22,美香×千草×ハルカナ【井村美香】

 始めて授業をふけた。

 学校には来たが1時間目から授業をさぼって視聴覚室にいる。暗幕を閉めプロジェクターにスマホをつなぎスクリーンに大写しにしながらハルカナの動画を見てる。机の上にはスナック菓子、砂糖とミルクをたっぷり入れてキンキンに冷やした紅茶の水筒。コツコツと誰かが扉を叩く。

「私は誰?」

「緒方千草」

 千草は扉を開け、そのまま何も言わずに私の隣に座る。

「ん」

 そういって千草が私に手を伸ばす。スナック菓子を渡すとバリバリと食べ始める。

「ん」

 今度は紅茶を渡す。水筒ごとぐびぐびと飲み干した。飲み干した後、口を手の甲でぬぐい、一息つく。

「あんたのさ、紅茶異常に甘いよね。いつも私苦手だったんだけど」

「じゃあ正直にそんとき言えよ」

「美香が、傷つくかと思って」

 目の前のスクリーンではハルカナのピンクの髪が揺れている。

「昨日のアレ、なんなの?」

「コメント欄とかtwitter、大変なことになってるよ」

「あんたには関係ないでしょ」

「千草、って名前思いっきり呼んで。個人情報だっつーの」

「私なんか顔が出てるんですけど」

「それはあんたが自分でやったんでしょ」

 ハルカナの曲が終わり、CMが入る。点天カードマンがクレジットカードの宣伝をしている。

「私、あんまり人のことを、友だちとか友だちじゃないとか考えたことないけど、あんたのことは、友だちだと思ってるよ」

「今年の4月まで名前も知らなかったくせに。小学校の時3回も同じクラスだったんだよ」

「それはごめん」

「私は、ずっと千草のこと友だちって思ってなかった」

「そう」

「でも、友だちになりたいと思う」

「そう」

「でも、どうやって友だちになっていいのかわかんない」

 点天カードマンのCMが終わり、次のハルカナの曲が始まる。友だちの喪失を嘆く歌だ。友だちは、離れたり、忘れたりしていつの間にかいなくなっていく、っていう歌だ。

「そんなこともわかんないの?そばにいたらそれが友だちだよ」

「ともだち?」

「ともだち」

「なんか照れ臭いね」

 そういって、千草は笑った。

 多分私も笑ってた。

 ……扉の向こう側で気配がする。

「わ、私は誰?」

「誰?」

 私と千草が同時に聞く。

「ゆ、雪待遥子、わ、わたしも入っていい?」

 そこにはぬいぐるみを抱えた遥子が立っていた。

「いいよ。ともだち」


◇ ◇ ◇


 と、そんな感じで、授業をさぼって3人で動画を見ていたのだが(ぬいぐるみのチャックからネイが頭を出していたから4人か)突然の扉を激しく叩く音。

「こらっ!何してる!授業中だぞ!」

「やべっ、先生だ!」

「千草!遥子!窓から!窓から逃げよう!」

「ここ3階だよ!」

「やめて落ちる!死ぬ!」

「こらっ!お前ら!」

「わーーーーーーーっ!」

 …結果、昼休みの間、多目的室で正座、後日反省文の提出になった。


◇ ◇ ◇


「なにしてんの?」

「正座」

「反省は?」

「してない」

 昼休み。多目的室で私と千草、そして雪待が正座で反省させられてると聞いた泉野くんがからかいに来た。雪待は正座し慣れてないのか顔を真っ赤にしてぶるぶると震えている。

「で、学はなんでここにいるの?」

「先生に監視役を頼まれた」

 一ツ橋くんが私たちの斜め向かいに座って私たちが正座を崩さないか監視してる。なぜか自分も正座で平気な顔をして座ってる。

「ねえねえ一ツ橋くん、正座してたってことにしてよ」

「いや、でも決まりは決まりだから」

「融通きかないなあ!」

 千草が一ツ橋くんに非難の声を上げる。

「…泉野くん、私相談があるんだけど」

 私は、泉野くんの目をみて話しかける。

「私、あの宇宙船何とかしたい。ネイが何とかして帰る方法を探したい。諦めたりしょうがないって思いたくない」

「ミカ…」

 ぬいぐるみの中からネイが顔を出す。

「私も。ここまできて、駄目でした。ってかっこ悪い」

 千草が続く。

「あ、あし、あし、しびれた、あし」

 遥子。あんたは本当に。

「全部いっぺんにっていうのは無理かもしれないけど、できることを考えて一個一個やっていこうよ」

 そして一ツ橋くんが。

「みんな…ありがとう…!」

 ネイがみんなにお礼をいう。

 と、その時ピロリピロリと泉野くんのスマホがなる。どうやらメールの着信音らしい。泉野くんがスマホをポケットから取り出して画面を確認する。。

「と、ちょっとまってくれ」

 メールの内容を読んでいるようだった。口元の端が吊り上がる。

「今、できることを考えて一個一個っていったな、学。できることが一個できたぞ」

「音羽が、国府田の家からいなくなった」

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