第29話 神のみぞ知る

「雷神」


「なに?」


「確かに私は悪いことをした。だけどこれはに?」


 風奏の神パワーによってリア達は完全回復(メンタルを含め)したので、回復中に私はとあるものを作成した。


 それはみんな大好き『私は悪いことをしました』の首下げ看板だ。


「似合ってるよ」


「絶対馬鹿にしてるでしょ」


「別にしてないよ。可愛いと言ってもいい」


「ならいいけど」


(ちょろいな)


「今ちょろいって思ったでしょ」


 風奏にジト目で睨まれるが、認めたら負けなので無視をする。


「なんか風奏ちゃんとカミちゃん、仲良くなってない?」


「なってないけど?」


「そんなストレートに言うなし。確かに私は嫌われて当然なことをしたけどさ……」


 風奏がどんどん小さくなる。


 少し意地悪がすぎたようだ。


「私としてはリア達が許すならそれでいいんだけどね」


「許すも何も、風奏ちゃんが先導した訳でもないでしょ?」


「いつかは来てたのを風奏がまとめただけなんだから、私達が風奏を恨むとかないでしょ?」


「私はむしろスッキリして感謝してるぐらいです」


 どうやら風奏を恨んでるということはないようだ。


 それなら私が風奏を嫌うことはない。


「今までは風奏に対してドライじゃなかった?」


「おいやめろ。本当に私が地球人で地上人で生きてる人間が嫌いなだけな奴になるだろ」


「いやもうそうでしょ。むしろ何が違うの?」


「……よくよく考えたら別にいいのか」


 なんか流れで否定したけど、別に否定する必要がなかった。


 私は私と違う存在を愛する者というだけの話だ。


「そう考えると、カミさんが私達と出会えたのって運命なんですかね?」


「おいおい、そんなこと言ったら勘違いしてあげちゃうぞ」


 私はそう言ってユメを抱きしめる。


「それなんだけどね」


「私今お楽しみ中だから後にして」


「どさくさに紛れて服の中に手を入れないでくだ、さい!」


 ユメの服の中に手を入れて背中をさわさわしてたら、ユメに耳たぶを食べられた。


「わらひらっへ、はんれひふるんれふはられ」


「ユメ、それは私の理性を壊したいという意味でいいのだな?」


「結構マジな話だから聞いて欲しいんだけど……」


 風奏が困った顔で言うので、仕方なく私はユメを離す。


「私とユメの営みを止めるだけの話じゃなかったら、後でやる解体ショーが激しくなるからね?」


「ほんとにやるんだ。どう思うかはみんな次第だから、もしもそれだけの話だと思わなかったら甘んじて受けるよ」


「楽しみにしてる」


 風奏から何故か呆れたようなジト目を向けられるが、まぁそれはいい。


 話を聞いたらお楽しみの続きだ。


「まぁいいや。まずなんだけどね、私が下界に降りてきたのはとある目的があったからなの」


「もくてきぃ?」


 私は足の裏をくっつけて、ふりこのように体をぶらぶらさせながら聞く。


「私さ、神様歴がそんなに長くないんだよ。だけど、既に飽きちゃって、やることと言えば下界を見ることだけだったの」


「神様って結構変わるの?」


「千年に一人だね。だから私は新人の神様なの」


 いつから千年なのかも、神様からした新人の感覚も分からないけど、おそらく私達と同じ感性で言っているのだろう。


「変わった神様ってどうなるの?」


「新しい神候補をここで探して入れ替わる」


「つまり、そういうこと?」


「うん、私はこの体の持ち主と入れ替わった。入れ替わった後でも神の力は一応少しなら使えるんだ」


 任期である千年を放り出してまで下界でやりたいことがなんなのか。


 風奏にはそれだけ魅力的なものが下界に存在すると言うのか。


「日南 凪は喜んでたよ。何せ本当だったら死んでたんだから」


「転生したら神でしたって?」


「そうなるね。あの子、学校からの帰り道で事故に遭って死にそうだったのを私の力で助けたの。その次いでに体を入れ替えた」


「そんな理由で神って決めていいの?」


「私も死にそうだったから神に選ばれたからね。正直なところ、神って何もしないから。気まぐれで神の恩恵って言うのかな? を授けるだけで」


 確かに神という存在は何かしてくれるイメージがない。


 神頼みをしても、それは神が願いを叶えてくれた訳ではなく、自分の力だ。


「雷神がいい例だよね」


「どゆこと?」


「ギフテッド?」


 静かに話を聞いていたチカが私に視線を向けながら言う。


 そういえば前にそんなことを話したような気がする。


「そうだね。雷神の『読心術』と『力』は神の恩恵だと思う」


「『嘘泣き』は?」


「それは知らない」


 おかしい。あれが一番私らしくなくて、神に押し付けられたものなはずなのに。


「とにかく、神様ってのはそれぐらいのことしかしてないの。最初は寿命長くていいじゃんとか思ったけど、退屈だし、何より……」


 風奏が私を上目遣いで見てくる。


「なに?」


「えっとね、私が下界に来た理由なんだけど。……なの」


「なんて?」


 風奏の声が小さすぎて何も聞こえなかった。


「ら、雷神に会いたかったからなの!」


「お、おう」


 今度は大きすぎてびっくりした。


 内容にもびっくりしたけど。


「私に会ってどうするつもりだったのさ。お金ならあげないよ?」


 正直お金は有り余っているけど、もしもの時の為に取っておきたいから無闇にあげることはしたくない。


