第36話 ミリーからの提案
◆◆◆
集落から森に移動した玲奈たち三人は、女性同士ならではの話をしていた。
その内容は、主に玲奈と圭吾の生活についてで、特にミリーが突っ込んだ話を聞いてくる。
主に夜の性活について。
「で? 昨晩は何回致しましたの?」
「そんなの言えるわけないでしょ!?」
「ということは、致したのは間違いないということですわね」
「ぬあっ!? た、
そんなことをキャッキャと言い合いながら、森の中を進んでいく玲奈とミリー。
もちろん、ミリーは圭吾に教わった風魔法による索敵魔法を展開しているため、周囲への警戒は怠っていない。
今は獲物もいなし危険もないのでこんなに
そんな風にジャレ合っている玲奈とミリーを、アナスタシアは一歩下がったところからニコニコして眺めていた。
そんなアナスタシアに、ミリーが話を振った。
「お姉様。お姉様も気になりませんか? ケーゴとレナのこと」
ミリーは、アナスタシアが話に入れないのではないかと気を遣ってそう言ったのだが、アナスタシアとしては元々話に入る気はなかったため、一瞬目をパチクリと瞬かせた。
「え? そうですねえ。確かに気になりますね」
「ア、アナスタシアさんまで……」
アナスタシアまでもが自分と圭吾の夜の性活について興味があるのかと思って、ゲンナリする玲奈だったが、アナスタシアの理由は違った。
「もちろんです。いつ頃子供ができるのか予想しておきませんと。子供が生まれるのは久しぶりですから妊娠出産時の対応も思い出さなくてはいけませんし、気になるのは当然ですわ」
「こっ!?」
玲奈は、アナスタシアからとんでもないことを言われ、変な声を出したまま変な顔で固まってしまった。
突然子供のことを、しかもかなり具体的な話を持ち出されて、玲奈は顔どころか首まで赤くなってしまった。
しかしアナスタシアは、そんな玲奈に構わず話を続ける。
「ミリーも、レナさんをよく見て覚えておかなくてはいけませんよ? 将来的には貴方もケーゴさんの子供を産むのですから」
「ア、アナスタシアさん!?」
「……」
アナスタシアの、ミリーにも子供を産んでもらう発言に玲奈は激しく動揺したが、ミリーは神妙な顔で頷いた。
「え、ミ、ミリー?」
「なんですか? レナ」
「いや……だって、ミリーが子供を産むって話に動揺してないから……」
玲奈の言葉に、ミリーは「ふっ」と笑みを浮かべた。
「それは当然ですわ。私は、元とはいえ貴族令嬢。貴族家の娘はその家の次代を生むことをこそ求められるのです。結婚とは、私に取って子供を生むことと同じ意味ですもの。その覚悟なく、第二夫人などと言いません」
「は、はぁ」
地球での、女は子供を生む機械じゃないという意識がある玲奈と、貴族の娘は子供を生むことが義務であるという意識があるミリーやアナスタシアには、まだ価値観が合わないことがあった。
曖昧な返事をする玲奈に、ミリーとアナスタシアは不思議なものを見る目で見てきた。
「レナの元の世界では、そういうものではなかったのですか?」
そう言われた玲奈は、ちょっと考えた。
「うーん。どうなんだろう? そりゃそういう考えの人もいるよ? 女の幸せは結婚と出産だろうって考え。それが間違いとは言わないし、同年代でもそういう考えの子はいたよ。けど今は、なにが幸せかは人それぞれ、価値観を押し付けちゃいけない、って風潮になってる。かな?」
玲奈は圭吾とそういう関係だし、この世界に来て夫婦認定されてしまっているが、まだ十七歳の高校二年生。
本来なら結婚も出産もまだ考えない時期だし、将来やりたいことも色々あった。
この世界に連れて来られてしまったことで、全て水の泡と消えてしまったが。
だからといって、女の幸せが結婚と出産だけではない、という価値観までは消えていない。
なので、しきりに出産を推し進めてくるアナスタシアに戸惑ってしまうのだ。
そういう行為をしていても。
ミリーとアナスタシアは、玲奈の意見を聞いて「「ほぅ」」と感心した。
「世界が違えば価値観も違ってくるのですわねえ」
「そうですねえ」
ミリーもそうだが、アナスタシアも元貴族令嬢。
女は次代を生んでこそ価値があるという考えの中で育ってきたので、玲奈の意見にとても感心した。
そんな感心している二人を見て、玲奈は首を傾げた。
「えっと、ミリーはつい最近逃げ出してきたばかりですけど、アナスタシアさんは? もう何百年も若い姿のままなんですよね? この世界の考え方からすると、誰かと結婚して子供を設けていてもおかしくないと思うんですけど……」
玲奈がそう言うと、アナスタシアは寂しそうに笑った。
「私は『厄災の魔女』ですよ? この世界の男性方は、私のことを恐れこそすれ好意を持たれる方なんていらっしゃいませんわ」
アナスタシアは、見た目も肉体年齢も十代後半から二十代前半を維持し、容姿も絶世の美女と言って良い。
それに加えて、女性は子供を生むものという価値観も持っている。
そんなアナスタシアに今まで夫も子供いないのは、単純に恐れられているから。
そう言うアナスタシアだが、玲奈はそれでも疑問がある。
「世間一般ではそうですけど、この集落の人は違いますよね? そういうことにはならなかったんですか?」
「集落の人たちは、私のことをとても敬ってくれますが……残念ながらそういう目で見てくる方はいませんでしたね」
そういうアナスタシアに、ミリーが激しく同意した。
「それはそうですよ。お姉様は集落の人々にとって救いの神であり崇拝の対象です。そんな方に恋心を抱くなんて、不敬だと考えてしまうのも無理ありませんわ」
「まあ……」
ミリーの言葉に、アナスタシアはちょっと残念そうな顔になった。
玲奈は、そんなアナスタシアの少し残念そうな表情を見て、やはり年齢を重ねたとはいえ肉体年齢が若いとそういう結婚したり出産したりしたいって気持ちは消えないのかな? と思った。
玲奈は疑問に思っただけなのだが、ミリーは違うことを考えていた。
ミリーは少し考えたあと、ハッと顔をあげた。
「……いるではありませんか。そういう偏見を持たず、純粋に好意だけを向けてくれそうな相手が」
ミリーはそう言って玲奈を見た。
玲奈は、とても嫌な予感がした。
そして、さっきのアナスタシアとの会話を思い出す。
アナスタシアは、この世界では厄災の魔女と呼ばれ恐怖の対象で、この集落の人間には救いの神扱いである。
しかし、その枠に当て嵌まらない人間がいる。
そのことに、気付いてしまった。
「ちょ、ミリー? まさか……まさかと思うけど……」
「ええ!」
ミリーは満面の笑みで言った。
「お姉様も、ケーゴに娶っていただきましょう!!」
「やっぱりいぃっ!!」
予想通りの言葉を聞いた玲奈は、思わず絶叫してしまった。
そして、ミリーからとんでもない提案を受けたアナスタシアは……。
「まあ……」
さっきと同じ台詞だが、今度は満更でもない様子で、ポッと頬を赤らめた。
「まじかよ……」
あまりにも強力なライバルの出現に、玲奈は戦慄が止まらなかった。
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