、一ツ橋のおじさんとか、京子のお父さんとか、俺とか、京子とか、ほかのこの町のみんなとか、そういう色んな奴が、色んなことを思ったり、色んなことをした結果こうなったわけだろ?だからさ、お前らだけのせいじゃないんだから、巻き込めよ。俺を、俺たちをさ、頼むよ」

「みんなに、これ以上迷惑はかけられないと思って」

「もう十分迷惑かかってるよ、これ以上は誤差誤差!」

 遥子がちゃちゃをいれる。

「いや、迷惑かけたのはあんたもでしょ」

 千草が返す。

「な、行くぞ、みんなで」

 泉野くんが転がったままの一ツ橋くんに手を差し伸べる。一ツ橋くんはその手を取り体を起こす。殴られたというのに一ツ橋くんは泉野くんの胸を軽く小突いてクスリと笑った。なるほど、これが男の友情ってやつか。


◇ ◇ ◇


「ほらみろよ、これ。チンポ」

「本当だ…チンポだ…」

 ロボットの鍵である黒くて細長い棒を弄びながらチンポチンポいっている男子二人。これが男の友情というやつなのか…。わからない…こわい…。

「これからいう方向にある家に向かって欲しいんだけど」

 と一ツ橋くんが後部席からネイに指示を出す。木々が茂る丘を越え、ロボットは一直線に一ツ橋くんのいう方向へ飛んでいった。

「どうする、ちょっと離れたところに止めるか?」

「いや、時間が惜しい。そのまま庭に着陸できる?」

「え?いいの?やっていいならするけど」

 ロボットは、集落の中でもひときわ大きい家の庭に空気を逆噴射しながら着陸した。縁側でお茶を飲んでいた老人が目を丸くしてこちらをみている。

「お爺さん~、僕です、一ツ橋学です!」

 ハッチを開いて、一ツ橋くんが老人に挨拶をする。

「津村さん、私です。音羽です!」

 最初は警戒していた老人も一ツ橋くんと音羽が顔を見せたら安心したようだった。

 ロボットの手を伝って二人が降りる。

「学くん、音羽ちゃん、なんだねこれは?」

「これは、宇宙のロボットで、この町に埋まってたのを掘り返したものです!」

「この町には、昔宇宙人が来ていて、その宇宙人の乗ってる宇宙船が今もふたつ池に埋まってるの」

「宇宙に帰れなくなった宇宙人を帰すために、その宇宙船が必要なんですけど、それを動かすためにはお爺さんのうちの家宝の天狗の珍宝が必要なんです!」

「譲ってもらえませんか?」

 老人は少し悩むようなふりをして、でも面白くて仕方ないような顔で。これだけ生きていてもまだこれだけ驚くことがあるのか、といって、蔵からその珍宝を持ってきてくれた。

 そして珍宝をもってロボットに乗り込んだ一ツ橋くんと音羽に聞いた。

「町じゃ、君たち二人、駆け落ちしたって専らの噂だけど、本当かい?その、宇宙船とやらで一緒に宇宙に行ったりするのかい?」

「いいえ僕たちは―――」

 そして二人は声を合わせて言った。

「―――戦います」

 老人の口笛を吹く様な音が聞こえた気がした。

 ロボットが下面にある噴射口から空気を噴射させる。ロボットは空に舞い上がり、そして一路ふたつ池を目指す。


◇ ◇ ◇


 ロボットはジャンプを繰り返すようにして山と道路の間を縫って進んでいく。コックピットのハッチは開いたままで、半ば身を乗り出すようにして私たちはロボットに乗っている。目の前に伊吹山が見えた。シートの目の前の空間にモニターがポップアップする。ふたつ池の様子が拡大して表示される。ふたつ池から伸びる道路には大型の車両が何台か並んでいる。埋めるための土砂を積んでいるようだった。、ふたつ池のすぐそばにある車両からは巨大なホースが池の中に突っ込まれていた。他にも池の周りにポンプらしきものがいくつか設置されている。

「まずいな、もう水抜きが始まってるみたいだ」

 泉野くんがその様子を見ながら言う。

「お父さんは?お父さんたちはいないの?」

「ちょっと待って、今探してる」

 ネイがコックピットの中にあるパネルを操作する。

「見つけた!あれ?ここどこだろう…?登山道の途中みたいだけど…?え?一体なんで?」

「どうしたの、ネイ」

「ちょっとこれ見て」

 さっきと同じように空間にモニターがポップアップする。そこには、おそらく登山道の途中と思われるところにいる音羽のお父さんが映っていた。そして、その場所にはもう二人。

 藤谷京子と、それと向かい合うようにして、一ツ橋英雄――一ツ橋くんのお父さんが立っていた。

「なんで…父さんがこんなところに…?」

「京子ちゃん…」

「どっちにしろ時間がない。手分けしようぜ。音羽の父さんの方へは音羽と学と、俺で。宇宙船の方はネイと遥子と千草と井村で頼む」

「わかった!」

 ロボットはサイズの問題で直接登山道に降りることができないので、登山道の3人がいた場所に一番近い場所にある舗装路に降りることにした。3人を下ろした後、私たちはふたつ池へと向かったのだった。

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