8,おばけ屋敷×ネイ×天狗の記録【藤谷京子】

 ヤバイ。ヤバイヤバイ。ちょっと情報の整理が追い付かない。問題を整理しよう。

 目下、問題となっているのは以下のこと。それとアタシのできること。


1,町長選挙。

アタシのできることはない。ただ、音羽のお父さんが負けるとうちの家とかうちの会社の従業員の人たちが大変なことになる。


2,耕治がなんか一ツ橋学と仲良くしようとしてること。

理解不能。あいつも裏切者か?なにか理由があるなら、それを聞いても…、と思ったけれどもどんな理由があろうと許さないぞ。


3,転校生と宇宙人。

転校生が、この町に宇宙人を連れてきた。宇宙人は、宇宙に帰りたいから宇宙船を探しているということ。その宇宙船はこの町のどこかに埋もれているということ。


 急に現実感のない話になった。ただ、実際に会ってみると宇宙人、ちょっとかわいそうだなって思う。場合によっては協力してもいいかな、と思う。弱ってる人間を見ると放っておけないのがアタシの悪い癖だ。

 問題点を整理してノートに書きだした。色々なことが今同時並行的に起こっているけれども、実際アタシがなにかできるのは宇宙人のことだけみたいだ。周りを見回す。三時間目の授業はみんなだれていて、耕治なんか舟を漕いでる。雪待遥子は真面目に先生の方を向いて入るけれども、机の上には例のぬいぐるみを置いたままだ。あの中にあの宇宙人が入っているのか。

 放課後。

「おーい!京子!こっちこっち!」

 昨日のメンバー6人が教室の後ろで団子になってる。一ツ橋学も一緒だ。ちょっとイラつきながらアタシもその輪に加わる。

「で、ネイ、だっけ。そいつの宇宙船を探す計画なんだけど」

「その前にちょっと待って耕治、アタシ、まだ、一緒にするって言ってないんだけど」

「いいじゃん、京子、ちょっとした冒険みたいで楽しそう。ねえ、遥子さん!」

 千草、なんか乗り気だな。あと、雪待に対して態度が変だ。さん付けで呼んだりして。

「ねえ、京子ちゃんも一緒にしよう、だってかわいそうだよ」

 と音羽。ふと横を見るとぬいぐるみと目があう。この中にあの宇宙人が入ってるんだな。ああ、本当にアタシのわるい癖だ。

「じゃあ、ちょっとだけ。あんたらがどうやって宇宙船を探そうとしてんのかその話を聞くくらいなら」

「やった!」

 と千草。そして、

「ありがとう!京子ちゃん!」

 目の前に雪待が飛び出してきて、抱き着いてきた。まてまて、こいつ、本当に距離近い。ピンク色の髪がゆらゆら揺れて、まとわりつく。こいつの方がよっぽど宇宙人だよ。ひき離す。

「でさ、どこで作戦会議する?カラオケとかいこーぜ!」

 耕治が声を上げる。お前カラオケ好きだな。

「今の時間結構混んでるでしょ」

 と千草。そのあとああでもないこうでもないと行き場でもめてると雪待が、

「じゃあね、私の家に行こう?広いし、周りに誰もいないし、家にも誰もいないから」

 雪待の家って、あの、噂のおばけ屋敷だよね?

「いいの?」

「よいよい」

「じゃあ決まりな、今から雪待の家に行こうぜ!」

 そういって、アタシたち6人は件のおばけ屋敷へと向かったのだった。


◇ ◇ ◇


 三軒坂はバス道から入ったところにあり、両側から木が生い茂って緑のトンネルのようになってる。そのトンネルを抜けた先に『おばけ屋敷』があった。もともとは真っ白な壁だったのがあちこちペンキが剥げて、今は不気味な雰囲気を醸し出している。

「ちょっと待っててね」

 そういって雪待が鞄から鍵を取り出す。こんな建物だから、レトロな鍵かと思ったら普通のシリンダー錠の鍵だった。ギイ、と音を立てて扉が開く。最初に雪待が中に入って、みんながぞろぞろと続いていく。アタシも一緒に中に入る。家の中は外ほど荒れていなくて、普通に人が住める環境だった。ただ、家具も何もない。雪待が2階に上がっていく。そうか2階で生活してるんだな。「ちょっと待っててすぐ降りてくるから」と言って雪待が2階に上がっていく。その隙にちょっと家の中を見渡す。本当に他の部屋は使ってないみたいで、かろうじて台所に人の生活の形跡があった。似つかわしくないちょっと大きめの冷蔵庫と小さい食器棚、電子レンジ、テーブル、椅子。雪待は言葉通りすぐ降りてきた。荷物を置きに行っただけみたいだ。

