第23話 孤児院
白い建物を前に、尻込みしそうになる。
ちょうど出てきた小さな女の子が、入り口に立っているマリーベルに驚いた。
「あっ、ごめんなさい。メアリーって、いるかしら?」
小さな女の子は、手袋をはめた手をパタパタと振って、慌てている。
次に出てきた成人間近の男の子が、女の子を守るようにマリーベルとの間に立った。この子も手袋をしている。
「なにかご用でしょうか?」
「メアリーって子は、ここにいるかしら?」
「ん? あぁ」
そういうと、建物の中に向かって、「メアリー!!」と呼んだ。
元気よく返事をしたメアリーは、マリーベルをみると、
「マリーおねえちゃん!!」
と駆け寄って抱きついてくる。
「メアリーちゃん。元気だった??」
「うん!! みんな、やさしいの」
「これ、お土産。皆で食べてね」
甘い匂いが漂っている手土産を見せると、喜んで院長を呼びに行った。
「頂き物をしたみたいで、ありがとうございます」
院長は初老の女性だった。
「あなたが、ハンス坊っちゃんのお友だちね」
(ハンス坊っちゃん??)
目を丸くしているマリーベルの腕をメアリーが引っ張る。
「マリーおねえちゃん、こっち」
中に入ると、きれいに掃除されていて、小さな子から、成人間近と思われる子まで、様々な年の子がいるようだった。
本を呼んでいたり、書き物をしていたり、思い思いに過ごしているようだ。
何人かは、手袋をしていた。
「気になるかしら? ちょっと見ていかない?」
院長が、孤児院の中を案内してくれた。
相部屋で、大きい子が小さい子の面倒を見ているようだ。
メアリーは、新入りだからという理由で、年上の子が面倒を見てくれているが、孤児院の中では真ん中くらいの年だった。
「フレッド様が、ハンス坊っちゃんからの頼みごとだって、張りきってしまってね」
ふふふ。と笑っているが、とんでもない人物の名前にマリーベルは耳を疑った。
フレッド様とは、この国の皇太子様、フレデリック様の愛称だ。ハンスクロークも、皇太子様が作った孤児院だと言っていた気がするが、直々に頼んでいたとは想像もしなかった。
「フレッド様と、ハンス坊っちゃんは、小さい頃からのお友だちなのよ。フレッド様は、ちょっとだけ魔力があってね、その鍛練のために、軍部によく行っていたのよね~。そのときから、それはもう、仲がよくて、その頃は二人で大暴れしてしまって、手に終えなかったのよ~。二人とも、あんなに立派になってね~」
と、昔を懐かしむように遠くを見ている。院長は、皇太子様が小さい頃、乳母をしていたらしい。
それにしても、孤児院とは思えないような、恵まれた環境。小さいけれど、図書室まで存在していた。
「ここはね、フレッド様が、ハンス坊っちゃんみたいな子を少しでも減らしたくて作ったの。ハンス坊っちゃんが、魔法を使えなくなったのは、フレッド様が原因だって、今でも後悔しているのよね」
「どういうことですか?」
つい、聞き返してしまった。
「あら? ハンス坊っちゃんが魔法を使えないことには驚かないのね」
院長は「ふふふ」と笑った。
「ハンス坊っちゃんが魔法を暴発したとき、戦場にはフレッド様がいたのよ。敵の攻撃からフレッド様を守りたかったんでしょうね。私には魔法のことはわからないけど、フレッド様は自分が友人から魔法を奪ったと気にしているわ。だから、魔法使いの子を中心に預かる孤児院を開設したんだと思うわ」
院長は、後から聞いた話で詳しくは知らないらしい。「フレッド様なら、知っているわよ」と言い出したので、皇太子様に聞くなんておそれ多い。この話は切り上げた。
ちょこんと座っているメアリーと目があった。
魔法使いの子が多いなかで、普通の子のメアリーは、馴染めているだろうか。犯罪者の娘として、蔑まれていなければいいのだが。
「メアリーは、仲良くやっていますか?」
「あの子は、来たときには魔法使いとの距離感がわかっていたのよね~。きっと、あなたのお陰ね。メアリーの親のことなら気にしなくていいわ。ここの子達は、細かいことは気にしないから。特に、親のことは気にしないわ。お互いのことを想い合っていれば、魔法使いだろうが、そうでなかろうが、仲良くできるの。あなたもそうでしょ」
そう言われて、ハッとした。
魔法使いだって、気にしすぎていたのかもしれない。
壁を作っていたのは、自分だったのでは……。
「ねぇ、マリーおねえちゃん。私、おべんきょうしているの。おいしゃさんか、かんごしさんになるんだ。父ちゃんを、たすけるの」
メアリーが胸を張っていう。
「メアリーちゃん。えらいねぇ~」
メアリーを誉めると、もう少し小さな子がやってきて、
「私は、魔法を練習しているのよ」
と、ツンと顎を上げた。
メアリーよりも年下のようだが、昔からこの孤児院で自分に必要な知識を吸収してきたのだろう。大人のようにしっかりしていた。
「魔法の練習は、どうやっているの?」
しっかりしていても、興味をもってもらったことは嬉しかったようだ。自慢そうに説明してくれた。
「先生が、時々来てくれるんです」
「魔法を使える先生?」
「はい!」
「私も来ようかなぁ~」
半分、冗談だったのだが、メアリーを始め、回りにいた子が、目を輝かせている。
「はい! はい! 魔法を教えてください!!」
数人の子が手を上げて、小さく飛び跳ねた。
「マリーおねえちゃん。私にもなにかおしえて~!」
メアリーも、皆に負けじと訴えている。
「えっ?? 勝手に教えていいのかしら?」
「あなたさえよければ、大歓迎よ。先生だって、一人じゃないの。手が空いたときに来てもらっているだけだから、定期的じゃないし。それでも、ここの孤児院は恵まれているから、これ以上の我が儘はいえないわ」
院長の女性は、穏やかに微笑んだ。
「マリーおねえちゃん、これ、よんで~」
メアリーが絵本を持ってきた。
「私も……」
モジモジと、恥ずかしそうにしているが、他の子も一緒に遊んでほしいのだろう。
「一緒に見る?」
小さい子が集まってきて、マリーベルを囲んだ。
しばらく、優しくて穏やかな声が、子供たちの声に混じって聞こえていた。
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