決:朋美の戦いー前編ー

 朋子は急ぎ足で菱也の学校へ向かっていた。

「…菱也様!…菱也様!」

 彼女が足を急がせているのはわけがある。

 つい先ほど、彼女は鎌上に対し、千里眼を試してみた。を一刻も早く伝えるべく、彼にメールをすると返事が返ってこない。そこで嫌な予感がした彼女は放課後を待って急いで菱也の高校に向かっているというわけだ。千里眼を使うことも考えたが、なんとなく嫌な予感がした彼女は急いでこちらに向かっているというわけだ。


「…菱也様!…!!」


 漸く菱也の学校の前についた彼女。その目が驚きで見開かれる。明らかに校舎の様子がおかしかった。

 既に放課後で、帰宅する学生も多い時間帯のはずの校門が固く閉じられており、人っ子一人も見当たらない。校舎の周りのフェンスから中を見ることもできるが、帰宅する生徒はおろか、部活動にいそしんでいる生徒の姿も見当たらない。静まり返った校舎は人気ひとけが全く感じられなかった。

「…!」

 気になった朋美は電信柱の陰に隠れて千里眼で菱也の様子を見ると、さらに言葉を失った。


「「「…」」」

 

 

 彼らは全て、身じろぎ一つせず、机に突っ伏しているのが見える。その体はピクリとも動かない。

「う、嘘だ…まさか、菱也様…?」

 衝撃の情景を目の当たりにした朋美が呆然とした表情でフラフラと校舎に近づく。

「やめた方がええと思うで、朋美ちゃん」

 そんな朋美の背後から関西弁の男が話しかけてきた。振り向くと、

「う、兎狩さん…?」

 突然の出現に驚く朋美、記憶の中の彼は関西弁では話していなかったこともあり、ますます頭が混乱する。

「朋美ちゃん、多分今中に乗り込もうとしてるやろ?」混乱している朋美をよそに兎狩は話を続ける。

「朋美ちゃん、今菱也くんのこと見えるんやろ?もう一回、今度は周りにも注意して見てみ?」

 ポケットに手を突っ込み、タバコを咥える彼の言うことをそのまま受け入れ、朋美はもう一度千里眼を使用する。


「…?これは…なんですか?…


 もう一度、注意して見てみると、菱也が突っ伏している教室中に何やら青い煙のようなものがふわふわと蔓延しているのが見えた。視点をずらして色々と俯瞰した結果、どうやら校舎中に青い煙が漂っていることが分かった。

「校舎を覆っている煙…?あれは何なのでしょうか?」

 千里眼を終え、瞳を開いた朋美は困惑の表情で兎狩に聞く。

「まぁ、普通に考えたら憑き者の仕業やろうな。校舎丸々覆うほどの能力とは、恐ろしいもんや」

「そんな…では菱也様はもうずっとこのままなのでしょうか?これでは二週間後の選挙に間に合いません!」

「まぁ、このままだと菱也様はどうしようもないかもしれんなぁ」

「そんな…!」そういうと学校に向けて駆け出そうとする朋美。

「だから待てって、朋美ちゃん。だからって、ただそのまま行っても朋美ちゃんも犠牲になるだけやで?」冷静に兎狩が突っ込む。

「でも…!!私が何とかしなければ…!!このままでは菱也様が…!!」と兎狩に食って掛かる朋美に

「だから、ちょっと落ち着けって」朋美の目の前に掌を向けた兎狩が苦笑する。

「いいか、焦った時こそ落ち着くんや。憑き者相手の戦いはまずは落ち着くことから始まるんやで。相手はどんな超常現象をも振り回してくる可能性があるんやから、しっかり相手を見極めないと必ず負けてしまうで」

 兎狩の言葉を聞いた朋美が目を閉じ、三度ほど深呼吸する。次に目を開いたときは、焦りは幾分か消え、その瞳には意志の強さを漲らせていた。

「おぉ、それでええ」満足気に兎狩が頷く。

「次にやることはな、や」兎狩は朋美と目を合わせながら続ける。

「依代は確かに強力な力を持ってる、でもな、無尽蔵にその力を振るえるわけやない。その力を使うには、必ず発生条件を満たすか、もしくは維持するための条件を満たし続ける必要があるわけや」

