第18話 闇落ちと復讐のススメ
ホールを出ると、ミリアーナさんはまだ叫んでいたのですぐに追いつくことができた。
その後ろを影に潜りながら付いていくと、向かった先は地下だった。
「ちょっと! こっちは地下じゃない!! どういうこと!?」
「うるさい反逆者が! お前は貴族牢ではなく一般牢に入れろとのお達しだ!!」
「そ、そんな……っ!!」
貴族牢って、牢とは名ばかりの普通の部屋で、一般牢は所謂牢屋だ。
見たところ、王子の婚約者に選ばれるくらいだから高位の貴族令嬢なんだろうし、牢屋に入れられるとか恐怖と屈辱でしかないんだろうな。
ああ……またミリアーナさんの雰囲気が変わった。
これは、本格的にマズいかもしれない。
とはいえ、俺の闇魔法では今この場でミリアーナさんを助け出すことはできない。
攻撃手段もあるにはあるけど、この場で襲撃してしまうと大騒ぎになってしまうからだ。
とにかく、ミリアーナさんが牢に入って、人がいなくなるまで待ったほうがいい。
そう判断して、俺は後を付いて行き、地下牢に辿り着いた。
「おらっ! とっとと入れ!!」
「きゃあっ!!」
ついさっきまで王子の婚約者だった人を乱暴に牢の中に放り投げる。
正直、仮に本当に犯罪を犯していたとしても、女性にしていい態度じゃないと思う。
もしかしたら、コイツらも王子に与することで、なにかしらの恩恵を受けるのかもしれないな。
そんな恩恵、多分ないのに。
ミリアーナさんを牢に放り込んだ衛兵たちは、ニヤニヤしながら地下牢を出て行った。
ようやくミリアーナさんの周りから人がいなくなった。
さて、ミリアーナさんに声をかけようかな、と、思ったときだった。
「ふざけるな……呪ってやる……呪ってやるっ!!」
「! しまっ!」
ヤバイ!! 悠長にし過ぎた!!
ミリアーナさんから溢れ出す魔力にどす黒い感情が上乗せされている。
「ちょっ! ミリアーナさん落ち着いて!!」
「うあああああっっ!!!!」
俺の声はミリアーナさんには届かず、怨嗟の声を張り上げたミリアーナさんの髪が、綺麗なライトグリーンの髪色から、深緑色に変化した。
ああ……間に合わなかった。
今まで溜め込んでいたであろうストレスと、今日の、全くの第三者から見ても突っ込みどころ満載の茶番劇に巻き込まれ、その挙げ句、地下牢にまで捕えられた理不尽とで精神が限界に来たんだろう。
エルロンさんやスカーレットさんと同じく、闇落ちしてしまった。
アナスタシアさんと違うのは、彼女と違い真っ黒にはなっていないことかな。
「はあぁ……許さない……アイツら、許さない……」
「あの」
「っ!!」
恨み満載の表情で、あの二人を許さないと呟いているミリアーナさんに姿を表して声をかけると、ものすごくビクッとされた。
ちなみに、幻惑魔法はかけている。
「え?? だ、だれ?」
「あ、すみません。怪しい者ですけどアナタの敵ではありません」
「……怪しい者って」
俺の返事がおかしかったのか、さっきまで本当に人を呪い殺せそうなほど怖い顔をしていたのだが、ちょっと表情が緩んだ。
「えっとですね、ちょっとミリアーナさんに伺いたいことがあるんですけど」
「……なにかしら?」
「この国に未練はありますか?」
「!!」
俺が訊ねると、ミリアーナさんは大きく目を見開いた。
「あるわけないわ!! 今まで私を蔑ろにし続けてきた両親も! 人を悪者にして自分が人気者になろうとする姑息な妹も! その妹の杜撰な言い分を真に受けてこんなことをするアイツも! 全員殺してやりたい!!」
はぁはぁと肩で息をするミリアーナさんを見て、俺はこの人をここから逃すことを決めた。
「それなら、この国を捨てて、俺たちのところへ来ませんか?」
「貴方たちのところ? どういう意味」
「それは……こういう意味です」
俺は幻惑魔法を解いた。
「!?」
