第13話 歓迎会
アナスタシアさんに集落を案内してもらったあと、屋敷に戻ってきた俺たちは、歓迎会の準備がまだ整っていなかったこともあり、アナスタシアさんの部屋で二人、小さなお茶会を催していた。
そこで、さっき話した玲奈とのこと以外の俺の話や、地球の話をアナスタシアさんが聞きたがったのでそれを話したり、逆にこの世界のことを教えてくれたりしながら過ごしていると、いつの間にか時間が過ぎ、歓迎会の準備ができたとミナさんが呼びに来た。
ミナさんに先導されて一階に降りると、そこにはさっき集落を案内してくれた際に挨拶をした人たちが沢山集まっていた。
途中まで階段を降りると、アナスタシアさんに肩を掴まれたのでそこで止まる。
皆から俺の姿がよく見える位置にいるため、皆の視線が俺に集まっていた。
「皆さん、今日は集まってくれて有難うございます。皆さんに集まっていただいたのは、今日からこの集落の一員となったケーゴさんの歓迎会をするためです」
アナスタシアさんがそう言うと、皆から拍手され歓迎されていることが伺えた。
黒髪は、無条件で仲間なんだという意識があるんだろうな。
「さて、歓迎会を始める前に、ケーゴさんについて話しておきます。皆さんの中には、先ほどケーゴさんを見かけて違和感を抱いた人もいるかと思います」
集まった人たちの中の何人かが首を縦に振っている。
さっき挨拶した人たちだな。
「黒髪の割には栄養状態の良さそうな身体や、身に付けている服も珍しくて上等なもの。この世界の黒髪の人には信じ難いことでしょう。しかし、それもそのはず、ケーゴさんは、この世界の人間ではないのです」
その発言に、集まった人たちがザワつく。
その大半は、意味が分からないといった反応だ。
ミナさんは、ようやく説明してもらえるのかと期待を込めた表情をしている。
「皆さん、よく分からないという顔をしていますね。それもそうでしょう。それくらい、ケーゴさんの身に起こったことは信じ難いことです」
アナスタシアさんはそう言うと、一度目を伏せ、もう一度顔を上げて皆を見た。
「皆さんは、異世界、というものをご存知ですか?」
その言葉に、さらに困惑が広がる。
「分からなくても仕方がありませんね。ケーゴさんは、私たちでは行くことも認知することもできないほど遠い遠い世界から、魔法によって無理矢理この世界に連れてこられた人なのです」
異世界という言葉が理解できなくても、遥か遠い世界からこの世界に無理矢理連れてこられたことは理解できたようだ。
皆の俺を見る目が、歓迎する目から可哀想な人を見る目になった。
「ケーゴさんには、元の世界に両親や家族がいました。友人がいました。そんな人たちから、無理矢理引き離されたのです。なので皆さん。皆さんがケーゴさんの新しい家族になってあげてください。新しい友人になってあげてください。どうか、よろしくお願いします」
アナスタシアさんがそう言うと、皆から俺を歓迎する声と、大きな拍手が巻き起こった。
それを見たアナスタシアさんは、その光景を見て微笑んだ。
「皆さん、有難うございます。それではケーゴさん、一言お願いします」
「うぇっ!? お、俺もですか!?」
「当たり前です。これは、ケーゴさんの歓迎会ですよ? 主役が挨拶しないでどうしますか」
アナスタシアさんは、悪戯が成功したようにクスクス笑いながら俺を見た。
まあ、確かにアナスタシアさんの言う通りだ。
皆、俺のために集まってくれているんだから、俺も話すのが筋だろう。
意を決した俺は、咳払いをして皆を眺めた。
う……こんな皆の前で挨拶なんかしたことねえよ。
えっと……。
「あ、えっと、先ほど紹介されました、黒崎圭吾……ええっと、こっち風に言うとケーゴ=クロサキです。ケーゴと呼んでください。アナスタシアさんが言った通り、こことは別の世界から来たので、こっちの世界の常識を全く知りません。そういったことも教えて頂ければ嬉しいです。えっと、それから……その、これからよろしくお願いします!」
そう言って頭を下げる。
……あれ? 反応が……。
と思っていると、大きな拍手が起こった。
