14,調査×記録×大船神社【泉野耕治】

 みんな変だ。

 雪待が変なのはいつものこととして。

 昨日から変なのは学と音羽だ。なんかお互いの視線を気にして、チラチラ見ては視線を逸らしたりする。うん、音羽から報告はないが、なんかうまくいってるんだろうな。あの飛行ガサの墜落のあたりからなので、まあ、怪我の功名ってやつだな。二度とごめんだけど。

 今朝から変なのは千草と井村だ。ここ数日変に仲がいいなと思ったら今日は一切視線を合わせない。話を振っても全然しゃべらないし、千草はずっと不機嫌なようだった。酒処ちくさで別れた後に何かあったな。これは。

「耕治!今日はどうする?宇宙船早く見つけてネイを宇宙に帰してあげないとね」

 京子はやけに協力的で。ただ、これは本来の京子の姿だ。困ってる奴がいたらほっておけないのが京子だ。ここ数週間の選挙でピリピリしていたのが変だったのだ。

 とりあえず放課後集まって作戦会議だな。


◇ ◇ ◇


 放課後。みんなで教室の後ろのスペースに集まる。千草と井村、そのまま帰っちまうかと思ったけど参加してくれた。ネイがぬいぐるみの中から顔だけ出している。それ、ぬいぐるみのなかに首詰めているみたいだからやめて。怖い。

「で、天狗岩がダメだったので、どうしようって話ですけど」

「やっぱり天狗って名前の付くところ回っていくしかないでしょう。地道な作業。どっかで当たるよ。大体の場所がわかれば私のゲームのポータルをめぐっていけばわかるし」

「あの、ちょっと思いついたことがあるんだけど」

 お、学くん、何か思いついたかね。

「大船神社に縁起を見せてもらいに行こうと思って」

「演技?」

「縁起っていうのは神社の由来や出来事とかをまとめたもので、1000年前の出来事がもしかしたらその縁起に書かれているかもしれないから。そうしたら落ちた場所もわかるかもしれない」

 なるほどなあ。そういうものもあるのか。

「じゃあ手分けしようぜ、地道に天狗なんとかを回っていく組と大船神社に行く組と。どうするまたクジかじゃんけんするか?」

「天狗まわりはアタシ確定でしょ、位置情報ゲーム私しか入ってないから。で一ツ橋は神社確定。残り6人だけど」

「わたし天狗まわりする!ほら、ね、みかちゃんもちぐさちゃんも行こ!一緒に!」

 と言って雪待が二人の腕を引っ張る。ちょっと…と千草が言う。本当に雪待空気を読まないがもしかしたら逆に気を使ってるのかもしれない。じゃあそっちは任せた。俺は別に気を使わないといけないところもあるので。

「じゃあ、井村と千草、京子と、あと雪待とネイが天狗まわり組で、俺と学と音羽が神社組な」

 流れに乗じて学と音羽を同じ組に放り込んだ。


◇ ◇ ◇


 学校の正門の前でそれぞれ分かれて、人気のないところから飛行ガサで飛んでいく。

 神社まで普通だったら自転車で40分くらいかかるところだけれども、飛行ガサだったら10分だった。便利だ。鳥居の前に降りてから、鳥居をくぐる。なんだろうなこの鳥居をくぐらないとっていう気持ちは。日本人?

 大船神社は平坦な田んぼが広がる中にポツンとある。田んぼが水が張られている季節なら空に浮かぶ森のように見えるだろう。神社は何本ものでっかい木に囲まれていて、そこだけ他とは違う空気が流れている。

