そんな恋があってもいいじゃないか。

アキノナツ

そんな恋があってもいいじゃないか。

僕はフリマアプリを駆使して、今ある服を捌き、購入していく。

なんでこんな事をしてるかって?


今、たぶんこの先ずっと付き合うだろうなぁって人の好みがどうもこのクローゼットの中には無いような気がする。


僕の性的指向が男性にしか向かないという事に気づいたのは、割と早かった。

早かったからか、性格からか、割り切りも早かった。


結婚とかの家庭は諦めた。

イジイジと暗く生きるのもやめた。人生を損する気がするし、負けた気がするから。


見た目が可愛い僕だけど、負けず嫌いなところがある。

ひとりで生きていけるように頑張った。


都会に進出。大学デビュー!


ーーーーー都会の洗礼は厳しかった。


僕は揺らいだ。


揺らぎながらも、パートナーがいれば、人生楽しいのではと恋人探しもしてみた。


身体の関係から発展も、というか、そういうのが当たり前な感じの場にも顔を出してみた。


田舎と違って出会いはあるもので。


それなりに楽しくも危なっかしい青春を楽しんだ訳で。


共同生活と称した同棲も試みた。


家族と同じではないとは分かっていても、言わなければ伝わらない事も解っちゃいるけど、言えば喧嘩になるので、何時しか諦めを覚え、『やられたぁ~』と何度も思いながら、泣く泣く物を捨てたり、やり直したりを繰り返して、尽くす男に成り果て……今現在。


おひとり様で頑張る決意など木端微塵に砕け散り跡形も無く、会社と自宅を往復しながら、性欲処理だと分かっていても、セフレだと分かっていても、呼び出しにホイホイ出向き、捨てられないように努力する自分がいた。


そして、今、ベッドの上に見栄えのいい布を敷きライティングを調整しながら、スマホで撮影して、出品してます。


アプリを駆使してクローゼットの中を入れ替えを敢行中。


何故って?

付き合ってる人が、僕の着てる服が気に入らないみたいだから?

それとなく色の好き嫌いを聞き出した。

見事に嫌いな色ばかりである。


普段会う時はスーツだからね。

制服というか戦闘服だろ?

自分の色をあまり全面に出さないって。

だから、私服の事まで気が回ってなかった。


この関係はいい感じに進んでる、と思う。

ひとりで過ごすのは嫌だった。

孤独に耐えれない自分が自分を小突く。

ジクジクと疼く。







「終わりにするか」

ベッドで事後の余韻に浸りながら、彼の言葉を聞いていた。


「終わり?」

声が上擦った。期待に心臓が飛び跳ねて痛い。

紫煙を燻らせる男の横顔を見詰める。


「ん? またか?」

灰を落とした煙草を口元に持って来られた。

煙草は苦手。嫌いと言ってもいい。


彼が好きだから……。


咥えて、浅く吸い込み、口に溜めて肺に入れようとして、いつも通り嘔吐くように咳き込んだ。


「懲りないねぇ」

彼は一気に吸い込んで、灰を増やすと、灰皿に押しつけ揉み消した。関係の終わりをギリギリとにじり消して行く。


「じゃあな」

ベッドから抜け出る彼の背を眺めて、枕に顔を埋めた。


セフレの関係が終わって恋人関係に?なんて馬鹿な夢ですよ。







「お前は同じ事を何度繰り返せば、気が済むんだよ」

バーのカウンターで酒を呷る。

振られると何時も付き合ってくれる友人に今回も慰めて貰ってる。


こんな事に付き合ってもらえる男がいるなら、コイツと付き合えばいいじゃんって思うでしょ?

僕も一時思った事もあるんですよ。

言った事もありますよ。

この友好関係を壊すかもと思いつつも、もうお前だけだって気分だったのに、アッサリ「ないわぁ~」と振りやがった。

ニッコリと。


そして、やけ酒呷ったら、「話聞くよ?」って、いつものノリの慰めの口調。振った相手に、玉砕傷心の飲みに付き合うこの男って!

それに対して、「お前の事本気で好きになったのに、なんで振るんだよぉ~」って愚痴を訊いて貰って飲み出した僕!

よく分からない失恋を経験して、友情変わらず続いてる関係。


本当によく分からない関係です。


シェイカー振る姿がカッコイイ。


「そろそろ、お前の色出したら?」


「はぁあ?」

酒が気管支入るところだった。危ねぇな!


「カメレオンみたいにコロコロ変えてんじゃねぇってーの」


作り終わったカクテルをボーイが持って行く。


大学時代からの付き合い。

彼は、ここのバーでバイトからバーテンダーになった。僕は商社に就職。

どんなに疲れてても通ってる。失恋すると必ずココで僕の話に付き合って貰って、早幾く年。


僕たちの付き合いって長いね!


