第27話 遊園地でかくれんぼ

「まず何から聞く? あ、スリーサイズは上から──」


「あなたは誰?」


 照れながら自分の胸を押さえながら身体をくねらせる風奏ふうかを無視して本題に入る。


「私は神井 風奏。あだ名は風神。雷神であるあなたの無二の相棒だよ」


「聞き方を変える。あなたの本当はなに?」


「……」


 さすがに風奏をただの人間と見るのは無理だ。


 今いるこの空間を創って、ここに飛ばしたのはさっきの魔法少女なのだろうけど、それを指示したのは風奏だ。


 それだけでなく、チカとユメの知り合いを結託させたのも風奏。


 風奏は私が三人の正体を暴いた時に一緒に居たから、正体は知っている。


 だけど、だからって魔法少女と地底人とユメの母親にコンタクトを取るなんて出来るはずがない。


「ユメの母親だけならまだ分かるよ。だけど、さすがに宇宙人とリアの監視をしてた地底人をたまたま見つけるなんて普通の人間には無理でしょ」


「逆かもよ? あっちが雷神達の知り合いである私にコンタクトを取ってきたのかも」


「たとえそうだとしても、その場合は神井さんが私達を裏切ったことになるから同じことだよ」


 風奏からは何も聞いていない。


 つまりは、風奏にコンタクトを取っていたとしたら、風奏はそれを私達に黙っていたことになる。


 脅されていたとしても、それをおくびにも出さないのはさすがに出来すぎている。


「あんまり興味なかったから気にしてなかったけど、神井さんって変なんだよね」


「急にディスるじゃん」


「神井さんの心……考え? っていつも本物って感じがしないんだよ。本心に何かを上から塗って見えないようにしてるみたいな?」


 上手く説明出来ないけど、風奏の心を読むと違和感がある。


 例えば「お腹が空いた」と考えると、大抵の人は授業がいつ終わるかと時計を見ることが多い。


 なのに風奏は私を見ていることが多い。


 もちろん顔に出さない人だっているけど、そんな違和感が毎回起こる。


 言うなれば、人の考えだけをコピペしてるような。


「まだ疑惑の段階だよね?」


「確信ではない。だけど神井さんが普通じゃないのは確信してる」


「まぁいいけど。それより他の子を見てみる?」


 風奏はそう言うと、指を鳴らして空中にモニターを生み出した。


「隠す気ゼロかよ」


「ここではなんでも出来る的な感じで」


「私には出来んし。それよりも」


 モニターではリアとチカとユメが映し出されている。


「やってることはみんな違うけど、みんな同じでか」


「そうみたいだね。戦闘と鬼ごっこと話し合い。誰が一番に脱落するかな」


「そもそも何が目的なの?」


 リアは魔法少女と科学と魔法で戦っていて、チカは見張りの少女から逃げていて、ユメは母親と話し合って涙を流している。


 結局あの三人は何がしたくてこの場を作ったのか分からない。


「あの魔法少女の子は純粋にスティア人だっけ? を殺したいってのと、自分の実力がどれぐらい強くなったか試したいんだって。地底人の子は見張りなんだっけ? なんか罪に問われそうだから先に元凶を消して何もなかったことにしたいみたい。母親のは逆恨みかな?」