「神様だった私がなんでお金をたかりに下界に来るのさ。ひ、一目惚れしたの」


「誰に?」


「だから雷神に!」


「まさか神様に好かれるとは」


 神様が元は人間ということなら、そういうのも有り得るのだろうけど、まさか私を好いた初めての相手が神様だとは。


「私が同種を好きになれないように、私を好いてくれるのも他種なのか」


「え、カミちゃん男の子から大人気じゃん」


「そうですよね?」


 リアとユメが意味の分からないことを言い出した。


「雷神は気づいてない、というか興味がないんだろうけど、雷神って知らぬ間に告白されて、知らぬ間に断ってるんだよ?」


「何を意味の分からないことを」


「下駄箱に入ってた手紙を教室のゴミ箱に捨てたことあるでしょ?」


「あるね。でも前にリア達から手紙貰った時は知らない感じだったじゃん」


「だって意識したら考えちゃうでしょ? 私は雷神には男なんて知らないでいて欲しいから」


 とんでもない独占欲をぶつけられるが、私としても男に興味がないから別にいい。


「それはそれとして、もしかして名前は私のに合わせたの?」


「うん。神前 雷莉らいりなら雷神だって思って、なら私は風神になろうって意味を込めて神井 風奏ふうかにした」


「無駄に隠してたのにあっさり私の名前をばらすんじゃないよ」


 未だに特に意味はなくリアとチカに名前を教えてはいなかった。


 タイミングを逃していたからちょうど良かったとも言えるけど。


「雷莉ちゃん?」


「名前で呼ばれるのそんなに好きじゃないんよ、むず痒いから」


「雷莉」


「喧嘩売ったな? 今日泊まってけ、寝かさないから」


 この後は風奏に色んなことをする予定で、その後はチカとなると少し大変だけど、そんな楽しそうな大変ならばっちこいだ。


「さっきのかくれんぼで勝ったらお願いしようと思ってたこと言っていい?」


「いいよ? 叶えるかは分からないけど」


「うん、とりあえず聞いて欲しいだけだから」


 風奏の顔が真剣なので、チカを揉みしだこうとした手を引っ込める。


「えと、あのね……」


「うん」


「わ、私と付き合ってください!」


 風奏が頭を下げながら右手を私に出してきた。


 まさかのガチ告白。


 漫画やアニメでしか見た事のない光景に固まってしまう。


「「「だめ!」」」


 そんな私を三方向から温もりが包んだ。


「カミちゃんとは私がもっと仲良くなるの!」


「カミと私は既に永遠を誓いあってるから他の人が割り込む隙間ないから」


「か、カミさんが誰かのものになるのは嫌です!」


 リアとチカとユメが風奏を睨む。


「……私、愛され過ぎでは?」


「それが雷神の魅力だよ。それで誰を選ぶのかな? ちなみに神である私は基本的に何でも出来るけど、フラれたショックから立ち直る手段は知らないから泣くかも」


「風奏ちゃんのそれずるい」


「重い女は嫌われるよ」


「カミさん。私も一緒に居られないと泣いちゃいます……」


「おいそこの。どさくさ紛れに何言ってる」


 風奏が目をうるつかせてるユメにつっかかる。


「教えたのはあんたでしょ」


「なんだかんだで最初の女に帰ってくるかなって思ったから」


「最初の女でもないし」


「それより誰を選ぶの!」


 そろそろはぐらかしが効かなくなってきた。


 誰かを選べと言われても困る。


 私にとってはみんな大切なのだから。


「んー、じゃあ私からキスを奪い取った人にする?」


「それは雷神を押し倒して無理やり唇を奪っていいってこと!?」


 風奏が興奮気味に私ににじり寄る。


「違うよ。私からのキスを奪い取るの。その気にさせた人の勝ち」


 正直に言うと私は恋愛経験皆無だから、誰が一番好きとかが分からない。


 今はみんなが一律で大切だ。


「やる」


「リア達もそれでいい?」


「うん。カミちゃんのことその気にさせる」


 リアが両手をグッと握りながらそう言う。


「カミは結局私の体に負けるんだよ」


 チカが余裕の笑みを浮かべながら私を見つめる。


「失礼します」


 ユメはそう言うと私の唇にキスをした。


「「「何してる!!!!!」」」


「え? だってカミさんからキスをされた人が勝ちなだけで、こっちがしたら駄目なルールは無いですよね?」


 確かにその通りだし、これで一番ユメを意識する。


 だけど……。


「全員を敵に回したぞ」


「まさかユメちゃんがそんなにエッチな子だったなんて」


「私も次いでに──」


「「させないから!」」


 チカがどさくさ紛れにキスをしようとしたのを風奏とリアが押さえ込む。


「なんだか忙しそうなので、ベッドで待ってましょ」


「……ひゃい」


 ユメの顔を見ると、どうしても唇に目が行って恥ずかしくなり声が上擦った。


 そんな私を見たユメが「我慢出来ないですよ」と言って私をベッドに押し倒した。


 もうなんか、記憶はないけどとても気持ちよかったです。


 その後、風奏やリア、チカもやって来たけど、完全に意識が飛んだので、何をしてたのかは神のみぞ知るだ。

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私の平穏な日常が終わった件について とりあえず 鳴 @naru539

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