 なんで両親がいないんだ。本当に一人で住んでるのかな。そういうことは聞かない方がいいな。

 雪待がぬいぐるみに、ネイ、と呼びかけて背中のチャックを下ろす。昨日と同じようにぬいぐるみの周辺の空間が歪み、中から浅黒い肌の宇宙人が飛び出してきた。頭の角以外、殆ど私たちと同じ人間に見える。

 アタシたちは使われていない少し大きめな部屋に車座に座り、作戦会議をすることにした。アタシたちの前には冷蔵庫で冷やされた麦茶。コップは人数分なかったので、マグカップを代用したり、それぞれの持ってた水筒のコップを使ったりした。つーか、ピンク髪、冷蔵庫で麦茶冷やしたりするんだ。現実感がない格好してるからそういうなんか生活感出すとちょっとびっくりする。

「で、宇宙船の場所なんだけど、なんかヒントとか、ねえの?かなあ」

「それがないから手当たり次第さして回ってるんでしょうが」

「だれか場所知ってる人とか記録に残ってるとかあればいいんだけどね」

 と、千草と井村。なんかこないだからこの二人仲がいいな。

「うん。だからね、最初の日に、だれかUFOが落ちたの知ってるひといないかな、って聞いたんだけど」

「1000年前って江戸時代だろ?そんな昔のこと記録になんて残ってねえだろ」

「1000年前は鎌倉時代だよ。あと、いつの時代も記録は残ってるよ、それなりに。だってそうじゃないと歴史の研究なんてできないし、授業で習ってる、いつどんなことが起こったかっていうのもわからないから」

「でも、ある程度記録は残ってるって言っても、UFOの記録なんて…」

 と音羽。

「UFOの記録というもの自身はあることはあるんだ。江戸時代に茨城県にUFOが漂着したって文書があるんだよ」

「そうなんだ」

「でも江戸時代は1000年前じゃねえからなあ~!」

「ひっぱるね」

 耕治と音羽と一ツ橋がなんか仲良さそうに話してる。ちょっとイラっとする。雪待とネイはその様子をじっと見ている。雪待は少し退屈そうに麦茶をすすってる。ネイはちょっと困った顔でみんなを見てる。

