第19話 女暗殺者、爆誕?
ミリーさんに復讐を勧めた俺は、闇魔法を披露し、ミリーさんには俺の影に潜ってもらった。
影に潜れば鉄格子なんて関係ない。
すぐに地下牢を抜け出し、俺も影に潜りながらパーティー会場に戻った。
ちなみに、同じ影に潜ってはいるが、ちゃんとスペースはあるので触れ合ったりはしない。
お互いの姿も見えるしね。
「これ、便利ですわね」
「諜報活動にはもってこいでしょ? 俺はこの魔法を使って、今日ここに諜報員として潜り込んだんです」
「貴方にかかったら、この国の情報なんてダダ漏れね」
「まあ、今日はそこまで重要な情報を求めてはいませんでしたから、機密までは盗んでないですよ」
「まあ、もう私には関係ない話ですけど」
そんな話をしながらパーティー会場であるホールに戻る。
あんなことがあったにも関わらず、パーティはまだ続いていた。
王子たちはまだホールの中央でイチャイチャしており、周りの貴族たちは付いていけないとばかりに二人から距離を取っている。
「意外とマトモな考えの貴族が多いのね。誰も助けてくれなかったから、貴族たちもグルなんだと思っていたわ」
ミリーさんが影の中でそう言った。
「シッ! 影に潜っていても声は聞こえるんです。極力小声で話してください」
俺がそう言うと、ミリーさんはハッと口を塞ぎ、コクコクと首を振った。
「ん? なにか言いましたか?」
「いえ。それより、これからどうなると思いますか?」
「はぁ……これは由々しき事態かと思いますが……矮小なこの身では如何ともし難いですな」
「それはそれは。それは私とて同じことですな」
「では、矮小な身の者同士、身を寄せ合うべきですかな?」
「でしょうな。近いうちに連絡しますよ」
「分かりました。お待ちしております」
近くにいた貴族たちは、そんな会話をしていた。
その会話を聞いていたミリーさんは「ふぅん」と漏らした。
「なんですか?」
「ん? いえ、この国……というか王家はもう終わりだなって」
「なんでです?」
「今の会話」
「貴族たちのですか?」
「ええ。貴族一つ一つは王家に逆らうほどの力はないけど、力を合わせれば王家を打倒できるって話してたじゃない」
「……そうでしたっけ?」
「そうなのよ。ってことで、放っておいても勝手に自滅するわね」
「じゃあ、復讐は止めておきますか?」
俺がそう言うと、ミリーさんはニヤリと悪い顔で笑った。
「冗談でしょう? 先が見えているとはいえ、あの二人には痛い目に合ってもらわないと気が済まないわ」
「そうですか。ではさっさと済ませてしまいましょう」
「ええ」
ミリーさんはそう言うと、さっき俺が指示した魔法を使った。
魔法によって生み出された風は、王子と妹に気付かれることなく二人をを包み込んだ。
「んん? なんだか疲れた気ががするな」
「私もですぅ」
「そろそろ部屋に戻るか」
「はぁい」
王子はそう言うと、妹の腰を掴んでホールから出て行こうと歩き出した。
その途端、二人揃ってクラっとよろめいた。
「む? ん? な、なんだ?」
「はぁ……殿下、私、なんだか変ですぅ」
「……すまん、私も体に力が入らない。これはなん……ぬわっ!」
「きゃあっ! 殿下!!」
フラフラしていた王子と妹だったが、王子がとうとう足をもつれさせて転び、妹もそれに巻き込まれて転倒した。
そして転倒した王子だが、その様子がおかしかった。
「はっ……な、にゃんだ……こりぇわ……」
「うぅ……にゃんか、へんですぅ」
大勢の貴族たちがいる目の前で王子が転倒したこともあり、さっきミリーさんを捕まえた衛兵たちが慌てて近寄ってきた。
「で、殿下!! どうされましたか!?」
「ち、ちきゃらが……」
「わらしもぉ」
「殿下!! カトリーヌ様!! 誰か! 医師をっ……あ」
駆け寄った衛兵も、その場に倒れた。
その光景を見た貴族たちは、倒れている三人から距離を取り始めた。
「こ、これは!?」
「まさか、毒!?」
その一言が引き金だった。
「うわあっ!!」
「毒だ!! 毒が撒かれた!!」
「早く! 早く城から逃げないと!!」
「ええい! 私を誰だと思っている!! 早く通せ!!」
一斉にホールの出口に向かって逃げ出す貴族たちで大パニックになった。
あまりに一斉に逃げ出したので、あちこちで転倒者が出たり、怒号が飛び交ったり、怪我人が出たりしている。
倒れている王子と妹と衛兵は置き去りだ。
「ま、まちぇ……きしゃまら……」
「た、たしゅけて……」
「し、しにたくない……」
倒れている三人の言葉は、誰の耳にも届かない。
そんな光景を見て、ミリーさんは口を両手で抑え、足をバタバタさせ声を出さずに大爆笑している。
ミリーさん、さっき散々な目に遭わされてから大分吹っ切れた感じになったな。
ホールにいたときは、いかにも高位貴族のお嬢様って感じだったのに。
今、足をバタバタさせている姿に、そんな面影なんて見る影もない。
声を出さずに爆笑しているミリーさんが声を出せるように、ホールからバルコニーに移動すると、途端に声を上げて笑い出した。
「あはははは! あの顔見ました? 真っ青な顔してブルブル震えてたわ!」
「どうですか? 新しい魔法の使い心地は?」
「これ、最高に暗殺向けね? ケーゴと組んだら最強なのではないかしら?」
さっきまで王子の婚約者だった高位貴族令嬢のミリーさんは、今日の断罪劇を受けて暗殺者にジョブチェンジしてしまったらしい。
「まあ、確かにそうですね。今日のところは、麻痺毒を王子たちに纏わり付かせただけですけど、これが毒霧なら確実に暗殺できますね」
「そうね。まあ、あの二人と衛兵はともかく、見たこともない人を殺すなんて私にはできそうにないからやりませんけどね」
「でも、十分な戦力にはなりますよ」
「……なにか、戦力が必要なことでもありますの?」
「それも、ここを出たらお話しします」
「……分かりました。とりあえず、毒にやられているのに見捨てられているあいつらを見ることができましたから、溜飲はこれで下げてあげるわ。さあ、それじゃあ、さっさとこの国を出ましょうか」
晴々とした顔でそう宣言するミリーさんに了解の意味を込めて頷き、そのままバルコニーから外へ出るのだった。
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