「例えば朋美ちゃんの場合は、千里眼という強力な力を振るうためには、わけやろ?それと一緒や」

 ―この人、私の能力の弱点をたった一度見ただけで見抜いた…!?―

 朋美は内心冷や汗をかくも必死に表情に出さないようにしながら黙って兎狩を見つめている。

「今学校で起きている現象はおそらくその漂っている?っつーものが原因なんやろうな」兎狩は一人で頷くと、「ほら、あれを見てみぃ」と朋美に言いながら学校の方を指さした。

「…?」朋美もつられて素直にそちらをみると


「…あれは、青い煙が校舎の外に漏れている?」


 朋美のいう通り、窓が開いている―おそらく大きさからしてトイレだろう―部屋の中から青い煙が少しづつ漏れ出しているのが見える。煙は風にそよぐとすぐに見えなくなるが、徐々に漏れ出している量が濃くなっているのが見える。

「そう、そして、あの窓の下を千里眼で見てみ?」

 言われた通り千里眼を使用する朋美、すると

「…!!」小さな鳥が数羽、地面に転がっているのが見えた。たまに小さく身じろぎしているところを見ると、どうやら死んではいないようだ。

「鳥、見えたやろ?」兎狩の問いに頷く。

「つまりな、校舎を満たしたあの青い煙は徐々に校舎の外に漏れだしてきているってことや。その煙の射程距離はわからんが、このままだとこの地域一帯が覆われる可能性もあるってことや」

「そ、それでは…!」

「だからこそ、その能力の要、もしくは弱点を見つける必要があるってことや。考えてみ、菱也様たちと、あの鳥、煙に襲われた共通点はなんやと思う?」

「……」考え込む朋美、しばらくするとハッと気づいたように顔を上げる。

「あの鳥たちも、菱也様も、どちらもあの青い煙の発生箇所の近くにいました!もしかして鍵はでは!?」

「どうやら分かったようやね」朋美の回答に兎狩は頷き、右手で丸を作る。

「私、急いでどこかからマスク探してきます!」そういうと今度こそ、駆け出していく朋美、しばらくすると

「こ…これで…いいですよね…」兎狩の前で膝をつき、息も切れ切れな彼女の手には軍隊でつかわれていてもおかしくないほどしっかりとした作りで顔全体を覆うガスマスクのようなものが握られていた。

「そ、そんなもん…この短時間の間にどうやって手に入れたんや…?」少女とは最も縁遠いといってもさほど違和感のない物体を握りしめる彼女に向かい、若干引き気味の様子で兎狩は問いかける。それに朋美は満面の笑みで


「愛は万能♪なんですのよ?」


 と言い放つのであった。


  ※※


 ガスマスクを装着した朋美は校内に足を踏み入れる。自分の予想が本当に正しいか少し不安であったが、青い煙の中でも気を失ったりしないところを見ると、どうやら間違ってはいないようだった。

 ―え、ええか…君が何をしなければいけないのか、よーく考えて動きや…―

 別れの瞬間、なぜかどことなく引いていた様子の兎狩の言葉を思い出しながら下駄箱から廊下に出た。朋美は菱也の高校の校舎に入るのは初めてであったが、その足どりに迷いはない。突入前に千里眼で菱也のクラスへの道順は把握済みだ。静かに、それでいてなるべく早く進む。

