第3話 事情の説明

「事の起こりは、俺たちが学校……学び舎ですね。そこにいたときに突然教室が光って召喚されまして、俺以外にも数人こちらに召喚されてきました」


 俺がそう言うと、二人ともちょっと顔が歪んだ。


「問答無用だったのか……」

「……ホント、クソみたいな外法だわ」


 最初の説明で、今回の召喚が俺たちの意思を無視したものだということを理解してもらえたようだ。


「それで、この世界に来たんですけど、そのときに不思議なことが起こったんです」

「不思議なこと?」

「はい。さっき話したように、日本ではほぼ全ての人が黒髪です。なのに、こちらの世界に来た途端、さっきまで黒髪だった人たちの髪色が変わったんです」


 そう言うと、二人とも納得したように「ああ」と言葉を漏らした。


「この世界では、適正が強い魔法の色が髪色に現れるからな」

「異世界人にも、それは適用されたのね」

「そうみたいです。さっきまで黒髪だった人の髪色が、赤くなったり青くなったり黄色くなったりしたんです」

「「黄色!?」」


 二人は、黄色という単語に反応した。


「それは本当か!? 本当に黄色の髪色の者がいたのか!?」

「エルロンさんもそういう反応をするってことは、やっぱり希少なんですね」

「当たり前よ! 黄色は光属性。滅多に現れる属性じゃないのよ!」

「俺たちを召喚した人たちもそう言っていました。他にも白色になった人もいて、最初は無理矢理召喚されて憤っていたはずの人たちも、称賛されたら悪い気はしなくなったのか、文句を言う人はいなくなりました」

「……白までいたのか」

「聖属性……治癒魔法使いが現れたのね」

「なんか、すごく騒いでいたんですが、俺を見た途端固まりまして」


 そう言ったあと二人を見ると、とても辛そうな顔をしていた。


「黒髪だ! 黒髪が出た! と大騒ぎになりまして。急に俺だけ剣を向けられたんですよ」

「それは……」

「そう……怖かったでしょう?」


 その時の状況を話すと、二人とも同情した顔でそう言ってくれた。


「ええ。元の世界では争いごとがほとんどない国でしたからね。ナイフを向けられたこともないのに、いきなり大きな剣を向けられたんです。反射的に逃げました」

「そらそうだ」

「……それで、ここにいるってことは逃げ切れたのね? どうやって逃げ切ったの?」

「えっと、召喚に使われた部屋っていうのが狭い部屋だったので、出入り口にすぐ行けたんです。それで部屋の外に逃げました」

「それで、ここまで逃げてきたのか……大したもんだ」


 エルロンさんがそう言うが、それはちょっと正しくない。


「いえ。実はそのまま外に逃げ出したわけじゃないんです」

「どういうこと?」


 スカレーットさんの疑問に答えるため、部屋から逃げ出したあとのことを話した。


「突然異世界に拉致されて、そとの世界に出たって生きていけるわけないじゃないですか。なので、しばらくその建物……まあお城だったんですけど、そこに潜伏して情報収集をしてました」

「「潜伏!?」」


 暫く城に潜伏していたことを告げると、二人揃って立ち上がって叫んだ。


「追われているのに、城で!? なんて無謀なことをするんだ!」

「そもそも、どうやって潜伏なんてしてたのよっ!?」

「ああ、それは、こうやって、ですね」


 俺は二人の目の前で、この世界に来てから使えるようになった魔法を披露した。


「っ!? 消えた!?」

「ちょっ! どこに行ったの!?」


 突然目の前から消えた俺に驚いた二人は、キョロキョロと周囲を見回している。


「ここですよ」

「「うわっ!!」」


 俺が顔を出すと、二人は大袈裟なほど驚いていた。


「な、な、なんだそりゃ!?」

「なにって、影に隠れたんですよ。黒髪は闇属性なんですから」


 影から頭だけが出ている俺をみて、スカレーットさんは呆れた顔をした。


「影に隠れるって……闇属性って、そんなことできるの?」

「え? 知らないんですか?」


 影から全身を出しながらそう言うと、二人はバツが悪そうな顔をした。


「実は、私たちも闇属性についてはよく知らないのよ」

「そうだな……闇属性の人間は虐げられているから、闇魔法は全くと言っていいほど発展していない。どういう魔法が使えるのかも知られてないんだ」

「ああ、なるほど。そういうことですか。俺は、元の世界の知識で、こういうことができるんじゃないかな? と思って試してみたら上手くいった感じです」

「元の世界の知識……ケーゴの居た世界はこの世界より魔法が発展していたのね」

「いえ。むしろ魔法なんて存在してません。空想の産物でしたよ?」


 元の世界について説明すると、エルロンはまた驚愕した顔をした。


「魔法がない世界から来たのにすぐに魔法が使えるようになったのかよ!? しかも、俺らがどんな魔法が使えるのか分からない闇魔法で!」

「そういう創作作品が多くて、その知識ですね。魔法が使えるようになったのはまあ……必要に迫られてですね。なんせ、命が掛かってましたから」


 俺がそう言うと、また同情した視線を向けられた。


「そうか、殺されかけたんだもんな」

「そういう極限状況なら、すぐに魔法が使えるようになってもおかしくないわね。それで、影に隠れながら情報収集をしていたと?」

「そうです。この世界の常識も知らないし、そもそも召喚された理由も知らなかったので。今みたいに影に隠れながら色々と調べて、その理由も知りました」


 影に潜伏できることと、その状態のまま移動できることが分かってから、城の中を隅々まで調べた。


「へえ。それで、召喚された理由ってなんだったの?」


 スカレーットさんはそれが気になるようで、訊ねてきたのだが……これは、ちょっと言いにくいな。


 けど、言わないと俺がここにいる理由も説明できないので、正直に話すことにした。


「えっと、言いますけど……二人は怒ると思います」

「ん? そんな内容なのか?」

「ええ、まず間違いなく」

「気になるわね。早く言いなさい」

「……それじゃあ言います。俺たちを召喚した理由は……『厄災の魔女』を討伐することです」


 俺がそう言った途端、二人から信じられない程強い魔力が放たれた。


「ケーゴッ!! それは本当かっ!!」

「え、ええ」

「なんということっ!! 一刻も早くアナスタシア様にお知らせしないと!!」


 スカレーットさんはそう言うと、今いる建物から飛び出して行ってしまった。


 あまりの勢いに、俺はただ茫然と見送ることしかできなかった。


 そんな俺の肩をエルロンがポンと叩いた。


「ケーゴ、貴重な情報、感謝する」

「あ、いえ」

「それで、すまないがもう少しだけ付き合ってくれるか?」

「どこにです?」


 俺がそう言うと、エルロンはスカーレットが飛び出して行った先を見つめた。


「お前の言う厄災の魔女……アナスタシア様のところに、一緒に行ってもらう」


 どうやら、ここに着いて早速この集落のトップに会えるようだ。

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