その途端に現れる黒髪を見て、ミリアーナさんが息を呑むのが分かった。
「俺は、とある方が黒髪の人間や、ミリアーナさんのように貶められた人たちを救うために作られた集落にいます。そこには、ミリアーナさんと同じような目に合った人もいます。この国に未練がないのなら、その集落に来ませんか?」
俺はそう言って、ミリアーナさんに手を差し伸べた。
しばらくその手と俺の顔を交互に見ていたミリアーナさんは、少しの間考え込んだけど、そっと俺の手を取ってくれた。
「正直、展開が早過ぎてまだ納得しきれてはいないのだけど……今日のこの出来事でこの国には愛想が尽きました。本当なら復讐をしてやりたいけど、私一人の力ではどうすることもできませんし、貴方の話に乗ってあげますわ」
よし、まだ完全に信用し切ってはくれていないけど、今が初対面だもの、それは仕方がない。
実際に集落に行って皆と交流を持てば、心を開いてくれる日も来るだろう。
「それはそうとして」
「はい? なんですか?」
「貴方、お名前は?」
「あ」
そうだった。
あまりにも起こった出来事がインパクト強過ぎて、名乗るのを忘れていた。
「俺はケーゴ。ケーゴ=クロサキです。ケーゴと呼んでください」
「ケーゴ……クロサキ? そんな名前の貴族なんていたかしら?」
「あ、俺は貴族ではないです」
「? 貴族ではないのに家名があるの?」
「それは後で説明しますよ」
「そう。分かった。ところで」
「はい?」
「ここからどうやって出るの?」
ミリアーナさんは、そう言って牢屋に嵌められている鉄格子を見た。
「というか」
「はい」
「貴方、どうやってここに入ったの?」
さっき声をかけた時から、俺がいるのは牢屋の中。
そりゃまあ、疑問に思うわな。
「それはすぐに分かります。ところでミリアーナさん」
「ミリアーナは長いでしょ? もう貴族でもなくなるのだし、ミリーでいいわ」
「ではミリーさん。今の貴女の状態は分かっていますか?」
「私の状態?」
まあ、鏡もない状況なら状態確認なんてできないわな。
俺は影収納から手鏡を取り出した。
鏡を取り出した瞬間に、ミリーさんがビクッとした。
いちいち反応が面白い。
「これで、ご自身の髪を見てください」
「私の髪?」
首を傾げながら鏡を覗き込んだミリーさんは、途端に目を見開いた。
「は? ええ!? 髪が! 髪が黒ずんだ緑色に!!」
「深緑ですね。それでミリーさん。魔法は使えますよね?」
「え? ええ……ご覧の通り緑髪ですから、風の魔法が使えますわ」
「その魔法。なにか新しい魔法が使えるようになっていませんか?」
「新しい魔法? そんなの……え? なにこれ? なにか今までと違うことができるって分かるわ!」
やっぱりそうか。
闇落ちすると、アナスタシアさんもエルロンさんもスカーレットさんも、皆元の属性に因んだ新しい魔法が使えるようになったと言っていた。
同じように闇落ちしたミリーさんなら、新しい魔法が使えるようになっていると思っていたんだ。
「ちなみに、どんな魔法ですか?」
「えっと……風に色んなモノを混ぜてばら撒くことができるようになっているわ」
「色んなモノ……」
そこで俺はちょっとミリーさんに試してもらいたいことができた。
「ミリーさん、さっきアイツらに復讐してやりたいって言っていましたよね?」
「ええ! 本当ならヤってやりたいわ!!」
ヤルの意味が怖いけど、とにかく俺の考え通りなら復讐はできるはずだ。
「なら、俺が手を貸すので、復讐、してみませんか?」
俺は、精一杯悪い顔を意識してニヤッと笑うと、ミリーさんは一瞬キョトンとしたあと、ニヤリと笑い返してくれた。
さて、帰る前に復讐のお手伝いをして行きますかね。
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