第3話 物理少女!?
魔法少女になったら魔法少女になれる、魔法少女になっているのだから当然だろう。
なんだか混乱してきた。
「だから、可愛い女の子になれますよ?」
「僕が可愛い女の子になりたがってるみたいな言い方するのやめてくれない?」
「なりたくないんですか!?」
驚いたように目を丸くしていうルークだが、なりたいわけがないだろう。
ルークがブレアを可愛い女の子にしたいだけで、ブレアが可愛い女の子になりたいわけではない。
「逆に、君は可愛い女の子になれるよって言われて、なりたいですってなるかな。」
「なりませんね!」
即答したルークに、「でしょ。」と答える。
自分はなりたくないのに、何をもってブレアがなりたがっていると判断したのだろうか。
「俺は先輩の魔法少女姿が見たいのであって、自分でなっても興奮できません!」
「気持ち悪いなあ。」
至って真剣な顔で言うので、もう会話をするのも嫌になってきた。
帰りたい。本当に帰りたい。通報しようかと思えてきた。
「でも、魔法少女になったら魔法が使えます! 魔法、使ってみたくないですか!?」
「……それはちょっと……興味ある、かも。」
つい反応してしまって、気恥ずかしくなったブレアは腕を組んでそっと顔を逸らした。
魔法は興味ある。綺麗だし、面白そうだ。
「魔法お好きなんですか? 意外とロマンチストなんですね!」
「煩い。」
目を輝かせたルークに言われ、ブレアはますますそっぽを向いた。
「耳赤いですよ~? 可愛いですね!」
「煩い!」
ブレアが素早く手で耳を覆うと、ルークは立ち上がった。
ブレアの視界に入るように、目の前に回り込む。
「魔法、興味ありますよね?」
「ない!」
「あるっていいましたよね!?」
意地を張って否定すると、ルークは困ったよう悲しそうな顔をした。
弱気な表情だが、言葉は力強く肯定を促してくる。
「……言ったけど。」
「ですよね! じゃあ変身しましょう!」
嬉しそうに笑ったルークが、強引にブレアの腕を掴んだ。
そのまま無理矢理ペンダントを握らせてくる。
「さあさあ、これを握って、術式? を唱えるんです! えーと、確か……。」
随分嬉しそうなルークは、術式を思いだそうと記憶を辿っている。
閃いたのか、ルークはにこーっと、今日一番の笑みを浮かべた。
「え、ちょっと、やらな――」
「思い出しましたよ! “
静止の声も聞かず、ルークは大きな声で言った。
その声に応えるように、2人の手の中でペンダントが光った。
キラキラとした眩しい光が手の中から漏れ出す。
するりと、ペンダントが勝手に動いたかのように、手の中から抜ける。
光がより一層眩しくなって、2人揃ってぎゅっと目を閉じた。
全身をビリビリっと電流が駆けるような感覚がして、握られていた手が開放される。
変な感じがした。ルークの拘束が緩んだというより、自分の手が小さくなったような……?
違和感の正体を考えていると、すぐに光が収まった。
ゆっくりと目を開けると、違和感が更に加速する。
――視点が、低い気がする。
ルークは少し屈んで、ブレアと同じくらいに目線を合わせていた。
なのに今は、そんなルークを少し見上げなければならない。
ふと気が付くと、右手になにか棒状のものを持っていた。
先端が大きなハート型になっていて、アメシストのような紫色の石とリボンで飾られた、ステッキのようなもの。
「……何これ……えっ?」
呟いた声にも違和感。普段より、少し高い気がする。
無意識に喉元に触れると、何かチョーカーのようなものが触れた。
そんなのつけてないのにな、と思いながら自分の姿を見下ろすと――
「――何これっ!?」
咄嗟にバッと立ち上がり、もう一度、さっきと同じ言葉が出た。
先ほどよりも、ずっと大きな声で。
「めちゃくちゃ可愛いですよ先輩!」
嬉しそうに弾んだ声で話しかけてくるルークだが、答える余裕もない。
鏡を見なくても、見下ろすだけではっきりとわかるほど――自分の姿が、変わっていたからだ。
さっきまで着ていた、制服のブレザーは跡形もない。
女子制服を華美にしたような、フリル付きの短いスカート。
もう1段、膝丈くらいの、ひらひらとしたシースルー生地がそれを覆っている。
