第9話 召喚者たちの個人情報
「これが、俺がアイツらを友人とは認めない理由ですね。それを考えると、早々に追い出されたのは却って都合が良かったかもしれませんね。一緒になんて、とても行動できませんから」
俺がそう言うと、三人は、とても気遣わし気な表情をしていた。
「そう、か。お前も辛い思いをしていたんだな……」
エルロンさんはそう言って、俺の肩をポンと叩いた。
「アナタ、確か今十七歳って言ってたわよね? ということは、その体験をしたのは十六歳のとき? 若い内にそんな経験をするなんて……」
スカーレットさんは、まるで自分のことのように悲しんでくれている。
そしてアナスタシアさんは、俺に近付くとギュッと抱きしめてくれた。
「……よく頑張りましたね。大丈夫ですよ。ここにはケーゴさんを虐げる者なんていません。大丈夫ですよ」
と、大丈夫を繰り返し、俺の背中をポンポンと叩いてくれた。
三人とも俺と似たような経験をしたことがあるからか、その言葉は表面的なものではなく、心底俺のことを案じ、慰めてくれているのだと理解できた。
「……うっ、ぐぅっ」
そのことを理解した途端、玲奈や皆に裏切られて以降一度も流していなかった涙が溢れた。
エルロンさんとスカーレットさんは、突然涙を流し始めた俺のことを馬鹿にせず、ジッと見守ってくれていた。
「大丈夫。大丈夫です。辛かったですね。悲しかったですね。もう我慢しなくていいんです。泣きたいだけ泣けばいいんです。そうやって、辛いことや悲しいことを全部吐き出してしまいましょう」
「うぅ、うあああああっ!!」
アナスタシアさんが俺の背中をポンポンと叩きながら慰めてくれるものだから、もう歯止めが効かず、俺は、人目も憚らず号泣した。
その間も、エルロンさんとスカーレットさんはなにも言わず、アナスタシアさんは俺を抱きしめ続けてくれた。
一頻り泣いたあと、俺は自分の心が随分と軽くなっていることに気が付いた。
そうか……俺、こんなに溜め込んでしまっていたんだなと、今になってようやく気が付いた。
俺が泣き止んだことに気が付いたアナスタシアさんは、そっと俺の体から離れ、俺の顔を見て優しく微笑んだ。
「どうですか? スッキリしましたか?」
「……はい。すみません、お恥ずかしいところを……」
俺がそう言うと、エルロンさんが俺の頭をガシガシと乱暴に撫でた。
「恥ずかしいことなんかなんもねえ。俺だって当時は泣き喚いたし、怒りに任せてとんでもない行動をしちまったしな」
「そうよ。そんな目に遭って泣いてなかったなんてむしろ異常だわ。ケーゴは我慢しすぎよ」
スカーレットさんは貰い泣きしたのか、ちょっと赤い目をしながらそう言ってくれた。
みっともなく号泣した俺を馬鹿にすることなく、むしろ寄り添ってくれる二人のことを、このとき急速に信頼し始めていることに、自分でも気が付いた。
優しく俺のことを抱き締めてくれたアナスタシアさんのことは、むしろ敬愛し始めていた。
「さて、ケーゴさんの事情もお伺いしましたので、あとは他の召喚された方のことも伺いたいのですが……ケーゴさん、大丈夫ですか? しんどいならまた明日でも構いませんが……」
アナスタシアさんが俺を気遣ってそう言ってくれる。
本当に優しさの塊だな、この人。
「いえ。折角ですから、もう一気に話したいです」
俺はそう言って、一緒に召喚され、今もマイルズ王国にいる人たちのことを話し始めた。
「えっと、さっき言ったように、玲奈と中谷。それと他に三人の男女の計五人が一緒に召喚されました」
まずは、召喚された人数から。
「その内、玲奈が白髪に、中谷が黄髪になってました」
「白と黄!? 聖属性と光属性が発現したのですか!?」
自身も白髪だったアナスタシアさんから見ても、白髪は珍しいらしい。
「ええ。それと、他の三人は赤と青と茶色ですね。赤が女で水沢真紀、青は男で日吉宗介、茶色も男で野村祐樹という名前です」
俺が話す内容を、アナスタシアさんは机の上に置いてあったメモに書き記していく。