 ひとまず拝殿に行く。見た限りだれもいなかったが、あのぉ、と声をかけると奥から袴姿のおじさんがのっそりとやってきた。紙屋さんだ。

「あの。ご連絡した一ツ橋です。あの、この神社の縁起を見せて頂きたくて」

 あらかじめ連絡していたらしい。そつがないな。

「ああ、君が電話をくれた一ツ橋くんね、まあ、若いのに勉強熱心だね。うん、まあ、上がりなさい。あ、すいません、私、この神社を任されています、紙屋、といいます」

「どうも、今日は、よろしくお願います」

「よろしくお願いします」

 俺と音羽も続けて挨拶する。

「耕治くんも音羽ちゃんも今日はよく来たね。今日練習の日じゃないからおかしいなとおもったんだけど、そうか、この子の付き添いだったのね」

「知り合いなの?」

「あの、俺らお祭りで天狗神楽踊るだろ?大船神社の例大祭で。だから準備やら練習やらで結構お世話になってんだよ」

「いまお神楽の舞台くんでる最中ですよ、あとで見ていってください」

 そして促されるまま拝殿に上がる。拝殿の奥は薄暗く、目が慣れるのに少しかかった。

「あんまり軽々しく見せちゃダメなんだけど、まあ、若い人が勉強したがってるというのならね」

 といって、大きめの箱を見せてもらう。古びた木の箱であちこち黒く変色している。

「ただねちょっと保存状態がよくなくてね」

 そういって紙屋さんは封印している紐をほどいて蓋を開ける。蓋を開けると大小のいくつもの巻物がばらばらと放り込まれていた。


◇ ◇ ◇


「そっとね、そっとだよ」

 そういう紙屋さんとゆっくりと本殿の中に巻物を広げていく。短い巻物は1m、長い巻物は5m近くあった。絵や文字が書かれていて、国語や社会の教科書で時々見る絵巻物と同じだなあ。でもなんか、こういう普段見れないものをみるとドキドキするよなあ、と思ってて横をみると学はさらに興奮しているみたいで、目が見てわかるくらいキラキラと輝いてる。そういやこういうのが好きで郷土史研究会に入ってるんだもんな。

「あの、写真撮っていいですか?」

「いいですよ、どんどんとっていってください」

 スマホの写真でパシパシとる学。

「先代の先代がね、これやら社宝に何かあったときに記録ががなくならないように、って業者読んでマイクロフィルムに全部撮影したんですよ」

「マイクロフィルムって何ですか?」

「写真の普通のフィルムみたいな形なんですけれども、すごく細かく現像できるから、そういう資料の保存に昔よく使われてたんですよ」

 写真のフィルム自身がよくわからないがそこは流すことにする。

「でもねえ、マイクロフィルムの方が先に溶けて使えんようになってしまいました。500年持つって言われてたんですけど、保管場所がわるかったんでしょうねえ。でも、500年。ここにある一番古いのは1000年近くのもあるんですけどねえ」

「あの、すいません、天狗がこの町に現れたっていうような、あの、1000年前の天狗神楽が始まったころの歴史を知りたいんですけれども」

「あー、それならここです」

 といって、一番ボロボロな巻物の端っこの方を指さしてくれた。ボロボロすぎて殆ど判別できない。

「あー…」

「ちょっとこれは…」

「読める?」

「読めないですよね……」

 赤い大きな塊が山の方に飛んでいく図と角を二本生やした男が娘を踊ってるような、そんな絵が描いている…ような気がする…ことはわかるが、それ以上はわからないし文字に至っては壊滅的だ。

「この絵からは山に…落ちたってことはわかるね…」

「それくらいだね……」

 縁起をみてUFOの場所を探す作戦は失敗かな、そう思った時。

「文字だけでいいのでしたら、こちらをごらんになってください」

 そういって紙屋さんが糸で閉じたノートくらいのサイズの分厚い本を持ってきた。 

「なんですかそれ?」

「ここの縁起を全部書き起こした本です。書かれたのが江戸時代なので、文字も一部崩し字になってて読みにくいですけど」

「それ!見せてください!」

「いいですよ、その前にこれ、この巻物片付けてからにしましょう。そっと、そっとですよ」


◇ ◇ ◇


 場所を移した。社務所で学は冊子と取っ組み合っている。畳がしかれ、アルミサッシで覆われた社務所は冷房が効いていてとても涼しい。麦茶も出してもらった。本当に快適だ。学は冊子を必死でめくって調べているが、俺と音羽は手持無沙汰で紙屋さんと世間話をしていた。学校の生徒が減っている話とか、天狗神楽の練習は進んでいるのかとか。選挙の話は出なかった。ここにそれぞれの陣営の立候補者の息子と娘がいるからだろう。一応紙屋さんは立場的に国府田のおじさんの陣営のはずだが、色々と思うところもあるのかもしれない。そうでないと学に貴重な資料を見せてくれたりしないだろうからな。大人も複雑だ。

