18,雨漏り×ぬいぐるみ×おばけ屋敷【雪待遥子】

 いつもそうだ、いつもそうだ、いつもそうだ。

 私が関わって、ものごとが上手くいった試しがない。

 いつも、いつも、いつだって、全部台無しにしてしまう。

 わたしは、この地球で生きていくための何かが決定的に欠けている。

 わたしは、“宇宙人”だった。

 わたしが、友達になろうとして近寄っていくと、みんな逃げていく。みんなが言っていることが冗談なのか本当なのかわからない。わたしもみんなの真似をして冗談を言ってみるけれども、それを冗談だってとってもらえない。みんながわたしにやさしい嘘をつくけれども、それくらいわたしにも嘘だってわかる。でも、どうしようもない、何もできない。ただ、みんなと友達になりたいだけなのに、ひとりになりたくないだけなのに、いつも台無しにしてしまう。

 小学校の頃のわたしのあだ名は貞子だった。雪待貞子。髪の毛を切ることが出来なくて、ずっと伸ばしっぱなしになっていた。伸ばしっぱなしになる前はお母さんが切ってくれていたのだけれども、お母さんがお父さんと離婚して出ていってしまってから、私の髪の毛を切る人がいなくなってしまった。わたしは髪の毛を人に触られるのが嫌で嫌で嫌で。だからお母さん以外には切ってもらうことができなかった。お父さんは家に帰ってこなくなった。多分、わたしが悪かったのだと思う。お母さんが出て行ったのは、わたしが育てにくい子供だったからだ。幼稚園や学校で、恐いことがあるといつもわからなくなって叫んでしまう。気が付くと目の前の友だちが頭にこぶを作って泣いている。その度にお母さんとい一緒にその友だちの家に謝りに行って、でも、言葉では許すって言われてもそれは嘘で、どんどんわたしは一人になっていった。お母さんもきっと謝るのに疲れて、私に疲れて出ていってしまった。お父さんが帰ってこなくなったのも、わたしのせいでお母さんが出ていってしまったからだ。全部わたしが悪い。小学校になって、なんとかワッってなるのを我慢できるようになったけれども、わたしは周りの友だちが話していることが理解できなかった。○○ちゃんのことが好き、嫌い、友だち、気もち悪い。やがて、その場所にいるのが誰かということで、その、好き、嫌い、友だち、気もち悪い、が変わってくるっていうのはわかるようになってきたけれども、何が嘘で何が本当なのかはわからなかった。みんなはそのどれが本当で嘘なのかわかっているんだろうか。本当にわからないので一度聞いてみた。××ちゃんはあなたのことを気持ち悪いっていってたけれども、それ、どういうこと?○○ちゃんは、知ってる、と答えて、ボロボロと泣き出してしまった。それから〇〇ちゃんは学校に来なくなった。わたしが台無しにした。そしてみんながわたしから距離を置くようになる。いつもそう。わたしは、宇宙人で怪物だった。地球で生きていくための何かが決定的に欠けている。息ができない。

 私は学校に行かなくなって、家でテレビを見て、インターネットをするようになった。インターネットはよかった。目の前に人がいないから。見えない何かを必死で見ようとしなくていいから。ここなら私は息ができた。怖いことが何もなかった。お父さんは家に帰ってこなかったが、わたしは一人でも平気だった。

 そんな時、その歌声を聞いた。

 ハルカナ。

 わたしだ。わたしだ。わたしの歌だ。宇宙人の歌だ。間違った場所に生まれて、連れてこられて、そして息が出来なくなってる生き物の歌だ。

 ―そう思った。だから。

 わたしはハルカナになろうと思った。

 黒く伸びた髪もハルカナと同じ色に染めた。人に触ってもらうのは怖かったけど、叫びたいのを必死で我慢した。ハルカナみたいに、前に進もうと思った。学校に行こう。怖いのも臆病な自分も、全部飲み込んで、生きていこう。辛くなったら歌を歌おう。

 そして、そんな時、ネイ、本物の、本物の宇宙人に出会った。

 出会ったのは都会の路地裏だった。誰も来ないような店と店の間の通路にぬいぐるみが落ちて倒れていた。かわいそうにと思って、拾って家に持って帰ったら中からネイが出てきたのだ。宇宙船が壊れて帰る方法を探してるっていって。わたしを頼って。わたし、わたしに助けられる?いつも何もかも台無しにしてしまうわたしに。ううん?きっと大丈夫。だって、今のわたしはハルカナだから。何でもできる。

 ――でも失敗した。結局うまくいかなかった。せっかく友だちになったのにミカちゃんともチグサちゃんとも仲たがいをしてしまった。それだけではなくて二人の友情を壊してしまった。わたしが感じたり考えたりしてるみたいに他の人も感じたり考えたりしてると思ってはいけなかったのだ。わたしは友だちがハルカナだったらただ嬉しいと思っただろうし、そういう秘密を中のいい友だちと共有出来たら素敵だろうなと思ったのだ。

 わたしは結局、ハルカナじゃなかった。ただの宇宙人だ。


◇ ◇ ◇

 

 雨漏りがする。

 わたしは素敵な家だと思っているのだけれども、みんなはおばけ屋敷だという。そういうことを言われるとさすがのわたしでもちょっとしょんぼりする。ネイの元気がない。当たり前だ、もう宇宙に帰れる望みが無くなってしまったんだから、この地球に独りぼっちなんだから。帰れる場所がないことの辛さや独りぼっちの辛さは、ネイほどではないけれどもわたしもわかる。だから、独りぼっちと独りぼっち同士、なんとかやっていこうよ。何とかなるよ。そういって励ましたいんだけど、うまく言葉が出てこない。だからずっと大丈夫大丈夫って声をかけている。ぬいぐるみの隙間からネイが顔を出す。心配そうな顔でこちらを見ている。「大丈夫?」と私に聞いてくる。何が、大丈夫だよ、絶対大丈夫だから、そういうとネイが、「ボクじゃなくて」という。頬に触れる。雨漏りが。雨漏りじゃなかった。わたしが泣いていた。大丈夫じゃなかった。雨がやまない。雨漏りがやまない。助けてっていっても、いつだって誰にも届かない。

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