「聖、光、火、水、土、ですか。緑はいなかったんですね?」
「ええ、いませんでした。で、魔法がなく争いのない世界から来たってことで、今は城で色々と訓練を受けています」
「……そうですか。ちなみに、五人の待遇はどうですか? 無理やり従わされていたりとかは?」
「かなり好遇されていましたね」
城内で色々情報収集したときに見た。
あれは、無理矢理拉致されてきても、つい絆されてしまうレベルだった。
「衣食住は十二分に確保されていますし、訓練も個別に付きっきりで行われています。そして、男には綺麗な女性が、女にはイケメンな男性が専属の世話係として付けられています」
「……色仕掛け、ですか?」
「そうですね。そういうのは男に向けてだけっぽいですけど。専属で付けられた初日に、男三人はその人たちに手を出していましたよ」
間違いなく、あれはハニートラップだ。
女性を充てがい、深い関係になることで国を裏切らないようにし、元の世界に帰らせろなどの文句を封殺するために充てがわれたと見て間違いない。
事実、三人は専属の女性と速攻で男女の関係になった。
三人の男たちは、自分に対しとても従順な態度を見せるその女性たちにデレデレになり、毎晩のように関係を続けていた。
「女の方はそういう関係にはなっていませんでしたが、見目麗しいイケメンが傅いているもんですから、まんざらでもない感じでしたよ」
水沢も、イケメンからチヤホヤされて、時折頬を赤らめていたしな。
玲奈はなぜか顔を顰めていたけど。
「ああ、それと、マイルズ王国の王女様が五人を気にかけて、よく激励に来たり、慰労のお茶会を開いたりしていましたね。まあ、それも王国に反抗をされないための策略だったんでしょうけど。専属の女性と男女の関係になっているはずの男たちが、王女様まで狙っている感じだったのは、見ていて引きましたね。それでよく俺のこと、浮気者だとか言えたもんだって」
俺がそう言うと、三人とも苦笑していた。
あれ、あんまりウケなかったな。
「俺が城を抜け出す前に見た状況はこんな感じですね。まあ、このあと城を出てあちこち迷いながら一週間くらいでここに来ましたから、あんまり状況は変わってないんじゃないですかね?」
そう言って報告を終わらせると、アナスタシアさんは微笑んだあと、俺に軽く頭を下げた。
「ケーゴさん、ありがとうございます。今話していただ状況によると、実戦投入できるまで一年くらいかかりそうですね」
「そこまで分かるものなんですね」
「まあ、普通は素人から訓練を始めて一年で実戦投入は常軌を逸したスケジュールですけど、召喚者ですからね。それくらいと見て間違いないでしょう」
「召喚者だから?」
「ええ。召喚をする、ということは別次元から次元の壁を超えてこの世界にやってくるわけです。その際に体が作り替えられるのか、召喚された人間は、この世界の人間よりも多くの魔力や基礎体力を身に付けると言われています。ケーゴさんは身に覚えがあるんじゃないですか?」
アナスタシアさんはそう言うと、俺に向かってニコッと笑った。
「そうですね。命が掛かっていたとはいえ、すぐに魔法は使えましたし。講義を盗み聞きしていただけで、他の属性も少しは使えるようになりました」
「それが召喚者です。まあ、魔法が使えるだけならケーゴさんのようにすぐ使えるようになりますが、戦闘となると話は別です。さっきケーゴさんがナイフも向けられたことがないと言っていましたよね?」
「はい。向けられたことも、向けたこともないです」
「そんな状況から、いくら魔法が使えて身体能力が上がっていても、すぐに戦闘などできません。その訓練期間、ということですね」
はえー、俺との会話からそこまで分かるのか。凄いな。
「とまあ、偉そうに言いましたが、これはあくまで推測。実際のところは、どうなんでしょうかねえ?」
アナスタシアさんは、そう言って窓の外を見た。
それは、マイルズ王国のある方角だった。
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