第14話 心の年齢差は大きい
「スゲエ! スゲエよケーゴ!! 確かに、この魔法なら誰にも気付かれずに黒髪の同胞を助けることができる!!」
「なあケーゴ! この魔法を俺たちに教えてくれ!!」
俺が闇魔法のことを話した途端、大勢の人にもみくちゃにされ、魔法を教えてくれと懇願された。
いや、そのつもりなんだけど……もみくちゃにされ過ぎて、話ができない!
「はいはい! 皆落ち着いて! 一旦ケーゴを放しなさい!」
興奮して暴走している皆を、スカーレットさんが大きな声で嗜める。
この集落でもスカーレットさんは発言権が大きいのだろう、興奮していたのに皆素直に聞き分け、俺から距離を取った。
「ケーゴにはすでにそのお願いはしてあるわ。快く承諾してもらえたから、安心しなさい!」
『おおおっしゃああっ!!』
スカーレットさんの宣言に、またしても皆の大きな歓声が響き渡った。
またもみくちゃになっては敵わないと、その歓喜の輪から抜け出し、スカーレットさんの横に辿り着いた。
そのスカーレットさんは、興奮して大喜びしている皆を呆れつつも穏やかな笑顔で見つめていた。
「皆、よっぽどアナスタシア様の力になれるのが嬉しいのね」
「そのことなんですけど、聞いていいですか?」
「なに?」
「皆さんは、黒髪迫害の発端がアナスタシアさんからだってことを知っていますよね? それなのに、アナスタシアさんを恨んだりとかしてないんですね」
俺がそう言うと、スカーレットさんは皆と歓談しているアナスタシアさんを見た。
「そりゃあ、ここに来た当初は、皆アナスタシア様を恨んでいたわ。害そうと襲いかかった人だっていた。けど、アナスタシア様の事件の真相とご本人の人柄を知っていくと、その怒りや憎しみが徐々に消えていって、逆にアナスタシア様の役に立ちたいと思うようになっていくのよ」
「なるほど、そうだったんですね」
この短時間でも、アナスタシアさんがとても素晴らしい人だと分かった。
ここにいる人たちはアナスタシアさんの魔法で長生きできる。
長い年月アナスタシアさんと接していれば、恨みや憎しみも浄化されていくんだろうな。
「それでね、ケーゴ」
「はい?」
「これから、アナタたちが闇魔法を覚えれば、黒髪の人たちを大勢保護できると思う。けど、やっぱり最初はアナスタシア様のことを恨んでいる人も多くいると思うの」
「それは……」
確かに、ここにいる人たちはアナスタシアさんのことを知っているけど、外の人たちはそんなこと知らないからな……。
「アナスタシア様に悪態をついたり、攻撃的な行動に出る人もいると思う。けど、そういう人たちを排除しないで説得してあげて欲しいの。そうすれば、ここにいる人たちみたいに、アナスタシア様のことを理解してもらえると思うから」
「スカーレットさん……」
「お願い、ケーゴ。アナスタシア様は、黒髪の人たちを救いたいと思っている。そんな人たちを、悪態をつかれたから、攻撃してこようとしたからと排除したのでは、本末転倒なの。だから、できればここに連れてくる前に、説得してから連れてきて欲しいの」
真剣な表情でそう懇願してくるスカーレットさん。
アナスタシアさんの願いを知っている身としては、その願いを聞かないはずがない。
「もちろんです。どこまで説得できるかはわかりませんけど、なるべく納得した上で保護したいと思いますので、安心してください」
俺がそう言うと、スカーレットさんは俺の手を両手で握りしめた。
「ありがとう! 本当に、ありがとう!」
スカーレットさんはそう言って満面の笑みを浮かべた。
「本当に、アナスタシアさんのことが好きなんですね」
「当たり前でしょ? アナスタシア様は私たちの大恩人、周りの人がなんと言おうと私たちにとってはこの世で一番大切な人なんだから!」
スカーレットさんは元々赤髪で黒髪迫害は受けていなかったからか、アナスタシアさんに対する親愛と言うか忠誠心が、他の黒髪の人たちより強い気がする。
皆の輪から離れてスカーレットさんと話をしていると、それを見たエルロンさんが茶々を入れてきた。
「おー? なんだぁスカーレット。ようやく身を固める決心でもついたかよ?」
エルロンさんはそう言うと、ゲラゲラと笑い出した。
相当酔っ払ってるな……あれで、本当に元騎士だったんだろうか?
それとも、騎士で無くなったこの二百年の間に、すっかり俗っぽくなってしまったんだろうか?
っていうか、スカーレットさんにそんなこと言ったら……。
「ふざけたこと言ってんじゃないわよっ!!」
「ごへっ!」
火の玉のようなストレートがエルロンさんの顔面に炸裂した。
「年のことは言いたくないけど、いくつ歳が離れてると思ってるのよっ!! こんな年上の女なんて、ケーゴだって願い下げでしょうよ!」
わぁ、自分でタブーの年齢のこと言っちゃった。
気にしてないと言いつつ、やっぱり気にしてるんだな。
「そうなのですか? ケーゴさん?」
スカーレットさんの啖呵は大声だったので、会場中に響いていたのだが、それを聞いたアナスタシアさんが俺に聞いてきた。
「え? いや……ここにいる皆さんは、実際の年齢はともかく肉体年齢二十代なんですよね? それなら、俺は特に気にしませんけど……」
「あら。それじゃあ、私も対象に入っていますか?」
「そりゃそうですよ。ただ、俺には高嶺の花過ぎて、恐れ多いですけど」
「まあ」
アナスタシアさんは、そう言ってクスクスと笑った。
こういう話題になっても、全然照れたりしないところに、内面の歳の差を感じるけども。
「むしろ皆さんの方が、俺なんかガキにしか見えなくてそういう対象じゃないんじゃないですか?」
俺がそう言うと、スカーレットさんを始め、女性の方々がバツの悪そうな顔をした。
「それは……そうね。こう見えて長く生きているから、十七歳はちょっと……」
「ねえ、なんと言うか、子供に手を出すような気がして……」
「ちょっと気が引けるわね」
「でしょうね」
皆さん酔っているからか、素直は心情を吐露してくれた。
まあ、最初からそう言うのを明確にしてくれている方が助かるし、例の件もあるから、恋愛はちょっと怖い。
あれだけ長く一緒にいて信頼関係を築いていたと思っていたのに、俺のことを一切信じずにアッサリと裏切られた。
俺は、玲奈との付き合いで、信頼を損ねるような真似をしないようにしてきたはずなのに、それでもこの仕打ちだ。
もう、これ以上どうすればいいのか分からない。
だから、恋愛ごとは当分勘弁して欲しい。
この時は、心からそう思っていた。
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