第28話 終結と集結

「まずはここからか」


 風奏とのかくれんぼが開始されて一番最初に訪れた場所はお化け屋敷だ。


 理由は単純。なんか風奏の格好がお化け屋敷に居てもなんら遜色なさそうだったから。


『理由が酷い気がした』


「『こいつ、頭に直接話かけて!』が実際に起こるとは思わなかった」


『終始真顔でありがとう。ただ探すんじゃ暇だろうし、話し相手になるよ』


「なるほど。つまりここには居ないと」


 そんなに堂々と話しかけてくるのだから、ここには居ないのだろう。


 裏を読んで居るのかもしれないけど、可能性は低そうだ。


『いいの? もしも私がここに居たら無駄になるよ?』


「ん? 別に中を見ないとは言ってない」


 私はそう言って人生初めてのお化け屋敷に突入した。


「暗い」


『お化け屋敷に入って一番言わなくていい感想をありがとう』


「じゃあ意外と寒い?」


『お化け屋敷初めてなのは分かった。ちなみに雷神は怖いの駄目とかいうギャップある?』


「それはつまり私はお化けなんて怖いとか思わないと思われてるということか?」


『怖いの?』


 なんだか煽られているけど、後で会ったらお仕置きするから今は耐える。


「見たこともないものを怖がっても仕方なくない? 一緒にしていいのか分からないけど、ユメだって幽霊な訳なんだし」


『じゃあ雷神って怖いものある?』


「前までは無いって即断出来たけど、今だと死ぬのが少し怖いかな」


『本物の幽霊を見たから?』


「違う。みんなと別れたくないんだよ」


 今までの私なら考えもしなかったであろうことだ。誰かと離れたくないなんて。


「神井さんは怖いものあるの?」


『あるよ。雷神には絶対に教えないけど』


「理不尽な」


 まぁ最初に私が話したら風奏も話せなんて言ってないのだから別にいいのだけど。


「ていうかこのお化け屋敷ハリボテかよ」


 お墓なんかはあるけど、お化けが出てくる様子がない。


『人件費削減の為、形と雰囲気だけで作ってみました』


「楽しみにしてたのに」


『なんかごめん。今度一緒に行く?』


「二人で?」


『二人で』


「考えとく」


 肩透かしを食らったせいで、お化け屋敷が気になってしまった。


 どうせならリア達も誘いたいけど、風奏が二人きりがいいと言うなら二人で行くのも悪くはない。


『約束だかんね』


「初めての本物の遊園地だ」


『私が初めての相手!』


「一緒に行くって意味ならそうだね」


 一緒にお出かけならリア達と散々している。


 だけど遊園地なんかの施設に行くのは初めてだ。


『私ねー、遊園地のアトラクション全部乗ってみたいんだー』


「私は行ったことないから分からないけど、並ぶせいで時間足らないんでしょ?」


『私は神だよ? この世界ならいくらでも自分の思い通りになるのさ』


こすいな」


 とんだ職権乱用だ。


 私も楽は出来るけど、なんだかそれは嫌だ。


「話して時間を潰すのも醍醐味なんでしょ?」


『そうだけど、じゃあお金で解決する?』


「あぁ、ゲームの課金みたいに列を飛ばすチケットが買えるんだっけ? 金はあるが、無駄遣いは好かないぞ」


『酷い! 私との時間を無駄だなんて……』


 明らかに冗談めいた声が聞こえてくる。


「むしろ一緒に居る時間が増えるでしょ」


『……それもそっか。それに全部回れなかったらまた来る口実になるか』


 話で時間が潰せる相手とだけ使える口実。


 話したいけど内容が思い浮かばないと、行列は苦行の時間と変わる。


 だからその手は話せる相手としか使えない手だ。


「メリーゴーランドも動かず」


 話しながらお化け屋敷を出た私は、次にメリーゴーランドにやってきた。


 こちらもハリボテのようで、馬にまたがってみたけど動かない。


『いや、ほんとにごめん。電力ならぬ、神力削減で……』


「別にいいけどね」


 ちょっと残念に思いながら他のアトラクションに向かう。


「神井さんって好きなアトラクションあるの?」


『だいたい全部好きだよ。ただ一番最後に乗るのだけは決めてるんだ。乗ったことはないけど』


「観覧車?」


『絶対想像通りでバカにした!』


「別にしてないよ。最後と言えば観覧車だもんね」


 イメージでしか知らないが、遊園地のラストは観覧車に乗るのが一般的とは聞く。


