第6話

「イル、カ…?」


ゆっくりとイルカに手を伸ばす。

顔は赤く息が荒い。体温も高く感じる。

ただの風邪か、それとももっと重い病気なのかと思い込んでしまう。



優しく名前を呼び続ける。次第に涙目になり、声もくぐもっていく。

声に反応したかのように、イルカの目がゆっくり少しだけ開いた。


口が小さく動いてよく聞き取れない。


「なに?もう1回言って?」


髪を耳にかけ、口元に近づける。



「また…えっち…な目で……見てる…」


「見てないよ!!」


顔を上げ、素早いツッコミを入れると、イルカを目は閉じていた。

数分、もしかしら数十分ほど私は動けなかった。

病院なんてない。医者もいない。そもそもここは無人島で私達以外いない。

薬草?そんな知識持ち合わせてない。

どうする?どうすればいい?何をしたらいいの?


どうしよう……




カモメが死んじゃう。




なら、いっそ…?



私も暑さにやられたのか、思考がおかしくなる。

頭を勢いよく振る。違う。そうじゃない。

冷静に、今ここで出来る事を考えて動こう。


「イルカ、ごめんね。少しだけ、1人で頑張れる?すぐ戻るからね」


イルカの頭を優しく撫でる。

見た感じの症状はただの風邪。かもしれない…


いや、風邪だと信じるしかない。

風邪。


風邪…


風邪!


私は走り出した。

目を開けても1人ぼっちじゃない、私が傍にいるよって。イルカに寂しい思いをさせないように。




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ここはどこ?電気は?


真っ暗で見えない。

歩いてるけど、ふわふわした感じで上手く歩けない。

何も見えない。


落ち着こう。

確か無人島に流れ着いて、それから…


それから……なんだっけ?



【イルカ…】


誰かの声がする。


だれ?


誰なの?


辺りを見渡しても誰もいない。



私は走り出した。理由は分からない。でも走らなきゃいけないと思った。

走っても走っても真っ暗闇。

普通なら転んでしまうかもしれない。でもそんなことは気にもしなかった。


怖い…


誰か…


寒い…苦しい…


誰か…




寂しい……




カモメ…


「なぁに?」



暗闇の中に、突然光が差し込んだ。

そこは、ぼやけてて、なんの光なのか分からない。

ゆっくり瞬きをして、光の正体を知ろうとすると、鮮明に形を表していく。


「……カモメ?」


「そうだよ。イルカ。」


「……さかさま…だよ…?」


カモメは少し考えて何かに気づいたのか、クスッと笑い、イルカの目元を手で拭う。


「……逆さま…だね?」


私は気が抜けたのか、一滴の涙が頬伝う。

カモメの膝にはイルカの頭が乗せられ、視界的に逆さまに映っていた。


「…へんなのぉ…」


「変だねぇ」




「…カモメ……」


「ん」




「ありがとう……」


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