足にはこれまた可愛らしいレースとリボンのガーターリング。
キラキラとした宝石で飾られた、厚底のレースアップシューズ。
ノースリーブシャツの胸元は大きなリボンで飾られていて、魔法使いのローブのような上着を、肩が出るように羽織っている。
正に魔法少女、といった服装。
小さな子供向けのアニメに出てくるキャラクターみたいだ。
「可愛くないっ! 魔法少女コスプレ男子高校生キツすぎでしょ!?」
焦って、時差式でルークの言葉に反論したが、まだ違和感はのこっている。
こうして荒げた声が、やっぱり普段より高いのだ。
紫色のリボンとレースのブレスレットが巻かれた手首が――細い。そこから続く手も、指も、細くて小さい。
元々細い方なのだが、更に細くなっているというか、骨張った感じがない。
そんな可愛らしい手を、同じく違和感のある髪に通す。
すっと通って、いつもならすぐに髪に触れなくなるはずなのに。
すすすーっと、いつまでも指か髪を梳いている。
身体をひねって後ろを確認すると、腰にはこれまた大きなリボンがついていて、案の定、髪がとても伸びていた。
腰まで――いや、スカートの裾と同じくらいまである。
身体の向きを戻したブレアは、一度目を閉じ、深く息を吸った。
何とか心を落ち着かせて、ルークに声をかける。
「――ねえ、今僕、どうなってる?」
嬉しそうにキラキラと目を輝かせていたルークは、嬉々とした様子で答える。
「めちゃくちゃ可愛くて俺好みすぎる美少女になってます! 付き合ってぐはぅぁ!?」
好みすぎて「付き合ってください!」と言おうとしたルークだが、ステッキで頭を殴られ、絶叫のような声が出た。
「痛いですよ先輩!? なんで殴るんですか!」
勢いよく顔を上げたルークが抗議する。
ゴンっと、かなり鈍い音がしたが、意外にも元気そうだ。
「自分が女の子になっちゃったことが、受け入れられなくて……?」
「だからって俺を殴らないでくださいよ!? 何か血出てきたんですが!」
気まずそうに目を逸らしたブレアは、「ごめん。」と小さな声で謝った。
ルークが頭からだらだらと血を流していて、流石に申し訳なくなった。
「許します。」
頭を押さえながら、ルークはすぐに許した。
許すしかない。許す以外の選択肢がない。
だって――
「流石に可愛すぎますよ先輩っ!」
可愛すぎて怒れないからだ。
ブレアがもし女の子だったら、好みの容姿だろうな。
と思って声をかけた。その予想は、間違っていなかった。
しかし、あまりにも可愛すぎる。
どちらかというと綺麗系、美人といった顔立ちだが、華奢で背丈が小さいので、可愛い印象を受ける。
タイプを通り越してドタイプ。本気で付き合ってほしい、なんなら結婚してほしい。
それくらい、ブレアの容姿はルークの好みにドストライクだった。
「髪艶々サラサラですし、ジト目だけど大きくて宝石みたいで、肌が白くて綺麗で唇もぷるんてしてて銀河1可愛いです!」
「こんなに褒められて嬉しくないのは初めてかもしれない……。」
嬉しそう、というかデレデレのルークに、ブレアはかなり引いている。
ベタ褒めされているのに全く嬉しくない。むしろ嫌になってくる。
「あまりにも可愛いですよ!? 細くて華奢で綺麗可愛い! ちょっと胸が――小さいのも可愛いので俺は好きです!」
「何だかよくわからないけど殴りたくなった。」
真顔のブレアの言葉は冗談と取ったのか、「さっき殴ったじゃないですか~!」と軽い調子で言っている。
こんなよくわからない恰好、しかも女性にされてブレアの気分は過去最低レベルに沈んでいるのだが、ルークはかなり浮かれているようだ。
「こんな美少女が魔法少女とか最高すぎませんか!? 魔法使うところ見たい、抱き締めてもいいですか!」
興奮しているのか若干早口で言ったルークの頭を、ブレアはもう一度、ステッキで殴った。
――思いっきり。
「物理少女!? でもありがとうございます!!」
未だステッキで頭を抑えられているというのに、ルークはなぜか大声で礼を言った。
……お礼も言われたことだし、あと3回くらいは殴った方がいいだろうか。
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