 菱也の教室は2階のため、下駄箱を出て角を曲がり、そのまま直進したところにあった階段を上がろうとしたその時

「…!」

 朋美の足がピタリと止まる。その耳はガスマスク越しに2階からこちらに向かってくる足音を捉えていた。

「…」

 ゆっくりと階段を降りると、階段の脇に身を潜める。そして千里眼を使おうとした瞬間。

「来なければよかったのに…危険は勇気では乗り越えられない。お前は

「…この声…!!」

 朋美は殆ど知らない人だらけのはずのこの場であるにも関わらず、耳に飛び込む声は妙に馴染みがあり、驚いた朋美は思わず階段へ身を踊り出す。


「そして…お前のせいで若様は…


 朋美の視線の先、2階へとつながる階段の踊り場では、香峰小次郎がその瞳から涙を流し、静かに朋美を見つめていた。

「あんた…確かいつも菱也様の周りでウロウロしてる…」

「あぁ、そうだ。私はこの学校で菱也様を監視していた」

 朋美の声に静かに答える小次郎。その様子に朋美は眉を顰める。

「監視…?犬みたいに菱也の後をついていただけじゃない!それにその話し方…本当にあんた、あたしと話していたなの?」

「お前が知る必要はない。お前はこれから私の操り人形になるのだから」

 そういう小次郎の背後から煙が漏れ出す。周囲の青い煙の中、明らかに別の色を放つそれはゆっくりと階段の下へとその手を伸ばす。

「なに、それ…」

か?まあ見せた方が早いだろう」

 小次郎はそういうと指を鳴らす。そうすると階段の上からゆっくりと足音が聞こえる。その音は少しずつ増えていき、音がやむころには10人ほどの生徒たちが小太郎の背後に並んでいた。ガスマスク越しによく見えないが、彼らは言葉を話すことなく、目を閉じていることがわかる。

「ここにお前も加わるんだ、わかるだろ?」

 その言葉を聞いた途端背を向け、全力で逃走を図る朋美の背を指さし、

「捕まえて、僕のもとに連れてくるんだ。けがをしていても構わない」

 一斉に朋美に向けて駆け出す背後の生徒に背を向け、小次郎はゆっくりと階段を昇りだした。


  ※※


 朋美は廊下をひた走る。小次郎に命じられた生徒たちはどうやら身体能力までは変わらないのか、朋美の足の方が速く、背後の足音は徐々に小さくなっていった。

「…さてと」

 足音がほとんど聞こえなくなったくらいで朋美は足を止め、近くの扉を開き、中へ入るとそこで一息ついた。どうやら朋美が入った場所は授業の準備室として使われている教室らしい。机や椅子が隅におかれており、教室の中間には広いスペースが空いている。

 朋美は机の方へ向かうと腰掛け、周囲の音を探る。音が出ないことを確認すると、千里眼を使用した。

「…」

 小次郎は菱也の教室の入り口の前に佇んでいる。周囲の確認をしながら何度か確認したが、そこから動こうとする様子は見受けられなかった。

 千里眼をやめた朋美は考える。小次郎の力は相手の気を失わせる能力だと思っていたが、どうやら相手を操る力も持っているようだ。操られているのが、朋美と同年代の学生というのが唯一の救いである。菱也のボディーガードとして鍛錬を積んでいる朋美にとって、囲まれない限り、大した敵ではなさそうだ。

「あとはどうやって小次郎を倒し、菱也様のところに近づくか…ね」

 教室内をぐるりと見渡す朋美はそこでふと気づく。先ほどとは全く変わらない教室、だが、。注意深く耳をそばだてる朋美。すると


 ドンッ!!ドンッ!


 という音が扉から聞こえる。朋美がゆっくりと後ずさった直後


 ッドォォォォォン!


 と耳をふさぎたくなるような音と共に、扉が教室内へと吹き飛び、先ほど朋美を追いかけてきた生徒たちが教室内になだれ込んできた。

「な、なんで場所が…!?」

 慌てる朋美の瞳がさらに驚きで見開かれる。先ほどは朋美を追いかけていただけの生徒たちはいつの間にか各々の手に消火器やカッターなどを携えていた。

 生徒たちは朋美の方に振り向くと、ゆっくりと手に持った武器を向ける。数舜の後

「っ!」一斉に襲ってくる彼らに向け、朋美は背後の椅子を後ろでに引っ張り出すと、両手でその椅子の足を一本ずつ持ち、前に構えた。椅子の背もたれで向かってくる生徒の胸を思いっきり突く、するとその衝撃で相手は吹き飛び、手に持っていた凶器を次々と落としていく。残りは消火器を持つ男子生徒のみとなった。消火器を振り回す彼に向けて椅子を構えるも、背もたれの部分に彼の振り回す消火器が当たってしまい、その衝撃で思わず椅子を取り落としてしまう。痺れる手を押さえ、前傾姿勢になった朋美に向けて消火器が振り上げられる。そして振り下ろされようとする刹那、


