決:朋美の戦い―間章2―

 意識の遠くでかすかに聞こえていたサイレンがどんどん大きくなっていくのを感じる。どうやらもうすぐ救護が来るようだ。朋美は覚醒しきらない頭でぼんやりとそれを理解する。

 両足が痛い。2階から落ちた時に捻ったのか、もしくは折れてしまったのか。

 腕が痛い。ガラスで切ったようだ。今もガラスに囲まれているためろくに動かすこともできない

 胸が痛い。さっきなぜ、菱也様の背中を押してしまったのか。行けば殺されるに違いない。鎌上はあの鬼麟をも殺した男、そんなことはわかりきっていたのに。

 先ほどの小次郎との戦いでは息を止めて操られたふりをしていたのだが、飛び降りるときに煙を吸ってしまったのか、今更眠たくなってきた。朋美は眠気を必死でこらえながら考える。


 でもなぜか、あの時の菱也は背中を押してあげたくなってしまった。


 ―私は鬼麟にはなれなかった。でも、だからこそ、私なりのやり方で菱也様を支える存在になりたい。例え、私に振り向かなくても―


 小次郎との戦いで得た決意と思い。菱也が傷つくことを恐れる気持ちもまぎれもない本心ではあったが、それ以上に大事にしたい思いが朋美にも芽生えてしまった。


 ―菱也様、後でうんと叱ってあげますから、だから、必ず帰ってきてくださいね―


 救急隊員の足音がこちらに迫りくるのを感じながら、朋美はゆっくりと瞳を閉じた。

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