第25話 王女の会話は、キラキラしてない

 召喚部屋をあとにした俺たちは、再び城内を影に潜りながら移動していた。


 王城内にある書庫や研究室など、虱潰しに探し回ったが、どこを探しても召喚魔法陣についての資料が見当たらなかった。


「うーん。これだけ探しても無いとなると、そもそも資料なんかなかったのかも?」

「いえ。それはあり得ませんわ。あんな複雑な魔法陣、資料もなしに描けるなんておかしいですもの」


 俺は諦めかけていたんだけど、この世界の住人で魔法陣のことも多少知っているミリーが言うからにはそうなんだろう。


 なので、再び捜索をするのだけど、正直もうどこを探していいのか分からない。


 このマイルズの城のことならなんでも知っていると自惚れていたので、捜索範囲は俺が全て決めていたのだけど、こうも見つからないんじゃ俺だけの考えでは無理かもしれない。


 ということで、ミリーに助言を求めた。


「ミリーならどこに隠す?」

「……」


 俺の言葉を聞いたミリーは、真剣な顔をして考え始めた。


 そして、ハッとした顔をした。


「……王族の部屋……」

「え?

「今までは、書庫やこの城に研究室を持つ魔法使いの部屋を調べていましたわよね?」

「うん」

「しかし、召喚魔法陣の資料のような国家機密、一介の魔法使いのもとに置いておくでしょうか?」

「! なるほど。そんな重要な書類なら、王族が自分で管理しているか」

「ええ。というわけで、王族の部屋を探しますわよ」


 ミリーの意見で行動指針が決まった俺たちは、すぐに王族が使っている部屋を調べた。


 マイルズ王国には、王と妃の他に、召喚者たちと交流を持っている王女と、次期王である王子がいる。


 王と妃の部屋は本当にただの私室で、書類など一切なかった。


 王の執務室は、今の時間人が一杯いたので後回し。


 王子の私室と執務室も同様で、しょうがないから王女の部屋にやって来た。


 ちなみに、王女に執務室などは無い。


 潜入調査とはいえ、女性の部屋に無断で入るのはちょっと、と躊躇っていたのだけど、ミリーが「さっさと行きますわよ」と促してきたので、王女に心の中でゴメンと謝りつつ部屋に侵入した。


 その部屋の中には、王女と侍女と女性騎士がいた。


 王女は、女性騎士からなにかの報告を受けているところだった。


「それで? ケーゴの捜索の進捗は?」


 まさかここで俺の名前が出るとは思わず、声を出しそうになったが、一緒に影に潜っているミリーに手で口を塞がれ、声を出すことは免れた。


「は、そ、それが……」

「もしかして、進んでおりませんの?」

「……申し訳ございません。本当にあの者はどこに消えたのか……まるで煙のように姿を消してしまっており、全く足取りが掴めておりません」


 残念。煙じゃなくて影だよ。


 報告を受けた王女は、目の前のテーブルにある紅茶を一口飲むと、小さく息を漏らした。


「これだけ捜査員を投入しても足取りすら掴めないなんて……ねえ、本当にその人は実在していたのよね?」

「……正直、これだけ探して痕跡すら見つからないとなると……私たちは、集団で幻を見たのでは無いかと、そう疑い始めている者もいるようです」

「……その気持ちはわかりますわ」

「しかし、レナは彼を私たちが追い出したと言っていますし、その場にいたのは間違いないのです」

「そうなのよねえ……」


 女性騎士の言葉に、また声がでそうになったが、今度は自分で口を塞いでいたので今回も声を出すことは免れた。


 玲奈? なんでここで玲奈の名前が出てくる?


 もしかして、玲奈が俺を捕まえるために協力しているのだろうか?


 そんな疑念を持ったが、次に続けられた言葉で、その疑念はなくなった。


 ただ、別の疑念が出てきた。


「とにかく、早くケーゴを見つけ出してレナには復帰してもらわないと。このままですと、本当にただの穀潰しになってしまいますわ」

「他の召喚者たちは、逆に急に真剣になりましたから尚更ですね」


 ……どういうことだ?


 玲奈は、他の召喚者たちに比べて真面目に訓練を受けていたはず。


 それが、穀潰し?


 一体、玲奈になにがあったのだろうか?


「本当に……一つ問題が解決すれば別の問題が出てくる……どうしてこうも上手くいきませんの?」

「……心中、お察し致します」

「とにかく。貴女はケーゴの捜索にもっと力を入れて頂戴。人員の増加も認めます」

「はっ! かしこまりました! この身に変えても必ずケーゴとやらを見つけ出してみせます!」

「お願いね」

「はっ!」


 女性騎士はそう言うと、退室して行った。


 王女と侍女が残った部屋で、王女は深い溜め息を吐いた。


「まったく……これだから黒髪は……世界に対して害しか齎しませんわね!」

「まったくです」


 なんか、俺のいないところで黒髪に対する嫌悪感がさらに増した気がする。


 ゴメンよ、集落の皆。


「それより、レナの様子はどうなんですの?」

「はい。報告によりますと、部屋に詰めている使用人が入れ替わるたび、ケーゴは見つかったのかと問いかけてくるようになったそうです。ですが、相変わらず部屋から出てくる様子はなく、ずっと塞ぎ込んだままだとか」

「そう……そんなにケーゴが大切だったのかしら?」


 王女と侍女の話を聞いていて、俺は違和感しかなかった。


 玲奈が部屋で塞ぎ込んでいる?


 俺がこの城で情報収集をしていたときは、玲奈に変わった様子はなかった。


 しかし、王女は玲奈が部屋で塞ぎ込んでいると言っていた。


 となると、俺がこの城を出てから何かがあったということになる。


 俺が原因で。


 でも、俺がこの城を出てから俺が原因で塞ぎ込むとかおかしくない?


 っていうか、なんで今更俺のことで塞ぎ込むんだ?


 しかも、どうも俺を探しているのは玲奈の要請らしいし。


 一体、なにがどうなってんだ?


 俺が影の中で混乱しているうちに、王女は部屋を出て行った。


 この隙に、俺は影を伸ばして部屋中を捜索する。


 しかし、この部屋には手紙などはあったが資料などは一切なかった。


 ここも空振り、となるとあとは王か王子の執務室ということになる。


 あそこは人が多すぎて夜になって人がいなくならないと捜索できない。


 ミリーに頼んで全員眠らせることもできるけど、それをやると大騒ぎになる。


 ということで、夜まで時間を潰さないといけなくなってしまったのだが、その間にミリーから問い詰められてしまった。


「ねえ、ケーゴ。さっき王女が言っていたレナって、ケーゴの元彼女のことですわよね?」

「ああ」

「ケーゴの話では、彼女、ケーゴのことが嫌いになってケーゴを振ったんでしたわよね?」

「そのはずだな」

「でも、さっきの話だと、レナはケーゴがいないことで塞ぎ込んでいるように聞こえましたわ。それはどういうこと?」

「俺にも分からん。俺がここに潜伏してたときは、普通にしてた。俺が追い出されたことに対しては理由を訊ねてはいたけど、特に食い下がったりせず、すぐに受け入れたように見えたな」

「……なら、なぜ、今更塞ぎ込んでいるのですか?」

「それが分かったら苦労しないよ。これは、夜は忙しそうだなあ……」


 とりあえず、夜まで大分時間があるので、他の召喚者たちの様子を見てから、どこかで休もう。


 そして、目的を達したあとは、玲奈の部屋に行って様子を見てこよう。


 まあ、なにが起こってるのか把握しておきたいという意味でな。


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