第7話 召喚の真の目的

「先ほど、私の魔法で人々を死に至らしめたとお話ししましたよね?」

「え、ええ」


 ええ……それって超黒歴史なんじゃ……自分で話しちゃうんだな。


「どうやら、私の魔法は人を死に至らしめるのではなく、寿命を操れるようになったようなのです。長くしたり、短くしたり」

「ああ。それで当時の人の寿命を無くしてしまったんですね」

「はい。その寿命の操作は他人だけでなくて私自身にも当てはまるようで。こう見えて、もう四百歳越えのお婆ちゃんなんですよ?」

「……」


 どう反応していいか分かんないよ。


 どう見ても二十歳そこそこにしか見えないもん。


「まあ、ここにいる奴は全員見た目と実年齢が違うやつばっかりだ。だから、あんま年齢のことは気にすんなよ」

「そうそう。アナスタシア様はあまり気にされていないようだけど、実年齢を言われることを嫌う人もいるからね」

「そうそう、コイツみたいになごふっ」


 あーあ、エルロンさんがスカーレットさんを弄るから、モロに肘鉄くらってるよ。


 ……突き刺すような肘だったな。


 ホントに魔法職か? この人。


「んんっ! 私の体はアナスタシア様に、常に二十歳を維持してもらっているから、間違ってもババアなんて呼ばないように」

「はいっ! 了解しました!」

「よろしい」


 まあ、スカーレットさんに言われるまでもなく、こんな若い見た目の人をお婆ちゃんなんてとても呼べないけどな。


 違和感ありすぎ。


 しかし、アナスタシアさんが人の寿命……命を操れる魔法が使えるとは。


「ああ、なるほど。そういうことか」

「ん? なにを納得したんだ? ケーゴ」

「いえ、今回の召喚の本当の目的ですよ」

「本当の目的?」

「ええ」

「なによ? アナスタシア様の討伐が目的なんじゃないの?」

「確かに城の教育係は、俺と一緒に召喚された人たちにはそう言っています。でも、どうやら別の目的もあるみたいなんですよ」

「……そりゃ、なんだ?」


 エルロンさんが剣呑な目つきで俺にそう訊ねる。


「なんか、今回の討伐が成功すれば不老不死の力が手に入るとか」

「「……」」

「あら」


 俺の言葉を聞いて、エルロンさんとスカーレットさんは、眉間に皺を寄せて厳しい顔をし、アナスタシアさんは困ったように頬に手を当てた。


「……権力者ってのは、いつの時代も醜いものだな」

「富と権力を手に入れたら、次は永遠の命を欲しがる。今も昔も変わらないわね」


 エルロンさんとスカーレットさんは、過去権力者に裏切られたことがあるからか、まるで汚い物の話をするように表情を歪めていた。


 しかし、アナスタシアさんは、困った、というか困惑した表情をしていた。


「うーん。私が寿命を操れることは知られていない筈なのだけど……微妙に話も違っているし、どうしてそんな風に伝わったのかしら?」


 アナスタシアさんは心底不思議そうにそう言った。


 確かに、寿命を操れるのはアナスタシアさん本人なのだから、殺してしまってはどうにもならない。


 なんでそんな話が伝わったんだろうか?


 この部屋にいる四人で考えてみるが、なにも答えは出ない。


 まあ、判断できる材料が揃ってないんだから、無理もないか。


 これ以上考えても無駄と、俺たちはそれ以上の考察を止めたのだが、エルロンさんは別のことを訊ねてきた。


「そういや、どこでその情報を手に入れたんだ?」


 ああ、そのことか。


「俺の情報収集は、まず召喚された人たちが受ける授業の盗み聞きから始まります」

「盗み聞き……まあいい、続けてくれ」

「それで、この世界のこととか、魔法の使い方などを習って、それが終わったら城内を隠れながら移動して、有用な情報がないか色んなところで聞き耳を立てていたんです」


 この授業のお陰で、魔法の使い方も分かったし、得意属性以外の魔法でも多少なら使えるということを知った。


 実に有意義な時間だった。


「そうして聞き耳を立てていると、こんな会話が聞こえてきたんです。『厄災の魔女を討伐すれば、永遠の命が手に入る。もうすぐだ』と」

「それで、真の目的を知ったのか」

「ええ。それで、召喚した人たちに本当のことを教えていないとなると、厄災の魔女の話もどこまで本当なのかな? って思いまして。それで、一度お会いしてみようと思ったんです」


 俺がそこまで言うと、三人とも、なぜか微妙な顔をしていた。


 なんだ? なにか、変な話をしたか?


 三人の様子に首を傾げていると、エルロンさんが頬を掻きながら質問してきた。


「えーっと、お前って学び舎の教室にいたときに、同じ教室にいた人間と一緒に召喚されてきたんだよな?」

「ええ、そうですよ」


 俺が肯定すると、エルロンさんはまた微妙な顔をした。


「それって、クライスメイト……友人なんじゃないのか? さっきから話を聞いていると、『召喚された人たち』って、すごく突き放した言い方をしていたから気になってな」


 エルロンさんの疑問を、俺は思わず鼻で笑ってしまった。


「はは。友人なんかじゃありませんよ。ただ、同じクラスの人間、というだけです」


 あんな奴らを友人だなんて、口が裂けても言いたくない。


 それが表情に出ていたのだろう、三人ともとても気遣わし気な表情に変わった。


「なあ、ケーゴ」

「はい」

「俺たちは、自分の黒歴史とも言うべき過去の話を教えたよな?」

「黒歴史……そうですね。とても重い話でした」

「それじゃあ、これは等価交換だ。お前の話も聞かせてくれないか?」

「俺の話?」

「ああ。どうして、そんな……憎しみを込めた瞳で、友人じゃないと言ったのか……」


 エルロンさんたちは、見た目は若いけど全員百歳以上で経験豊富な人たちばかりだ。


 年寄り扱いするなと言っていたけど、俺みたいな若造が憎しみを込めた目をしているのが気になるんだろう。


 まあ、確かにエルロンさんの言う通り、俺の話もしないとフェアじゃないよな。


「いいですよ」


 そうして俺は、地球にいた頃の話をし始めた。


 嵌められて、裏切られた過去の話を。


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