第35話 集落での一幕
玲奈とよりを戻したことをアナスタシアさんに報告し、ミリーから第二夫人宣言をされた翌日から、俺とミリーは現場に復帰した。
ミリーは、召喚魔法陣があった地下室で俺と合同で使った研磨魔法を自分一人でも再現できるように練習している。
これを極めれば、集落の職人さんたちが手作業で行っている木材の研磨作業を魔法で行うことができる。
……今の所は、木材をボロボロにしているだけで、あまり成果は出ていないけど……。
ミリー本人は、皆の役に立つ魔法が使えるかも、ということで真剣に取り組んでいる。
先日からこの集落にやってきた玲奈は、自分にもなにかできることはないかと、以前は同じ白髪だったアナスタシアさんと一緒に、新しい魔法についてあれやこれやと検討している。
俺は、影収納に魔力の篭ったものを入れての移動訓練だ。
マイルズ王国からの帰り道、高速影移動が使えなかったので帰還に時間がかかり、アナスタシアさんやミナさんに心配をかけてしまった。
そういうことが無いようにするのと、あとは次の仕事には俺と玲奈とミリーの三人で向かうので、このままだとまた往復に時間がかかってしまう。
今後のことも考えると、影に人間が潜んでいても高速移動できるようになっておかないといけない。
なので俺は、集落の広場でひたすら影移動の訓練に力を入れていた。
「けーごー!」
影移動の練習をしていると、遠くから玲奈が声をかけてきた。
側にはミリーとアナスタシアさんがいる。
「どうしたー!?」
「ちょっと、狩りに行ってくるねー!」
狩り? 玲奈が?
そういえば、玲奈はマイルズ王国にいた際、白髪の治癒魔法使いだったことで戦闘訓練はしていなかったと言っていた。
そこに、髪色の変質によって攻撃力のある魔法を覚えた。
それを狩りで試しに行くんだろう。
俺は、影移動の練習も兼ねて、玲奈の元へと向かった。
「あら? 今は魔力の篭っているものを持っていませんの?」
移動してきた俺を見て、ミリーがそう言った。
「いや、持ってるよ。その状態での影移動に慣れてきて、もうすぐ人が影に入ってても元のスピードが出せるようになると思う」
俺がそう言うと、ミリーがニコッと笑った。
「あれは爽快でしたわね。そういえば、お昼間に外を走ってくれると言う約束はどうなりましたの?」
「あ、そういえばそんな約束してたな。じゃあ、近いうちに「ちょっ! ちょいちょいちょい!!」」
俺とミリーが話していると、玲奈が割り込んできた。
そして、俺を睨んできた。
「よ……嫁、の目の前で、他の女とデートの約束とかしないで欲しいんですけど!?」
今、この集落では俺と玲奈は夫婦という扱いになっている。
同じ家に住んでいる同郷の恋人同士で、夜の営みもしていると、この世界では自然とそう認識されてしまう。
なので、玲奈もなるべくそういう風に振る舞おうとしているのだが、いまだに自分のことを『妻』とか『嫁』とか言う度に照れる。
まあ、それは徐々に慣れていくと思うので別にいいんだけど、そう言えばこれはデートの約束になるのか。
ちょっと気遣いが足りなかったな、と思っていると、ミリーが玲奈に言い返した。
「あら。私は第二夫人に立候補しているのですから、選んで頂くためにアピールするのは当然ですわ。それに、もし自分より先にケーゴとデートされるのが嫌なのでしたら、最初はレナに譲りますわよ? なにせ、第一夫人ですもの」
ミリーは、先日の宣言以来、俺と玲奈にこうして絡んでくることが多くなった。
その度に玲奈と言い合いになるのだが、ミリーに口で丸め込まれてしまうことが多い。
この辺り、同い年とはいえ、元々ミリーは王子の婚約者。
高位貴族の令嬢としての経験値が高いため、玲奈では立ち打ちできてない。
それでも険悪な雰囲気になっていないのは、ことある毎にミリーが玲奈のことを第一夫人として尊重し、自分は一歩引くから。
決して強引に俺との関係を迫って来ない。
なにしろ、俺たちには悠久とも言える時間があるから。
俺と玲奈との関係が完全に落ち着いてから自分のことを考えてくれればいいと、そう言う風にも言ってくれている。
俺と玲奈に子供でもできて、関係性が落ち着いた頃に、自分を受け入れてもいいと玲奈に思ってもらうため、むしろミリーから玲奈に近寄ろうとする気配も感じる。
玲奈としては、そういう態度に出られるとあまり強く出れないし、第一夫人として尊重されるのは悪い気はしていないように見える。
俺としては、地球にいた頃はハーレム否定派だったのだけど、ミリーの「時間があるから徐々に受け入れていってくれればいい」という発言を聞くと、そう言う関係性ならうまく行くのかな? とか考えていることがある。
……俺も絆されてきてる?
「う……そ、そうね……それなら」
玲奈が最初でいいと言う発言を聞いた玲奈は、俺に訴えかけるように上目遣いで見てきた。
……こんなお願いの仕方、日本にいたときもされなかったけど……あざと可愛い。
「じゃあ、最初は玲奈で、その後にミリーでいいか?」
「ええ、構いませんわ」
ミリーはそう言うと、俺と玲奈に笑顔を見せた。
俺はこの場が丸く収まったことにホッとしていたが、玲奈は複雑そうな顔をしていた。
「うぅ……ミリーのこの余裕はなんなの……? これが、貴族令嬢の余裕だとでも言うの?」
なんかミリーに器の差を見せつけられている気分になっているんだろうな。
俺は、玲奈の頭を撫でながら言葉をかけた。
「玲奈。あれは、この世界で一夫多妻に慣れてる人の態度だから。俺らはまだそれを受け入れ切れてないだけだから。だから気にしないでいいよ」
俺がそう言うと、玲奈は俺をウルっとした目で見てきた後、ギュッと抱きついてきた。
「うん……ありがと」
そう言った後、俺の頬にキスをして離れた。
「じゃあ、行ってくるね」
「ああ。行ってらっしゃい」
そういうやり取りをしていると、ミリーとアナスタシアさんがニヤニヤした顔でこちらを見ていた。
「やはり、まだまだ正妻様には勝てませんわね」
「あらあらまあまあ。なんて仲睦まじいのでしょう」
ミリーはともかく、アナスタシアさんは完全に親目線の態度だった。
「い、行きますよ!」
そんなニヤニヤしている二人の腕を掴んで、玲奈は集落の外に向かって歩いて行った。
その後ろ姿を見送ったあと、俺は自分の練習に戻った。
玲奈も立ち直って頑張っているし、俺も頑張らないとな。
その後の練習には、より一層力が入った。
玲奈たちに、いつまでも進歩がないと言われるのだけは避けたいからな。
そのお陰か、三人が狩りから帰ってくる頃には、人間を影収納に入れたままでも入れていない時と同じくらいのスピードで移動できるようになった。
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