第9話
「おはよぉ~…」
「コホッ……おはようカモメ」
寝ぼけ眼で起きてきたカモメ。
もう太陽は真上だ。て言っても私もさっき起きたばかり。
昨日は疲れたからしょうがない。
昨日は二人で魚を食べてすぐに就寝した。
いつもと違うのは、魚というちゃんとした物を食べた事。
それとカモメが火起こしてくれたお陰で、いつもより安心して寝れた事。
いつもは離れてたけど、この日はカモメに寄り添って寝た事。
この日だけは、何故か分からないけど、人の肌を感じながら寝たかった。
「ほら起きて。滝いこ」
手を伸ばしてカモメを立ち上がらせようとすると、それに応えて手を取ってくれる。
すると感触に違和感を感じた。カモメの手の平に。
手首を掴み、強めに引っ張った。違和感の正体を確認すると、傷だらけだ。
綺麗な手が擦り傷と肉刺によって痛々しさを物語っている。
火起こしなんて簡単な訳がない。カモメも頑張ったんだ。
「…痛くないの?」
「イルカの握る力のが痛いよ」
ごめん。の言葉と同時にカモメの手を頬に寄せた。
「ほんと、ありがとう…カモメ」
頬で傷ついた手を感じると感謝しか出てこない。
私もお返ししなきゃ。
「イルカのほっぺ柔らかぁい」
にへらっと緩んだ顔。釣られてこっちも緩んでしまう。
「ほんと、最初の頃と雰囲気違くない?」
最初の頃と比べるとだいぶ柔らかくなったのか、気を許してくれたのか、
ツンツンしてたのが、溶けている。
「そりゃあそうでしょ~初対面はちゃんとするよ」
にしては2~3日で変わってる気がする。
カモメの性格上それのお陰で、こちらとしては有難い。
「今もちゃんとしてほしいけどね」
「わ、わっ!…えぇ?ちゃんとしてるでしょー!?」
「たまぁにね」
私は手を引き、無理に歩きだす。
カモメはバランスを崩しながらも、立ち上がって付いて来てくれる。
昨日の話をしながら、滝へ向かっていた。
私はアレで大変だった。私なんてコレでもっと大変だった。
お互い自分が1番大変だったっていう話を延々としてた。
カモメの魚は運よく、浜に打ち上げられていたらしく。何時間も色々なやり方で火を起こしていたとの事。
そんな話をしていると私達は、ある物に会話を遮られた。
速く小さな生き物が目の前を通って木の上に駆け上がって行く。
目で追うと、木の上には穴があった。巣穴だと分かった。
「うそ、リスだよ!リス!」
「かわいい…」
2人で目をキラキラさせながら観察していると、私はふと思った。
「あのさ……リスって、食べれるかな?」
「……え!?食べるの!?」
カモメの首がぐりんと曲がり、奇異の目で見られた。
これ、いつもなら逆なのに……
カモメにそんな目で見られるのは、なんか…ムカつく…
「冗談だよ…」
「……とりあえず捕まえれたらさ、一緒に考えて、食べれそうだったら食べる?」
「……うん」
可愛いリスとはいえ、触るのすら少し怖い。捕まえられる訳がない。
自分の中で否定する理由をいくつも考えてしまうけど、カモメが肯定してくれた。
私はそれに乗っかるようにだけど、首を縦に振れた。
「私がイルカを肩車する」そう言って、カモメは木の前でしゃがむ。
私の足は動かなかった。
なんで捕まえるの?食べる為?捕まえた所で捌けないじゃん…
「イルカ?」
「……なんでもない。乗るよ?重かったらごめんね…」
ずるいかもしれない。言い訳になる。でもカモメの笑顔が見たい。
久しぶりのお肉。おいしいねって。笑い合いたい。
カモメを言い訳にしてる…でもカモメの笑顔が見れるなら、私は前に進める。
私はカモメの首に跨ると、ゆっくりと地から足が離れる。突然のぐらつきに全身に力が入ってしまった。
ふとももで顔を挟み、手で頭や髪を強く掴んでしまう。
「ご、ごめん!痛いよね」
「あ、ありが、とうござ…います」
あ、大丈夫そうだ。
覗けはしないけど、なんとか巣穴に手は届きそうだった。
噛まれちゃうかもしれない。そう思いながら恐る恐る手を伸ばし、リスを掴もうとする。
「あ…」
「どう?捕まえた?」
「カモメ下していいよ…」
ゆっくりと下ろしてもらい、私は下を向きながら申し訳なさそうに伝える。
「ごめん逃げられちゃった…後少しだったんだけどさ…」
うそだ。
「そっか…しょうがないよ。とりあえず捕まえられたら考えようだったし」
そんな悲しそうな顔しないで
「ごめん…」
「イルカ」
カモメの手が伸びてきて、両手で頬を掴まれ顔を上げさせられる。
「んん…にぁひ…」
「イルカのふともも最高だった。柔らかさとすべすべの感触の奥にまた何か別の感触もあって髪を引っ張られてもそんな困難があある迷宮を頭で進んでいくのも」
私は最後まで聞かずにカモメを残し、早歩きでこの場所を後にした。
「ゴホッ…ゴホッ……」
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