9,道具×アプリ×飛行カサ【一ツ橋学】
藤谷さんにデコピンされた後背中を思いっきり叩かれた。
親愛の情を示すものだとわかるので、別に悪い気はしないけれども、急に打ち解けるようになったのがちょっと不思議だ。
方向性が決まった…ということで携帯から地図アプリを出して開く。いくつか有名な史跡は地図に載ってるけども地図にも載ってない、言い伝えで伝わるようなものは郷土史研究会の部室に戻らないとわからないかもしれない。大体の場所はわかるけれども……。山の中になる遺跡になるとどうしようもない。
「どう?」
と藤谷さんがスマホをのぞき込んでくる。
「最有力候補は、さっき言った『天狗がおりてきた天狗岩』なんだけど、山の中だから大体の場所は分かるけど、細かい場所がわからなくて。アプリの地図には載ってないから。」
「ちょっとまて、ちょっとアイデアがある」
そういって、藤谷さんが自分のスマホを取り出した。何らかのアプリをひらいてるようだ。気になってちらりと除くと。
「みるなよ」
非対称性を感じる。
「これ、どう?」
といって、出してきたのは有名な位置情報ゲームだった。巨大な陣取りゲームで、像やモニュメントや石碑などを起点として登録して、その点の取り合って勝敗を決めていくゲームだ。
「大体の場所ってここらへんなんだろ?じゃあ、ここ、この場所がそうなんじゃない?」
藤谷さんの携帯には写真とともにその場所の細かい座標が表示されている。
「すごい!」
感嘆の声を上げる。本当にすごい。
「褒めたたえよ」
「すげえぜ、京子!」
「京子ちゃんすごい!」
「京子、さすが!」
「藤谷さん!尊敬する!」
「京子ちゃん!天才!」
「ありがとー、京子~~!」
なんだこれ。今にもハッピーバースディを歌いだしそうな雰囲気。
◇ ◇ ◇
「ところで、もう一つ気になってることがあって」
ネイくんに聞く。
「なに?」
「あの、赤いロボットが出てきたときに、雪待さんが体に押したスタンプや、ネイくんの鼻から出てきた壊れないシャボン玉や、ロボットを沈めたライトがあったじゃない?あれ、一体どういう道具なの?他にもあんな道具を持ってたりする?」
「あ、それ私も気になった、なんか、すごかった遥子さん、ロボット投げたり」
興味があるのか、緒方さんそして井村さんも一緒にネイくんと遥子さんのところにやってきた。
「あのシャボン玉は『バルーン宇宙服』っていって、宇宙空間に放り出されても10時間は生存できるし、ちょっとやそっとの衝撃じゃ壊れないんだ。危険な状態になってる人のところに自動で飛んでいって保護してくれるんだよ」
「遥子が体に押したスタンプは『達人スタンプ』っていって、体に押すと30秒だけなんらかの達人になれるんだ」
「あのロボットを沈めたのは『うかびしずみビーム』っていう光線で、地面にものを沈めたり、その地面に沈んでいるものを浮かびあがらせたりするんだよ」
「他になにか同じような道具ってあるの?」
井村さんが聞く。ネイくんがぬいぐるみの背中から道具を取り出しながら説明する。
胡椒びんみたいな道具をとりだして、
「これは『すなお砂』。これをかけられた人間は自分が秘密にしてることをなんでもしゃべってしまう」
「なんか胡椒ビンみたいな形してる」
緒方さんが手のひらでもてあそんでいる。
「他には?」
◇ ◇ ◇
「なんか、微妙におもちゃみたいな道具ね…」
と緒方さんがぼそりと呟くと、
「うん、おもちゃなんだって」
と雪待さんから返事が返ってきた。
「うう…」
とネイくん。
「ネイの星には、もっと便利な道具がたくさんあったんだけど、そういうのは自分の体一つを頼りにする旅に邪魔になるから置いてきたんだって」
「ダメだこいつ……」
と井村さん。結構毒舌だ。
「この道具たちは旅の途中の星々でお土産に買ってきたものなんだって」
「さ、そろそろ行こうぜ、山の中なんだろ、うかうかしてると日が暮れちまう」
そういって泉野くんが出発を促す。
「ねえ、この傘みたいなのは何?」
井村さんが道具のひとつを指してネイくんに聞く。
「それはねえ、たいしたことないよ。開いてみて」
井村さんが傘のような形をしたそれを傘のようにさす。ただ、傘の布が貼ってある部分に布はなく、骨にあたる部分が平行に並び、プロペラのようになっていた。
「なにこれ」
「手元のボタンを押してみて」
井村さんが、手元のボタンを押す。すると頭の上のプロペラが回り出し、そして、井村さんの体が、宙に、浮いた。
「ちょっ、これ、これどうなってるの?!」
「空飛ぶ機械。君たちの星にもあるでしょ?空飛ぶ機械。珍しくないと思う」
「あるけど!こんな風には飛べないよ!すごい!」
興奮した井村さんがドアから外に飛び出す。屋敷の空高く舞い上がり、真っ青な空の中を舞っている。
「ねえ、私も飛びたい、まだある?」
緒方さんがネイくんに聞く。
「あるよ、たくさんある」
ネイくんがぬいぐるみを開いて中から『飛行ガサ(仮称)』を取り出し全員に渡していく。僕の手にも。
傘のスライドする部分に手をかけ、プロペラを開く。頭上に掲げ、手元の赤いボタンを押す。プロペラがプルプルと回り出し、回転速度が速まるにつれて、足元が軽くなっていく感じがする。傘を持った手が引っ張られないのは、このプロペラは揚力で飛んでいるのではないのだろう。プロペラの回転が一定を越え、安定する。ふわり、と、足が浮き上がる。ジェットコースターで思い切り滑り降りるときのような足元を掬われるような感覚。それが終わると、気づけば僕の体は空高く、屋敷のはるか上まで飛び上がっていた。
目の前には空が広がり、田畑や、家や山が、全て遠くに見える。さっきまでいた屋敷がまるでミニチュアのおもちゃみたいだ。
「……すごい……」
思わず声が漏れていた。
なぜだかわからないけれども、この空を、この空に今自分がいるということを思うと、体が空と同じように透明になっていく気がした。
「おい、学、どうしたんだよ」
泉野くんが声をかけてくる。
え?と思い、顔をぬぐうと、僕は泣いていたらしい。
「何でもない、ちょっと」
「ビビった?」
泉野くんが笑いながら聞いてくる。
「ビビッてねーよ」
笑い返してやった。
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