第26話 急展開

「最近ふと思うことがあるんだよね」


「いきなりどうしたの?」


 私はベッドの上から仲良くトランプで大富豪をしているリアとチカとユメに言うと、圧勝し続けているリアが首を傾げながらそう聞いてくる。


「別にいいんだけどさ、あなた達は当たり前のようにうちに集まるなって」


「だってカミちゃん、バイトある日は遊べないし、ない日もいつの間にか帰っちゃうんだもん」


「いつの間にかではないでしょ。ちゃんとバイバイしてるし」


「確かにしてるけど、カミって気づいたらいないよね」


「急いで追いかけても、廊下に居ないんですよね」


 リアだけでなく、チカとユメまでおかしなことを言い出す。


「そんなに私は影が薄いって?」


「濃くはないけど、薄くはないかな。カミちゃんって異質だし」


「リアがどストレートな悪口言ってるんだけど。きっと悪気はないから一番タチの悪いやつ」


 私が泣いたフリをすると、リアがあたふたと動揺した。


 反応が可愛い。


「リアが可愛いのはいいとしてさ、一緒に帰ることもあるからいつの間にか消えるってことなくない?」


「確かに四人で一緒に帰ることはあるけど、いつもではないでしょ?」


「まぁ確かに私は先に言ってくれないと帰るけど」


 一緒に帰りたくない訳ではないけど、どうせ帰っても誰かしら私の部屋に来るからわざわざ一緒に帰る必要性を感じない。


 それなら一緒にうちに帰ればいいのだけど、私は誘われない限り一人で帰る派の人間だから仕方ない。


「じゃあ一緒に帰る?」


「私達はそのつもりですよ」


「そう。ならそうしよっか」


 こうして私は毎日四人で帰ることが決まった。


「それはそれとしてさ、なんであなた達は部屋の家主をひとりぼっちにして大富豪してるの?」


 遠回しな「一緒にやらせて」とかではなく、シンプルに気になる。


 修学旅行とかならまだしも、うら若き女子高生が、学校終わりに友達の家で大富豪をするのはどういう心境でなのか。


「カミさんってトランプ最強じゃないですか?」


「ごめん、やったことないから分かんない」


 私には一緒にトランプをやるような友達がいないし、父には勝てる訳がないからやったことがない。


「一度もですか?」


「あ、トランプタワーはやったことあるよ」


「普通にすごいやつ」


 と言っても五段で飽きたので、そんなには高くないけど。


「それで私をハブにするのと、私が強そうなのは関係あるの?」


「言い方。えっとカミはいわゆるシード枠なの。とりあえずこの中で一番強い人を決めて、その人がカミに挑む」


「勝手に話進んでるけど、それで?」


「それだけ」


「……私をぼっちにする必要あるの?」


 それなら最初から一緒にやっても変わらない気がする。


 そうじゃなくても説明してくれてもいい。


「カミちゃんを一人にしたのは、可愛いカミちゃんを見たいから」


「リア嫌い!」


 私は不貞腐れて枕に顔を埋める。


「やっぱり照れたり不貞腐れるカミちゃん可愛い」


「右に同じ」


「えと、左に同じです?」


 右に同じは右の人と同じ意見という意味ではない。


 それを知らずに左に同じと言ったユメの方が抜群に可愛いだろ、と言いたいけど、顔を上げたくない。


「可愛いカミちゃんを見れて、また私が勝ったから終わりにしようか」


「カミ強すぎでしょ」


「やっぱり地頭の良さでしょうか?」


「まぁジョーカー入れて五十三枚のカードを三分割して、自分の手札と出たカードを確認したらだいたいの手札は分かるからね。後は効率良く出せばいいだけだし」


 リアにとっては簡単なことなのだろうけど、並の人間にそんなことは出来ない。


 自分の手札から相手の手札を予想して、そこから何を出してくるかを当てるなんて。


「百発百中じゃないけどね」


「それでも実際勝ってるんだから」


「二人が素直で読みやすいのもあるんだけどね。それより不貞腐れ中のカミちゃんにいたずらしよ」


「よし乗った」


「……ちょっとならいいのかな」


 リアのおかしな提案にまさかのユメまで賛同するとは思わなかった。


 何かしてくれると言うのなら私は甘んじて受け入れる所存ではあるけど。


「カミちゃん失礼」


「私も」


 リアとチカが私のベッドに上がり、左にリア、右にチカが添い寝した。


「ユメは上」


「上ですか!?」


「だって他に空いてないよ?」


 確かに空いてないけど、そんなことをされたら興奮して三人に何をするか分からなくなる。


(まぁいっか)