 一方の学は、1ページずつ冊子にスマホをかざして写真を写しては難しい顔をして画面を眺めて、そしてまた次のページを写してはは眺めてという作業を繰り返している。

「それ、なにしてるの?」

 と音羽がのぞき込むようにして学に聞く。心なしか顔が近いな。

「読めないから」

「?」

「江戸時代に書かれたこの文章、崩し字で書かれていて読めないから、崩し字をちゃんとした今の文字に直してくれるアプリを使って直してるんだ。それで確認して次って呼んでいってるんだけど、なかなか目当ての文章が出てこなくて…」

「そうなんだ。あの、何か手伝えることない?」

「えっと……うん、それじゃあ。音羽さん、この冊子1ページずつ写真に撮って、それから僕の方に送ってもらっていい?分業しよう」

「うん、あ、あの」

「?」

「アドレス。交換」

「あ、うん」

 そうして二人、スマホを突き合わせてアドレスを交換している。

 ふたりとも座ってるのに心なしか浮足だってるみたいに見える。あー。なんか俺の知らなところで本当にうまくいってるらしいな。

 紙屋さんも何か用があるらしく奥へ引っ込んでいってしまった。あー、俺だけなんか暇だな。

「なんか俺、することないみたいだし、ちょっと昼寝するわ」

 そういって日の当たる縁側に横になった。午後の日差しが超気持ちよかった。


◇ ◇ ◇


「あった!」

「うおっ!」

 学の叫び声で目が覚めた。どうやら本気で寝てしまっていたらしかった。涎をぬぐう。

「見つかったの?学くん」

「なに?なんがあった?」

「ええとね、ここ、『長保五年夏水無月二十三日、大きなる星、巳の方より亥の方角へ空割り流れたり。音ありて雷鳴のごとく。億の山落ち天地鳴動せり。国司の藤原某曰く、流星にあらず。是天狗なり。天狗、落ちたる後数日、人里に降り来たり』」

「…えっと、わかるように説明してくれ」

「1003年6月23日、鳴のような音が響き、東北東から西南西へ向けて空を割って一筋の明るい星が流れ、奥の山に落ちた。国司の藤原何とかという人が言うことにはそれは流星ではなく天狗だという。起きた数日後、人里に天狗が下りてきた……。うーん、でもこれだけだと地名も何もわからないな…。奥の山…。この神社に奥の山ってあったっけ。後ろ側の山っていうこと?前後にも天狗にまつわる文章はないし、これだけなのかな、情報」

「学君、これ、私思ったんだけど、東北東から西南西へ向けて、っていうのとこの神社の場所から大体の場所って特定できない?」

「なるほど…やってみる」

 そういって今度はこの町の地図を出してそれと格闘しだした。

 そこへ紙屋さんが麦茶のお代わりを持ってきてくれた。ありがとうございます。

「なにやら騒がしいですな。見つかったとかなんとか。いったい今日は何を調べに来たんですか?なんか漠然と絵巻物がみたいっていう訳でもないでしょう」

「あの、実は僕ら今、この町の天狗神楽の起源やこの町と天狗のかかわりについて調べてるんです。ほら、この町天狗の名前の付く地名とか場所とか多いじゃないですか」

「まあ、そうですねえ。多いといえば多いかも」

「紙屋さん、天狗について何か知りません?」

「天狗神楽の言い伝えだったらお話できますよ。1000年前の話って言われてますけど。この町に天狗が空から降ってきた。天狗は娘と恋仲になったが町の人々に反対された。けれども、天狗の持っていた神通力でこの町が栄えて、それで町の人々も天狗と娘の結婚を許した、というお話です」