「自分勝手な」


「そう? 所詮は人間ってことでしょ」


 そう言われると何も返せない。


 強欲で傲慢で嫉妬深い。


 人間はどこまでいっても人間なのだ。


「最初と質問をまたするけど、あなたは誰?」


「雷神は私に興味津々かぁ、どーしよっかなー」


「話さないならそれでもいい。そのまま逝け」


 私の『普通の女子高生パンチ』が避けられた。


「ちょっとー、私が避けなかったら雷神人殺しになってたよ?」


「ただの女子高生の拳で人が死ぬ訳ないでしょ。ただの女子高生が死角からの拳を避けられるとも思わないけど」


「確認の仕方に人生賭けすぎでしょ」


 風奏は大袈裟に言うが、ただの女子高生の拳で死ぬようなら世間の女子高生の大半は人殺しになる。


 そして今頃法律で女子高生は人を殴ることが律せられている。


「どこまで本気で言ってるのか分からないんだよなぁ……」


「全部本気だけど? それより隠す気なら?」


「ありゃ」


 私がそう言うと、風奏が地面に降り立った。


 私の拳を避ける為に風奏は飛んだ。


 文字通りに飛んで、浮いていた。


「まだこの空間のせいにする?」


「それでもいいけど、まぁいっか」


 風奏が息を「ふっ」と小さく吐くと、その身が変わる。


 見た目はそのままで、服装が右肩から腕が全てあらわになった白い服。


 正直な感想はエロい。


「どう? 雷神の好みに合わせつつも、それっぽさを出してみた」


「そういう服って、クレーンゲームみたいだよね」


「どゆこと?」


「クレーンゲームって取れそうで取れないじゃん? そういう服も見えそうで見えないし、ポロリもしそうでしない」


 服なのだから当たり前だけど、左肩に掛かっている部分が落ちたら全てが露になるなんて、男心をくすぐる服だ。


 私は女だけど。


「そういう服を着る人って見られて興奮するタイプなの?」


「まぁ男を釣る意味もあるんだろうね。私は雷神を釣れればそれでいいけど」


「正直釣られた。その左肩の布を掴んで思いっきり下に下ろしたい」


「普通にやばいからね、それ」


 自覚はしている。


 だけど本能には逆らえない。


「それで結局あなたは誰?」


「あれ? 見た目から入ったつもりなんだけど。じゃあこれならどう?」


 風奏はそう言うと、何もないところから漫画とかでよくある先がぐるぐるした木の杖を生み出した。


「どう?」


「老魔法使い?」


「誰がおばあちゃんだ!」


 いいツッコミをありがとう。


 だけど風奏が小さく「実年齢は確かにおばあちゃんかもだけど……」と言ったのは聞かなかったことにする。


「いい? 私はね──」


「神様なんだね」


「……雷神のそういうところ嫌いだけど好き」


 なんとなくそんな気がした程度だけど、あの見た目で老魔法使いでないのなら神様しか思いつかなかった。


 思い返してみると、風奏は前から自分の正体を教えてくれていた。


 リア達が転校してきて、私が三人に学校案内していた時、風奏は紙探しをやらせてきた。


『紙』と『神』が掛かっているのかは知らないけど、その時の答えが『DOG』で犬だと思っていたけど、本当の答えは逆で『GOD』の神だ。


 気づけるか!


「ていうかそんなエロい神様はいないから」


「だからこれは雷神の好きそうな見た目にしただけなの! 普段はもっと普通な服着てるもん。見る?」


「いい。そっちのが目の保養になるから」


 風奏だって見た目は可愛い女の子だ。


 そんな女の子が肩出しのエロい服を着てるのなら、ずっと見ていたい。


「ポロリ期待ね」


「しないから。神の謎パワーで絶対にしないようになってるから」


「じゃあ脱がしたら私の勝ちか」


「なんの勝負……」


 私の伸ばした手は簡単に避けられた。


 確かになんの勝負かと聞かれたら分からないけど、なんとなく勝たなければいけない気がした。


「神井さんも何か私に用があるんでしょ?」


「そだね。実はこの体って借り物なんだよ」


「憑依してんのか」


「そ、んでこの体よりも雷神の体の方が利便性がいいかなって思ってさ」


 私の体に人より優れたところなんてないはずだ。


 強いてあると言うなら、相手の考えが少し分かったり、嘘泣きが得意だったり、他称人より力が強い程度だ。


 そんな私の体を乗っ取るメリットが分からない。


「『なんで私?』って思ってるね?」


「そりゃね」


「雷神を選んだ理由は教えない。そうだね、じゃあさっきの勝負を受けようかな」


「脱がしたらなんでもしていいってやつ?」


「なんか増えてるけど、まぁいっか。私が雷神に服を脱がされたら雷神の勝ちで、この体になんでもしていいよ」


「なんでも……」


 そんなことを言われたらほんとになんでもしたくなってしまう。


 いつもは理性でギリギリ抑えているあんなことやこんなことを……。


「でもいいや」


「あれ?」


「不公平すぎるから」


「私が神だからズルするとでも? ちゃんと雷神のスペックに合わせるよ?」


「違うよ。私が勝ったら、あなたの本体になんでもしていいって事ならやる」


「……」


 風奏の望みは知らないけど、私は私を差し出すのだから、風奏は本来の自分の体を差し出すのが道理だ。


 本物の神様の体にも興味あるし。


「わ、私って顔良くないかもよ?」


「じゃあ私が勝ったらその体から出てって。元の子を無理やり襲うから」


「それは人としてどうなの?」


「人の体を乗っ取ってる奴が言うことか?」


 正直風奏の本体の顔が可愛いかどうかなんて関係ない。


 いつも余裕な風奏が恥ずかしそうに悶える姿さえ見れればそれで満足なのだから。


「雷神がエロい目してる。仕方ない、いいよ、私が負けたら私の本体の体を雷神の好きなようにして」


「私はまた一歩、大人の階段を上るのか……」


「勝てたらね。ゲームとしてはかくれんぼでいいかな?」


「いいよ。見つけて剥こ」


「この子に何する気さ」


「リア達にしてる程度のこと?」


 風奏にはそれ以上のことをするとして、とりあえず色んなところをさわさわする予定だ。


「雷神ってほんとにエロいよね」


「そういう気にさせるあなた達が悪いの。私は自分の欲に負けてるだけなんだから」


「まったく……」


 風奏は呆れたように指を鳴らす。


 すると何もなかった空間が遊園地に変わった。


「なぜに遊園地?」


「私、初めてのデートは遊園地がいいから」


「やばい、乙女度で負けた」


 私はそもそもデートをしないで家でのんびりしたい派だ。


 確かにリア達とのデートは楽しかったけど、やはり家でのんびりしたい気持ちには逆らえない。


「じゃあ待ってるね。リミットはあの子達の決着が着くまでにしようかな」


 風奏はそう言って大きな観覧車の車軸の辺りにモニターを出現させた。


「分かった。絶対に剥きに行くから」


「迎えに来てよ……」


 風奏はため息をつきながら姿を消した。


 かくれんぼスタートだ。

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