 何せそちらからやってくるのだから、やられる覚悟はもちろんあるはずだ。


 そんなことを考えていたら、私の背中に天使が舞い降りた。


「重くないですか?」


「ユメ、一瞬だけどいて」


「はい?」


 ユメが重かったからではない。むしろ軽すぎて不安になるレベルだった。


 どかしたのは別の理由だけど。


「カモン」


「そ、え?」


 私は仰向けになって両手を広げる。


「ユメの体を味わうならこっちのがいい」


「いや、あの……」


 ユメの顔がみるみる赤くなっていく。


「カミ、私達は無視なの?」


「後で可愛がってあげる」


 チカの耳元でそう囁いて、ついでにがら空きな耳をはむはむしたら顔を真っ赤にして黙った。


「私達がいたずらするはずが、逆にやられてる」


「リアは何されたい?」


「んー、カミちゃんにぎゅー」


 リアはそう言ってほっぺた同士をくっつかせるように抱きついてきた。


「無邪気には勝てないか」


「えへ……」


 リアが笑顔から急に険しい顔に変わる。


「どしたの?」


「結界が破られた」


「え?」


 私の家にはリアによって結界が張られていた。


 絶対に役目はないと思っていたのに、その結界が破壊されたと言う。


「ユメちゃん、カミちゃんにくっついて」


「え、でも……」


「早く!」


 恥ずかしがっていたユメだけど、リアの真剣な叫びでそれどころではないことを察し、私にしがみつくように抱きついた。


 こんな状況だからユメの女の子らしい柔らかさを堪能してる暇がない。


「とりあえず守る」


 私達の周りに薄い水色のベールのようなものが張られていく。


「気休めにはなるか、……」


 リアが絶句した。


 気持ちは分かる。


 だって私達もそうだから。


 私達のさっきまで居た部屋は消えた。


 正確に言うなら別の空間に私達が移動させられた。


「リア、これって」


「うん、だけどもう魔法少女はいないはずな──」


 リアの言葉は結界の破壊によって止められた。


「別に強くなりたい魔法少女はあのバカだけじゃないんだよ」


 そう言って現れたのは、軍服を身にまとった女の子。


 どことなく前に見た魔法少女と似ている。


「バカ妹が世話になったようだな。負けたのはあいつが弱かったからだからどうでもいい。だからこれは個人的にだ」


「なんでみんなを巻き込んだの?」


 リアがいつもと変わらない声音で言うが、怒りを潜めている感じがする。


「あぁ、地底人と幽霊だったか? 私はスティア人のあんたに用があるけど、そこの二人にも用がある奴らがいて、私がド派手に暴れられる空間を創っただけだ」


 軍服の魔法少女がそう言うと、後ろからスーツの女の子と、目が虚ろな女性が歩いてきた。


「私の見張りか……」


「お母さん……」


 どうやら現れたのはチカについていた見張りと、ユメの母親らしい。


 何から何までおかしい。


「それなら私達三人だけで良かったでしょ! なんでカミちゃんまで!」


 リアが怒鳴るように叫ぶ。


 ここまで怒っているリアを見るのは初めてだ。


「そこのはただの地球人だったな。言っとくけど、この状況を作らざるをえなくなったのはそいつのせいだからな?」


「は?」


「私達は確かにあんたらを消そうとは思っていた。だけどわざわざ結託する必要なんてないんだよ」


 それはそうだ。


 わざわざ私達が集まるのを待たないでも、一人になったところを狙えば楽に済む。


「だけど、そこの地球人を絶望させたいって狂人がこの状況を作らせた」


(狂人……)


「とにかくだ。私はスティア人のあんたを殺せればそれでいい。だから全員飛ばすぞ」


 魔法少女がそう言って指を鳴らすと、私は一人その場に残され、みんなが消えた。


「私を狙うのとか誰だよ、とか必要?」


「相思相愛の私達にそんなのいらないでしょ?」


 聞き慣れた声が後ろから聞こえてくる。


 なんとなく分かっていた。


 というか私を狙うような奴は一人しかいない。


「説明してもらおうか、神井さん」


「なんでも聞いてよ、雷神」


 そうして私達の戦い? が始まる。

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