決:朋美の戦い―間章1―

 その日、菱也がいつも通り登校すると、どこからその知らせを受け取ったのか急いだ様子で教室に小次郎がやってきた。

「ひ、菱也様!登校されて大丈夫なのでしょうか!?」

 心配そうに伺う小次郎。漸諫教の信徒である小次郎は当然父のことは知っているが、ニュースにもなっていたこともあり、彼らの周りの生徒たちもそ知らぬふりはしているものの、興味本位で聞き耳を立てている気配を菱屋は感じ取った。

「うん、まぁね。もう大体のことは済んだからさ、そろそろ出席しないとね」

 言葉少なに菱也はごまかす。小次郎は不満げな様子だったが、ちょうどその時ホームルームのために担任が教室に入ってきたため、

「私たちもできることがあれば何でも申し付けくださいね」という言葉と共に自分のクラスに退散していった。聞き耳を立てていたクラスメイト達も大した情報が得られなかったため、興味を失った様子で各々担任の話を聞いている。

 最初の授業に備えて菱也が机の中を整理していると、

 

 隣で何かがぶつかるような大きな音が聞こえた。気になってそちらを向くと、隣の女子生徒が机に突っ伏して寝ている。

「一時間目始まる前なのに…」

 気になった菱也がそっと肩を揺すろうと身を乗り出したその時、

 

「は…?」

 に背筋が凍る菱也。助けを求めようと担任を見るも、担任も教卓に倒れこんでしまっている。動転していた菱也の目に、青色の煙が目に飛び込んでくる。

「な、なんだ…これは…?」

 どこから来たのかわからない煙が徐々に周囲を取り囲んでいく様子に混乱し、周囲を何度も見回す菱也。その瞳が徐々に下りていく。

「…だ…駄目だ…もう、たって…」

 ずるずると自分の席に座り込むとゆっくりと目を閉じる。しばらくすると方がゆっくりと上下しだした。

 全員が眠りについて、しばらくした後、そっと教室後方の扉が開き、先ほど自分のクラスに戻ったはずの小次郎が教室に侵入してくる。

「全員沈黙、っと…」クラス中が眠りについていることを確認後、小次郎は椅子に座る菱也をじっと見る。


「待っててくださいよ、菱也様…僕が必ず、あの女狐から菱也様を取り戻して見せますからね…」


 そう言い残し、ゆっくりと教室を出ていく小次郎。背を向ける彼は気づかなかった。菱也の表情がことを。

「こじろう、くん…」絞り出すような、小さな声の後、教室は静寂に包まれたのであった。

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