「ちょっと痛いけど我慢しなさいね!」


 朋美が男子生徒に向かって飛び掛かると、その腕を両手で抱え、振り下ろされる消火器の勢いに合わせて、思いっきり背負い投げた。

 ガシャァァァン!という大きな音と共にガラスが割れ、男子生徒の体が外に放り出される。1メートルほど吹き飛んだ彼は地面にのびてしまった。

 10名ほどの生徒たちの襲撃を傷一つなく退けた朋美は両手を軽くたたき、ほこりを払うと教室内を見渡す。武器を取り落とした生徒たちはどうやら気絶したのか、能力が解除されたのか分からないが、呼吸はしているが意識が戻る様子はない。

「う、うぅん…」教室内に転がる面々の武器を回収している朋美の背後で声が聞こえる。弾かれたように振り返る朋美の目に先ほど放り投げた男子生徒がもぞもぞと動く姿が映る。痛みで身をよじっているように見えるその男子生徒に慎重に近づくと、ちょうど意識を取り戻した男子生徒と目が合った。

「「…」」しばらくの沈黙ののち、

「どわぁぁぁ!!……いつっ!」大きな声を上げ、男子生徒が飛び上がるも転がったときに痛めてしまったのか、脇腹に手を当てている。

「ちょっと!なんですかその顔!?制服着たテロリスト!?」大きな声に飛び退った朋美に向けて男子生徒が捲し立てる。その彼の言葉に朋美は自分の今の格好を思い出す。

「いや、落ち着いて?私はこの学校の前を通りすがった時に何か様子がおかしいとおもって、気になって忍び込んでいただけよ。怪しいものじゃないわ」

「いや、おかしいのも怪しいのも君だと思うけど…」

 彼はため息をつく。朋美と会話している間に少し落ちついたようだ。ゆっくりと周囲の確認を始めると、

「…!!え、え、あれっ?もう夕方5時?だって、さっきホームルーム終わったばっかなのに…!?」周囲の光景と腕時計を見ながら何やら騒ぎ出した。

「友達と校門で待ち合わせしてたのに、人っ子一人見当たらないし、校門も空いてないからおかしいな、とおもって忍び込んだのよ。そしたらあいつらと一緒にあんたが襲ってきたのよ」

 親指で背後を示す朋美の指の先を見て、驚きの声を上げる男子生徒。その顔は自分がさっきまでなにをしていたのか全く覚えていないようだ。

「いや、だってそんなマスクつけた女の人なんか襲うわけないだろ…何されるか分からないよ…」

「まぁそれは余裕で対処できたからどうでもいいわ。それよりも今日なんかおかしなことなかった?さっき目覚めたその前までで何か覚えていることとかない?」

「うーん…」朋美の問いに男子生徒は腕を組む。

「何でもいいから覚えていたら教えてちょうだい。こっちはたとえどんな些細な手がかりでも喉から手が出るほど欲しいのよ」と朋美は畳みかける。

「…といわれてもなぁ…」男子生徒の反応は芳しくない。それでも朋美が辛抱強く待っていると、

「確か…目の前に煙が見えた気がするなぁ…」

「ん?黄色?青色じゃなくて?」いぶかしげに眉を顰め、聞き返す朋美に対し、

「青色…?いや、僕が見たときは黄色だったと思うけどなぁ、薄くてしっかり見たわけじゃないけど」

「そう…」

 考える朋美。それをよそに

「じ、じゃあ、僕はこれで」

 おどおどした声で男子生徒がゆっくりと後ずさっていく。

「いや、教室には戻らない方がいいわよ…」朋美の声よりも先に男子生徒の足が先ほど放り出された教室に踏み入れる。と同時に

「なに、を、いっ…」

 ドサッ、という音と共に男子生徒が膝から倒れこむ、その後は他の倒れている生徒たちと同じように全く動く様子を見せなかった。

「…」その様子を見て、再び何か考える様子を見せる朋美。ガスマスク越しの呼吸音の身が響き渡ることしばらくの後、朋美はゆっくりと自分が割った窓から教室に入り直すと、先ほど逃げだした方向へと歩き出した。