 なんでかは知らなけど。


「そういえば全然違う話するけどいい?」


『なに?』


「神井 風奏ってどっちの名前?」


 風奏(神)が風奏(人間)に憑依したのなら、どちらかは神井 風奏ではないことになる。


 神の風奏が人間の風奏の名前を名乗っているのか、神の風奏が名付けたのが神井 風奏なのか。


 ゲシュタルト崩壊しそうになる。


『私の、えっと神の方の私が名付けた名前だね。元の子の名前は確か日南ひなみ なぎだったかな?』


「可愛い名前。ちなみになんで神井 風奏にしたの?」


『おしえなーい』


 別にいい。後で言いたくなるように調教してやるから。


『それよりあの三人やばそうだよ』


「……」


 風奏が言うのでモニターを見ると、リアが魔法少女の前に膝をつき、リアは見張りの子の前で左肩を押さえながら息を切らし、ユメは母親を前に頭を抱えてうずくまっている。


『あっちの勝ち負けは関係ないけど、終わったらこっちも終わりだからね?』


「熱血はキャラじゃないんだけどな」


『何言ってる──』


「リア! チカ! ユメ! 頑張れ!」


 私は大声できっと聞こえるはずもない三人に向かって叫ぶ。


 たとえ聞こえたところで私の声に力はないけど、叫ばずにはいられなかった。


『びっくりした。でも無駄だよ。雷神の声は届かな……』


「そうでもないみたいだね」


 リア達の雰囲気が変わった。


 絶望から希望の瞳に変わる。


 おそらく声が届いた訳ではない。


 だけど想いは届いた。


「空間を分けた程度じゃ私達の愛を拒めないってことかな」


『……』


「こっちもそろそろ終わりにしようか」


『どうせ見つけられないよ。たとえあの三人が勝ったとしても、時間は残り少ない。探せるのは後一つぐらいだからね』


「十分だね。神井さんが逃げなければだけど」


 最後の最後で瞬間移動なんかされたら私に勝ち目はない。


『最初に言った通りに雷神のスペックに合わせるから瞬間移動とかはしないよ』


 それが聞ければ十分だ。


「本体を降ろす準備しといてね」


『そういうのは勝ってから……』


「みっけ」


「……なんで分かったの?」


 私は風奏を見つけた。場所は最初にやって来たお化け屋敷のお墓の中だ。


「そもそもさ、遊園地でかくれんぼするならお化け屋敷か観覧車しかなくない?」


 他のお化け屋敷がどうなのかは知らないけど、少なくともこの遊園地には隠れられそうなアトラクションはそれしかない。


 コーヒーカップなんかもあるけど、あれは一目で人が居るか居ないかは分かるし。


「じゃあなんで観覧車は見に行かなかったの?」


「だって絶対にないから」


「どうして? 私は観覧車に乗りたがってたじゃん」


「だからだよ」


 観覧車に乗りたいって話をしたから選ばなかった訳ではない。


 いや、そうなのだけど、少し違う。


「だって本物にしかも一番最後に乗りたいんでしょ? あれが動くかは知らないけど、ハリボテで初めては迎えたくないかなって」


 今までのアトラクションが動かなかっただけで、あの観覧車だけは動くかもしれない。


 だけどそれは風奏の求めていた最後の観覧車とは少し違う。


「変なプライドなんて捨てて、観覧車に行けば良かったかな」


「そしたらもっと簡単に見つけられてたよ」


「え?」


「絶対に残念がるでしょ?」


「……ばか」


 可愛い罵倒と共に風奏がお墓から出てきた。


「さて、私が勝ったから本体を脱がさせろ」


「いくら暗がりだからってエッチすぎない? それと、この体にやっていいよ」


「倫理的にどうなの?」


 中身は風奏だけど、外見は日南さんという女の子だ。


 そんな体においたをしたらバチが当たりそうだ。


「まとめて全部話すよ。あっちも終わったみたいだし」


 風奏が入口の方に視線を向けるので、二人で外に出ると、モニターには三人がピースサインを向けているのが映し出されていた。


「良かった」


「怪我はみんな治すから。話はそれからね」


「おけ。神井さんの解体ショーもその後ね」


「……いや、約束だから受けるけどね!」


 何故か逆ギレされたけど、全部解決したから良しとする。


 そうして私達は私の部屋に再集結したのだった。

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