「カメレオンってなにさ」

僕がブスくれて、なんやかや文句を垂れた。彼は反応無しに真剣に何か作ってる。

難しいのでも注文されちゃったのか?

むふふ……邪魔しちゃうゾぉ~。と思ったところで、カクテルが差し出されてた。


「こんな色がお前の好みだろ?」


赤い透明感のあるちょっとオレンジがかった色合い。確かに好きな色の一つだ。


「コレ何?」

カクテルグラスに添えられたチェリーを摘んで口に含む。


「マンハッタン。会心の出来どすぅ」


なんか聞いた事ある。

カクテルの女王と呼ばれるとかなんとか。作り方が難しいって言ってた。

むう! 思い出した。

この豆知識、コイツから聞いてんじゃんか!


「で?」

グラスに口をつける。丁度イイ。

「ん? どう?」

質問に質問で返すなよぉ~。カメレオンって何さぁ?


「美味しいよ」

感想を述べたら、破顔一笑。


「やっと頂けましたぁ~」


コイツイケメンなんよね。ちょっと垂れ目なところもチャーミング。静かに喋る声も心地いい。人気があるんだよな。コイツ目当てで通ってる女もいる。クールに畏まった口調に客たちはうっとりさ。

僕に対しては、客に対してコレでいいの?って思う対応だけどね。


「はぁあ?」


「お前、それ美味しいって言った事なかったから」


何それ?って思えば、顔にばっちり出てたと思う。コイツの前では、素だ。


「俺も意地になってたんね。初めて作った時、会心の出来だったのに、お前はバッサリ。

酒に味も分かんねぇヤツなんて、好きでも付き合ってやるもんかってさ。

好きなのを認められなかったんだよ。

それさ『切ない恋心』なんて花言葉みたいなのついてんだ」


「ふーん、そうなの……」

ちびりと舌に乗せる。チリっと舌を刺激して、口内を痺れさせ、喉に流し込めば、鼻に抜ける香りにうっとりする。


「お前が上手くなったのか。僕の舌が肥えたのか分かんないけど、美味いよ」


「あのさ。俺告白してんだけど?」


「告白? 前に僕がお前に告った時、振ったじゃん。なのに、今誰に告白?って僕か? 何それ」


途中から気づいていた。

涼しい顔してるけど、混乱の極みです。


僕だってポーカーフェイスを学びましたよ。

ビジネスの場ではそこそこやれるようになったさ。その気になれば、読ませないよ。


中年なんてものが見えてきてる年まで生きてきたら、この恋が最後かと毎度必死だった。気に入られたいじゃないか。

なのに、振られてココにくるを繰り返していた僕が、トドメが、振られた相手で、友人で、そんな空気の欠片もなかった相手から告白? 何それ?だよ!


「じんわりくる恋心があってもいいじゃんか。好きになった奴が、幸せそうにしてたら、それでいいかなって思うし、落ち込んでたら、慰めるだろ?」


レモン切りながら、言われましてもね。仕事の合間に告られてる。片手間?


「友情でもそうなるんじゃないのか?」


「そうかとも思ったんだが、募るもんってあるんだな。俺にしとけ」


「今さら…」


「今言わないと、またお前相手作って、俺に報告くるだろ。悠長にチャンス待ってたら、すぐ無くなる」


「そんなに節操……なかったですね」


そうです。

身体の繋がりだったら直ぐに見つけてしまう。最近は、昔程じゃないけどね。だから焦ってたところもある。


でも、なんで、こんなに恋人探しにこだわってたんだろう……。


「お前はそのままでいいじゃないかと俺は思うんだ。ほれ、コレに変えろ」


レモンとミントのフレーバー水が背の高いグラスで出された。


「酔ってないよ。コレ最後まで飲ませろ」


「最後まで飲まれたら、終わる気がしてイヤなんよ」


「なんだソレ」

意地でも飲みきってやる。

「まんま」

笑顔が憎たらしい。


「終わらせてやる」

固まるな。イケメンが台無しだ。


「カメレオンも」

一口。喉に流し込む。


「友情も」

もう一口。


「全部終わらせて、始めてやるよ」

最後の一口を流し込んだ。


ぐらりと頭の芯が揺れる。


「僕でいいのか?」


「まんまのお前がいい。ーーーー寝てろ」


優しい、いつもの声が降ってきた。


カウンターテーブルと仲良くなった。




===========


こんな恋があってもいいかなぁとね(⌒-⌒; )




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そんな恋があってもいいじゃないか。 アキノナツ @akinonatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説