  ※※


 階段を昇り、2階の菱也の教室へ向かう朋美。教室の前までたどり着くと、小次郎は先ほど千里眼で見た時と寸分たがわず同じ場所で静かに佇んでいた。

「さっきあんたにけしかけられた奴、簡単に倒せちゃったわよ?これで終わりなの?」挑発したように声をかける朋美に対し小次郎は微動だにしない。

「どうしたの?あんたのほうから来ないならこっちから行くわよ?」構える朋美。

「無駄だ。ここに来たところで、君はもう」 

 そういうと小次郎は教室の中に入っていった。逃さず後を追いかけ、教室の中に入った朋美は驚きで声を失う。

 その中には菱也以外の30人近い数の生徒たちがゆらゆらと立ち尽くしている。小次郎はゆっくりとその集団の中へ歩いていくと、唯一机に突っ伏したままの菱也の机に腰を下ろした。

「さぁ、今度は菱也様のクラスメート相手に君がどこまでやれるのか、見させてもらおう」

 小次郎の声を皮切りに、一斉に生徒たちが朋美へと襲い掛かった。


「ふん、偉そうなこと言って、結局同じ手じゃない。いいかげん、あきらめろ、っての!」

「さて、それはどうだろうね」

 雪崩のように押し寄せてくる生徒たちに対し、教室の扉を背に、啖呵を切る朋美。そんな朋美に対し、小次郎はゆっくりとその手を菱也に伸ばす。

「!?あんた!なにやってんのよ!?」思わず叫ぶ朋美。目の前の生徒たちに集中しようとするものの、小次郎の方が気になってしまい、生徒たちの攻撃を避けるので精いっぱいだ。

「こうすれば君も反撃できないだろう?勘違いするなよ?僕だって菱也様をこんなことに利用するのは心が痛いんだ」

「卑怯者が、ふざけたことを言うじゃない…!!」朋美は何とか言葉を返すので精いっぱいの様子で、その足はじりじりと教室の隅へ追い詰められていく。


「君が悪いんだ。菱也様が変わってしまったのも、鎌上様と敵対する道を選んだのも、全部君のせいだ!」


 朋美の声をかき消す勢いで叫び出す小次郎。その目はただひたすら憎しみの身を乗せて朋美を貫いている。

「僕はずっと菱也様のことを見てきた!中学生までの菱也様は、僕たち漸諫教の信徒だろうと分け隔てなく優しく接していた。そんな菱也様と話す時間は僕にとって本当の癒しだった。それを!お前が!」そういうと人差し指でびしりと朋美を指し、

「お前が変えてしまった!お前と出会った頃から菱也様を避けるようになった!お前が僕たちに会わないようにとか言ったんだろう!!喧嘩を売られても反撃もしなかった菱也様が後継者に立候補したのもお前のせいなんだろう!?」顔を真っ赤にし捲し立てる小次郎はそこでぴたりと動きを止め、息を整えた。

「…だから、僕はでお前を菱也様の前から消すことにした。そのためなら菱也様だって利用してみせる。それが僕の『覚悟』ってやつだ」小次郎はそういうと、周りの生徒たちに顎をしゃくる。その合図を受け、それまで朋美に襲い掛かっては投げ飛ばされていた生徒たちはゆっくりと起き上がり、遠巻きに朋美を囲んだ。

「君の意志は僕が引き継ぐから、菱也様のことは安心して任せてくれ」最後ににっこりと微笑みかけた小次郎がそういった直後、囲んでいた生徒たちが一斉に朋美に襲い掛かった。



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