 全く建設的な意見が出ないまま時間だけが過ぎていく。雰囲気もどんどん暗くなってく。あー、駄目だ駄目だ。こんなの。

「ちょっと休憩~~~~~!」

 叫ぶ。

「なんかさ、煮詰まった!別のなんか楽しい話しよう!なんかさ!」

「京子ちゃん?」

 アタシはつかつかとネイの方に歩いていく。

「改めてよろしく。ネイ。アタシの名前は、フジたニキョウこ」

 喉に手を当てて変な声だす。

「あの、なに、それ?」

「ウチュウジンとソウぐうシたトキの、デンとうテきなチキュウのあいサツ」

「え?え?」

「京子、そんな古いネタやっても誰もわかんないって。ほら、ネイ困ってるぞ」

「ワれワれはチキュうジンだ」

 雪待も参戦してきた。こいつ、ノリいいな。

 ネイがわけがわからなくてキョロキョロと戸惑う。それをみて私がケラケラと笑う。雪待も笑う。みんな笑う。いいね、こういう雰囲気だよ。

 色々気になって、でも、なんか流してしまったことを聞いてみる。

「そもそもさ、なんで言葉通じてるの?」

「翻訳機があるからね。その星の会話をある程度聞かせたら翻訳して同時通話してくれる機械があるんだ」

「地球に来た理由は何?」

「あ、私も実はそれ気になってた!」

 井村と千草。

「もしかして…侵略…?」

 と音羽。あーそういえばそういうようなこと最初言ってたな。

「それが実は……言いにくいんだけど……」

 ネイがもごもごと口ごもる、いいにくいことなのかと思ってると遥子が横から説明してくれた。

「ネイは私たちの星でいう大学生なんだけど、アイデンティティに疑問を覚えて自分の可能性を試したいという理由で、発展途上惑星を旅して回っていたの」

「それって、日本の若者が自分探しの旅っていって、バックパック一つで東南アジアとかインドとかを旅行するようなもの?」

 千草のツッコミ。きつい。

「うう……」

 ネイが顔を真っ赤にしてうなる。やっぱそういうの宇宙でも恥ずかしいんだ。

「それで、地球に来た時に事故で宇宙船のワープ機能と通信機能が壊れてしまいました」

「それってさっきの若者が、インドで財布もパスポートもすられてどうしようもなくなるやつ」

 だから千草、きついって。

「うう…ううう……」

 あ、ネイ息してない。

「それで、町の中をさまよってるところを私に出会った、というわけ」

「遥子には本当に感謝しているよお!」

「あと、この町…この星に宇宙船があるっていうのはどういうことなの?1000年前の記録とか」

「それは、この本なんだけど」

「本だ」

「宇宙にも本ってあるんだ」

 一ツ橋と音羽が口々に。タブレットとかじゃないんだ。

「データも長期間保存できるし、再生メディアがなくても電源がなくても読める。本はいいよ」

「そうなんだ」

「で、この本、銀河特急っていってね、宇宙を旅する若者のバイブルなんだ」

 ネイが鼻息荒げに本の良さを語る。なんかこいつ第一印象と違うぞ。なんか…頭悪そう…?

「で、この作者なんだけど、最後、この星で旅を終えて、宇宙船を埋めた、って書いてるんだ、この本に。だから、この描写からと宇宙船の共通起動キーの反応から大体の場所に検討をつけて」

「この町に来たってわけです」

「共通起動キー?」

「この、宇宙船を探すのに使ってるステッキのこと。ネイのもともとの宇宙船もこのキーで動いてたの、宇宙船の起動キーって基本全部共通なんだって」

「でもさ、話戻るけど、結局、場所が絞れないといくらステッキがあったって……」

 井村が言う。あー、また場が暗くなる。と、その時、一ツ橋が口を開いた。

「…場所、……わかるかもしれない」

「え?どういうこと?」

「1000年前…。この町に天狗がやってきたって大体1000年前くらいの言い伝えなんだけど。ほら、天狗神楽も1000年前に始まったって」

「でも天狗だろ?UFOじゃねえよ」

「天狗はね、昔は隕石だったんだよ」

「?。どういうことだよ」

「天狗は、もともと、空を駆ける狗、すごく明るい流れ星、火球だったんだ。それが仏教に取り込まれていくうちにカラス天狗、そして鼻の長い天狗の姿になっていったんだけど、1000年前は。まだ、流れ星の天狗なんだ」

「その流れ星がUFOで……」

「この町に落ちた……」

「でも、それがわかっても場所がわからないと…」

「場所もわかるかもしれない」

「本当?」

「この町には、天狗の名前が付く場所がいくつかあるよね。天狗川とか、他にも天狗のまな板とか。確か天狗が下りてきたっていう天狗岩っていうのもあったはず。そういう天狗にまつわる史跡を巡っていけば、どこかで宇宙船が埋まってる場所に行きあたるかもしれない、あと、神社の縁起…歴史の資料とかを調べれば、もしかしたら落ちた場所が記録されてるかもしれない。天狗神楽として残るような大きな出来事のルーツだったらどこかで記録で残ってる可能性が高いよ」

「すっっっっっつつつつつっげーーーーーーーーー!」

 耕治が雄たけびを上げる。

「お前すげえ!学!お前すげえよ!」

 大声で叫びながら一ツ橋の肩を叩く。

「すごい!一ツ橋くんすごい!」

 音羽も目をキラキラさせて一ツ橋を見つめてる。

 まあ、しゃあない。手詰まりでもうどうしようもないっていう状態に光が差したんだ。アタシも正直に感心する。てくてくと歩いて一ツ橋の前に立つ。怪訝な顔でこっちをみる一ツ橋。そのおでこに、軽く、デコピンを見舞ってやった。

「え?え?なに?藤谷さん?」

「しばらく休戦な。じゃあ、天狗って名前の付く場所を調べまくるってことで決定」

 やっぱりわけがわかんないって顔する一ツ橋。ははは、ちょっと愉快だ。

「それじゃ、頼むぜ、うちのがっこうの考古学者さん!」

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