 うん、そこまでは知ってる。

「それで、その後、天狗が神通力で作った川や池を、天狗川、天狗池、という名前で呼んでるんです」

 千草と京子たちが今そっちを回ってるはずだ。

「それでね、この神社の御神体は、天狗と一緒に降ってきた石なんですよ」

「えっ!」

 俺と音羽の口から驚きの声がでる。学も地図から身を起こして叫ぶ。

「なんですか急に?」

「そ、その石って今どこにあるんですか?」

 学がつかみかからんばかりの勢いで紙屋さんの前に聞く。

「ご神体ですからむやみに見せるわけにはいきません……と言いたいところですが、ここだけの話、ないんですよ」

「ない?」

「今から100年くらい昔、遷宮…神社を移すことがありまして。ただ、その時重くて運べなかったんでしょうな。その石の一部分を持ってご神体としたわけなんですが…。恥ずかしいことに元の石の場所がわからなくなってしまいまして」

 紙屋さんが薄くなった頭を搔くようにして照れ臭そうに話す。でもこれ多分、ここだけの話って言いながらあちこちでしてるな。

「その!その引っ越す前の神社ってどこにあったんですか?」

「伊吹山です、伊吹山。伊吹山の中腹あたりにね。今でのその神社の跡があるはずですよ」

 天狗岩のあるところだった。それじゃあ、やっぱりまだ探せてない天狗岩があるとか?でももしそれが埋もれてしまっているとしたらもう見つけようがない。

「あの、この、この地図!」

 と、学がすごい勢いで地図をもって戻ってきた。

「すいません、この地図でいうとどのあたりになりますか?」

「そうですなあ…。この、ここらへんが」

 といって紙屋さんが指を指す。学はその場所をマーキングしてまた机に戻ってしまったそそして

「東北東から西南西……裏の山……これ…?」

 とまた地図とにらめっこをしだした。上から見下ろすと地図の上にはいくつかの補助線やマーキングがされている。昨日行った天狗岩の全ての場所もすべて印が書かれていた。アプリで見たときにはわからなかったが、こうして地図の上に広げて天狗岩の位置を確認すると、何らかの法則性があるように見えなくもない。天狗岩の多くは一列に弧を描くように屹立していて一定の方向を示しているように見える。まあそうでない場所にポツンとたっている岩もあるけれども。さっき聞いた旧神社の場所から西南西にも線が引かれているがその先にはなにか目印になるような建造物や遺跡のようなものはない。ただ。

「あっ!あっ!ああああああああああああああああああっ!」

 突然学が叫んで、手元にあった地図にサインペンでグリグリと書き出す。

「おい、一体どうしたんだよ」

「これ…これみて…」

 心なしか笑っているような顔で学が見上げてくる。

 右手は地図の伊吹山あたりを指さしていた。旧神社から伸びた線、そして、<傍点>円。全ての天狗岩を結ぶ円</傍点>。

 緩い弧を描いているように見えた一部の天狗岩はこの巨大な円の一部だった。そしてその中心、旧神社から西南西に引いた線の交わるところ。

「ふたつ池……?」

 そこには昨日行ったふたつ池が、丸く、小さく描かれていた。


◇ ◇ ◇


 おそらく、UFOが埋まっているだろう場所が見つかったということをを京子に連絡する。その知らせを聞いた京子は飛んできた。文字通り飛行ガサで。紙屋さんに見つからないように神社の裏手の森みたいになってるところに降り立つ、京子と雪待とネイ。ネイは京子からちょっと大きめの帽子を貸してもらって角を隠している。こうするとなんとか外国人の子供に見える。まあそういってもこの町では目立つのだけれども。

