第10話

あれから2日ほど経ったが、イルカの元気がない。日陰でぼぅっと膝を抱えてるイルカは、最初の頃を思い出させる。

2日前…リスを捕まえようとして失敗した。

きっとあれからイルカは自分を責め続けている。

私は気にもしていないし、それを何度も伝えてはいる。それでも元気がないのは、別の何かがイルカを苦しめているって事になる。


分かった。


イルカお肉が食べたかったんだ。お肉の口になって、なりすぎて、たまらなかったんだ。

そりゃあそうだよね。やっとお肉が食べられるかもって所だったんだもん。

落ち込むよね。


「行きますか…イルカの笑顔の為に」


そうして私はイルカには何も言わずに、あの巣穴の場所へと向かう。


確かこの辺りのはずだなぁと上を向きながら歩いていると、巣穴から顔だけを出しているリスを見つけた。


「よかった」


今回は私だけ。巣穴を見上げる事しかできない。足場もない。

木登りなんてしたことない。


『カモメ…ありがとう……』


どうしたものか、と考えているとふいに、笑顔のイルカが浮かび上がる。

想像だけど…現実で見られると思うとやる気が出てくる。


木登りがなんだ。やってやる。


私は木に抱き着き、ゆっくりと上へ登ろうとする。


ほんの少し、たった数センチ上に行くだけなのに、全身の筋肉が悲鳴を上げてしまう。

動かなければズルズルと、ずり落ちてしまい、そのせいで至る所が擦りむき、私の顔を歪ませる。


まだまだ巣穴は遠い。それでもどうにかして上へ、距離を縮める。


が、地面までずり落ちてしまう。

幸い高さはそれほどでもなかった為、大事には至らなかった。


「いったあぁ~……」


腕や足の擦り傷を見ると、いかにも「最悪だ」って顔をする。

それでも諦める事はなく、別の方法を考える。





「私って天才かも…?」


先ほどよりも、楽に登れるし、擦り傷も作らなくて済む。


着ているシャツを脱ぎ、紐のように丸め、目の前にそびえ立つ木に向かって、シャツをぐるっと回し、足を巧みに木に掛け、壁を歩くように一歩一歩上へと登っていく。


地面まで約2Mという高さまで登ったが、流石に恐怖が全身に纏わりつく。

それでも私は勇気を出して、足に力を入れてジャンプした。

ジャンプと言っても少し距離が延びる程度。


でも巣穴にギリギリ届くには十分だった。

巣穴に片手を掛け、最後の力を振り絞って体を持ち上げる。

すぐにもう片方の手を突っ込み、巣穴にいるであろうリスを捕まえる。

手には柔らかい感触と同時にフワッとした感覚を全身で感じる。


捕まえられた安心から、気が抜けてしまったのかもしれない。

私は木から落ちていく。


「あ…やば……」



ドンという鈍い音と共に地面に叩きつけられる。


背中を強く打ち、苦しい。どうにか息をしようにも、息を吐く事も。吸う事も出来ない。

意識が遠のき、1〜2分間ほど気を失っていたが、苦しくてせき込み、荒い呼吸ながらも酸素を取り込み、再び意識を取り戻す。




暫くして、手に違和感を感じ確認すると、毛は赤く染まり、顔部分と思われる所から赤黒い物体が飛び出ているのを視認する。

落ちる途中か、落ちた後なのか分からないが、無意識に強く握ってしまったらしい。

ゆっくりと手を開くと、血と何かが混ざり合い、糸を引くほどの粘着きがよく分かる。

胴体部分からは数本小さな骨が飛び出している。そして握った後がよく分かるほどに強く握っていた事が分かる。





「………ハンバーグ作ってたの思い出すなぁ…」


ため息と同時に立ち上がり、リスだった物を観察する。


「コレ頭から出てるの内臓?でいいよね?てことは、臭みとかが無くなるって事じゃない?骨の処理はちょっとめんどくさそうだけど…まぁ頑張るか!」




笑顔で再び握りしめ、滝の方へ小走りしていく。

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