慌てて頭を上げると、皆俺を歓迎するように笑いながら拍手をしてくれていた。
黒髪であること、アナスタシアさんのお膳立てがあったことを踏まえても、皆が俺のことを歓迎してくれているのがよく分かる光景だった。
「あ、有難うございます!」
そう言ってもう一度頭を下げた。
「さて、それでは挨拶はこれくらいにして、ケーゴさんの歓迎会を始めましょう!」
アナスタシアさんの号令で、俺の歓迎会が始まった。
何人かの男の人が階段まで俺を迎えに来てくれて、皆のところまで連れていってくれた。
そこで、俺のことを根掘り葉掘り聞かれ、それに答えていたり、ミナさんが用意してくれた料理をご馳走になったりしながら楽しい時間を過ごした。
ミナさんの作る料理はどれも美味しくて、皆はもちろん、俺も大満足の出来だった。
そうして皆との交流を深めていく中で、皆さんの話も聞かせてくれた。
「異世界? ってとこは羨ましいなあ。黒髪でも迫害されないなんて」
「やっぱり、この世界での黒髪差別は酷いんですか?」
「酷いなんてもんじゃないな。アナスタシア様に救われて、ここに来るまでは人間扱いされてなかった」
「そんなに……」
「もう何十年も前の話だけど、ここにこれた俺たちは相当な幸運だよ」
「そういえば、アナスタシアさんが世界中の黒髪の人たちを保護したいと言っていましたけど、上手くいっていないんですか?」
俺がそう訊ねると、皆の顔が少し沈んだ。
「アナスタシア様は、自分が黒髪迫害の元凶であると責任を感じておられてな。黒髪の人間の保護をされようと努力はしているんだが……」
「何しろ、アナスタシア様ご自身が黒髪だ。積極的に人前に出るわけにもいかず、相当悩んでおられる」
その言葉を聞いて、俺はふと疑問に思った。
「じゃあ、あの、皆さんはどうやってここに来たんですか?」
俺がそう言うと、皆が憎々し気な表情になった。
「俺たち黒髪は、戦争が起こると捨て駒にされる。防具を装備することは許されず、武器だけ持って相手に特攻させられるのさ」
「防具も付けずに特攻!?」
そんな!? なんて非道な!
「そういった戦場だと、黒髪がいても然程不自然じゃない。アナスタシア様はそれを利用して、戦場から俺たちを救い出してくださったのさ」
「はぁ、なるほど」
「最近じゃあ、エルロンさんとスカーレットさんが街に出て黒髪の人間を連れてくることもあるけどな。最初の方はそうやって黒髪の人間を保護していたのさ」
「まあ、そんな具合だから、中々黒髪の保護は進んでいなくてな。アナスタシア様の憂いを払拭するためにも、なんとかしたいと思っているんだが……」
そう言って暗い顔をする皆さん。
そうか。エルロンさんが皆に闇魔法を教えて欲しいと言っていたのにはこういう理由もあったんだな。
「あの、皆さん。皆さんのその悩みは、もうすぐ解決できると思います」
俺がそう言うと、皆が一斉に俺を見た。
「悩みが解決できる? それはどういう意味だ?」
「実はこの世界に召喚されると、魔力や身体能力にボーナスが付くようで、俺、すぐに魔法が使えるようになったんです」
『!?』
俺の言葉に、皆が驚愕の表情を浮かべる。
「魔法がって……もしかして闇魔法が!?」
「はい。俺はその魔法を使って、俺たちを召喚したマイルズ王国の王城に潜伏し、一ヶ月間情報収集をすることができました」
「一ヶ月!?」
「ど、どうやって!?」
「こうやって、です」
俺は、アナスタシアさんたちにも見せた、影に隠れる魔法を見せた。
「なっ!? 影に隠れた!?」
「これが闇魔法!?」
驚愕する皆の前に、もう一度姿を表す。
「そうです。他にも潜伏や隠密活動に適した魔法が使えます。その魔法を使えば……」
そこで言葉を切って、俺は皆を見回した。
「誰にも気付かれずに、黒髪の人を保護できると思いませんか?」
俺がそう言うと、皆は言葉を失った。
そして、その言葉の意味が徐々に理解できていくと……。
『うおおおおっ!!』
皆の歓声が爆発した。
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