「あれ?こんだけ、人数少なくね?千草と井村は?」

「なんか喧嘩して帰ったよ」

「わたしが半分くらい悪い。半分くらいだけど…ほんとだよ?」

「まあ、二人とも子供じゃないんだしほっといてもいいでしょ」

 困るなあ、この忙しい時に。やっとUFOの埋もれてる場所が見つかったかもしれないって気に。言い出しっぺだろあの二人。まあいいや、あの二人抜きでやるか。

「ところで埋もれてるとこ見つかったって?ふたつ池って本当?名前に天狗ついてないじゃん、誰、名前に天狗ついてる場所調べようっていったの」

「京子だろ?」

「え?私?」

 コントか。

「ねえ!ねえ!これなに?」

 そういってネイが神社の拝殿の前に組まれた仮設の構造物に興味を示した。四方に柱が組まれた前後左右四メートルほどの、地面からの高さが60センチほどの仮設の舞台の周りを興味深そうにまわる。今は柱と床が組まれているだけだが、祭りの前日になれば四隅から伸びた柱と柱の間に縄が張られ御幣を飾ることになるだろう。俺と音羽が祭りの日に神楽を舞う為の舞台だ。…ええと、だけどそれをどうやって説明したらいいんだろう。そもそも神楽ってなんだ?深く考えたことなかったな。

「外国の方ですか?これに興味があるんですか」

 いつの間にか外に出てきていた紙屋さんがネイに話しかける。

「はい!教えてください!」

 おい、ちょっとネイ。

 そして、紙屋さんは、この遠くから来た子供にどうやったら伝わるのかと、言葉を選びながら話を始めた。

「お祭りの日にね、ここで、この耕治くんと音羽ちゃんが踊るんですよ。伝統的なお面と衣装を着て。この舞台の前にはたくさんの観客がきて、その踊りをみるんですが、でも、その踊りは本当は、観客に見せるためにするのではないのです。この神社では猿田彦…鼻の長い神様を祭っていて、耕治くんはそのお面を被るのですが、その面を被って踊っている間、耕治くんは神様が降りる…神様が耕治くんの中に入っているのですが、その、神様が耕治くんの中に入っているということがこの神楽と、お祭りの意味なのです」

「意味?」

「お祭りは、神様と人間が交わって、一緒に楽しむことに意味があるのです。ですので、神様をこうやって呼んで、そして神様も人間も一緒に楽しみましょうものなのです」

「違う生き物が仲良くしようっていうこと?」

「生き物というのは違うかもしれないですが、そう、仲良くしようということです」

 ネイが、何度も頷いて納得した顔をしている。

「ねえねえ、お祭りってことは屋台もでるの?」

 と聞いたのは雪待だ。

「たくさん出ますよ、お祭りの日にはこの町だけじゃなくてまわりの町からもたくさん人が集まってきますからね、かなり盛大なお祭りになりますよ」

「あー、なんか今から緊張してきた」

 音羽がこの暑いのに身震いする。

「音羽ちゃんはねえ、まあ、音羽ちゃんが踊らないとねえ。もともとこの神社は国府田さんところの氏社だから」

「氏社?」

「ここの神社で祀られてる神様は一応猿田彦様になっているけれども、もっと昔は別の名前で呼ばれてたはずなんですよ。その名前ももうわからないんですけれどねえ。そしてその神様は代々国府田家を守っていた。だから実は私も音羽ちゃんの遠い親戚になるはずなんですよ。まあ今ではそんなことも関係なくこの地域全体を守っていただいているんですけれどね」

 学がその話を食い入るように聞いていた。郷土史研究会をしてるくらいだからな、興味あるんだろう。ただ、その話をずっと聞いてたら日が暮れちまう。学に行こうぜ、って声をかける。紙屋さんには今日のお礼をいって立ち去ることにした。学が重ねて礼をいう。

「今日はありがとうございました。あの、また、お話を聞かせてもらっていいですか?」

「はい、いつでも来てください。一ツ橋くん。君がね、あちこちでこの町の話を聞いて集めいることは聞いてますよ。今日のお見せした冊子。あれやらね、先々代の作ったマイクロフィルムやらね、そして、巻物でもそうですけれども、誰かが、記録に残そうとしたから残ってるわけです。一ツ橋くん。私はね、君のこと、立派だと思いますよ。大変だと思いますけど頑張ってくださいね」

「はい、ありがとうございます!」

 そういって学は深々と頭を下げた。

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